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後宮もふもふ事件手帖  作者: 高岩 唯丑
愛があれば

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突然の怒り

「もう何も話す事はありません! 出て行ってください!」


 鋭い眼光に次いで、悲鳴にも似た声をあげるチンイン。それから腕を大きく振りかぶって、こちらに向かってきた。


「出て行って」


 振り上げられた拳が当たる直前で、視界が真っ暗になる。いきなり何が起こったのか分からなかったが、すぐに人の温かみに包まれていると気付いた。


「カ、カイレン様」


 カイレンが私を庇って覆いかぶさったらしい。大袈裟な対応すぎないか。ちょっと腕を盾にするくらいで、よかっただろうに。


 それよりチンインは怒り狂っている。話を聞ける状態ではなくなってしまった。騒ぎが外まで聞こえたのか、女官が大慌てで中に入ってくる。そしてチンインと私達の間に入った。


 そこで突然体が浮き上がる。いや、持ち上げられた。覆いかぶさっていたカイレンが、私を持ち上げたらしい。景色が二転三転してやっと落ち着いた時には、もう外に出ていた。


「さすがに大げさすぎです、こんな持ち上げて連れ出すなんて、早く降ろしてください」


 少し文句を言いながら、軽く暴れる。普通に連れ出せばいいものを。これはちょっと恥ずかしい。


「……ケガをしたらどうする、お前が危ない目に合うのを見てるだけなどできない」


 呟くような声のカイレン。聞こえるのが恥ずかしいのか、それともらしくないと思って声が小さくなってしまったのか。どっちにしてもしっかり聞き取れているが。


 しばらくそのままの状態で移動した後、カイレンは立ち止まって降ろしてくれる。


「すまない……確かに大げさだったかもしれない」


「あぁ……いえ、心配してくれたわけですし」


 カイレンは照れているのか顔を背ける。それにつられて気恥ずかしくなってしまい、私も顔を背ける。向かい合っているのに、顔を背け合っている状態になってしまった。


 結局そのまま期を失ってしまい、沈黙が二人の間に流れる。どうすればいいのか、そんな風に困っていると不意に「すみません」と声をかけられて、少し驚いてしまった。


「な、なんでしょう」


 声の主は一人の女だった。身なりからして下働きの物だ。


 足音に気付けなかった。忍び寄って来たわけではないだろう。私が変な感情に支配されて気付けなかったのだ。そんな自分に恥ずかしさを覚える。


「先日、チンインの事を聞きに来た宦官の方ですよね?」


 女はカイレンの顔をジッと見て、問いかけてきていた。カイレンは女の方に体を向ける。私もそれに倣って体の向きを変えた。


「あぁ、そうだ……お前は」


 カイレンの言葉がそこで止まる。たぶん名前なんて聞いていなかったのだろう。あるいは聞いたが覚えていなかったか。それに気づいたらしい女が頭を小さく下げる。


「失礼しました……桂花グイファと申します」

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