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後宮もふもふ事件手帖  作者: 高岩 唯丑
愛があれば

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琴音(チンイン)

 私とカイレンは女がいる場所へとやって来ていた。牢屋に入れる訳にいかなかったのだろう。そこは普通の部屋だった。女官が二人椅子に座って扉の前にいる。女官の二人に軽く挨拶すると、そのまま部屋の中に入った。


 件の女は寝台に乗って、壁に背中を預けていた。呆けた様に視線を漂わせていたが、入ってきた私達に少し遅れて反応する。女は私を見て、少し目を見開くとすぐ視線を元に戻した。おそらく獣憑きという事に反応したのだと思う。まさか獣憑きの少女がここにやってくるなんて、想像していなかっただろう。


 私は部屋の中に進む。カイレンの足音も続けて聞こえて、その後扉が閉められる音がした。


「こんにちは……えぇと」


 そういえば名前を聞いていなかった。言い淀んでいると、カイレンが耳打ちしてくれる。


琴音チンインだ」


「こんにちは、チンイン」


 かけた声にまるで反応しない。何を聞いても黙ったままという事だから、もちろん私にも同じ対応という事だ。期待はしてなかった。私だけペラペラ話してくれるなんて、そんな都合のいい話はあり得ない。もしそんな事をしてきたら、罠を疑わなければいけなくなるところだった。ある意味よかった。


 先ほど移動しながら、カイレンから詳しく聞いた話を思い出す。何から聞いたものか。


「……妊娠が発覚したのは、医官の所に連れて行かれたからでしたよね?」


 チンインは割と健康体で、滅多に体調を崩す事がなかったらしい。だが数日、誰が見ても明らかなほど体調が悪そうだった。本人は大丈夫だと言っていたが、滅多にない事だったために、同僚が無理やり医官の所に連れて行ったらしい。


「医官の所に連れていかれる時、抵抗したそうですね?」


 チンインが少し体をよじらせた。反応があった。攻め時と思い、質問を重ねる。


「妊娠しているかもしれない、と自覚があったから抵抗したのではないですか?」


 反応は無かった。表情も変化しない。しかし、心の臓は違った。その質問で大きく脈打ったのだ。無反応を貫いているが、何かあるのは確実だった。


 妊娠したかもしれないという自覚があったという事は、つまりそういう行為をしたという事実があったから。そして、抵抗したのはバレると、良くない行為をした証拠になるから。自分が後宮を抜け出した証拠になる。男を後宮に引き入れた証拠になる。その他にもあるかもしれないが、概ねそういう証拠になりかねない。


 あるいは帝が相手なのだろうか。そうなのであれば、隠す必要はあるのだろうか。苦労はするが、晴れて上級側妃の仲間入りだ。いや、それが嫌で黙っている可能性もあるかもしれないが、帝までそれに協力する義理があると思えない。

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