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後宮もふもふ事件手帖  作者: 高岩 唯丑
プロローグ
2/90

保護されたという事

 獣憑き。この世に突然、現れた病の様な物。普通の人間に、ある日突然動物の耳と尻尾が生えてくる現象。そんな物がこの世には存在している。


 獣憑きは世の中から迫害されている。まぁ、突然耳や尻尾が生えてきた人間を歓迎できる人はそういないだろう。当たり前といえば当たり前だ。


 獣憑きになった人間は、石を投げられ追いやられる。ペットの様に売り飛ばされる。運が悪ければ、なぶり殺されてしまう。明るい未来はやってこない。


 私はそんな獣憑きになってしまった。商家で下働きをしていた私は、すぐに逃げ出したけど、たぶん一緒に働いていた誰かに見られていたのだろう。私を捕まえるための追手が来ていた。私の主は、私をペットとして売り飛ばす事を考えたらしい。商家の主人らしい決断だと思う。


 何とか逃げているうちに、街中の人が私に気が付いた。それからはひどい目に合った。石を投げつけられて、逃げ回って。もしかしたら、売り飛ばされた方がマシなのかもしれない。そんな風に思った時、投げつけられた石の当たり所が悪くて、気を失ったんだ。


「……私は売られてしまうのですか? もしくはすでに売られたのでしょうか?」


 もしそうなら運が良かったかもしれない。メイユーは今のところとても良い人だと思う。気持ち悪いオジサンに弄ばれるより、よほどマシだ。


 メイユーの後ろに控えている二人に視線を移す。目隠しをしている方の女の子は犬の物に思える耳が頭にある。尻尾もあるはずだ。今は垂れ下がってしまったのか見えない。先ほどは音がするんじゃないかと言うほど左右に振られていた。


 力自慢という感じの方は、頭に丸っこい耳がある。熊の物だろうか。だとしたら尻尾は短いだろうから、服の中にあるという事か。


 二人とも不幸という風には見えない。むしろ生き生きとしている。ここは獣憑きにとっては悪い所ではないのかもしれない。


「シャオグー、違う、ひどい目に合ったからそう思ってしまうのも無理ないけど、メイユー様は」


 目隠しをした女の子が悲しそうに口を開いた。私の間違いを正そうという感じ。私の問いかけは間違っていたのかもしれない。


「ミンズー、大丈夫、ありがとう」


 メイユーが声をあげた。とても優しさを込めた声だ。目が見えないから、表情で読み取れない。だからできるだけ声を優しくしているのかもしれない。気遣いに溢れる行動。


「信じてもらえるかわからないけど」


 悲しげな表情を浮かべたメイユーが、そう前置きをしてから話を続ける。


「私はあなたを、シャオグーを保護したの、売り飛ばすつもりもないし、イジメるつもりもないわ」


 そこまで言ってメイユーは悲しげな微笑みを浮かべる。まるで自分を責めているかのような、そんな微笑みにさえ見える。


「という訳で、アタシ達の自己紹介をしようか、お前と同じ様に保護されたアタシ達が」


 熊の耳を持つ彼女がニカリと笑う。メイユーはそれを見てすべて吹き飛んだという感じで「そうね」と笑った。主人よりも先に自己紹介とは、なかなか自由な人だと思う。


「アタシはユンだ、熊の獣憑きだ、メイユー様の護衛兼侍女」


 ユンがそう言った瞬間、後ろに控えていたチュウが呟く。


「正しくは侍女兼自称護衛ですけどね」


 ユンは気づいていないようだ。


「よろしくな!」


 そう言って、ユンは拳を胸の前の辺りで握り締める。


「じゃあ私の番ね」


 ミンズーが声をあげる。腰の辺を見ると尻尾が左右に振られていた。


「私は明珠ミンズー、メイユー様の毒身役、犬の獣憑きだよ」


 目が見えないから侍女は難しい。だから毒身役か。何というか、それでも仕事をさせるメイユーは……。


「勘違いしなでもらいたいのは」


 私の思考はミンズーの言葉で遮られた。


「私には侍女が難しい、でもメイユー様の役に立ちたいから、私の意思で毒身役になったの、あなたひねくれてそうだから、悪い方向に考えそうだし、そこはハッキリさせとく」


 読まれていた。それにしても、ひねくれてるから悪い方向に考えそうか。まぁ否定はできないから、その件については何も言わないでおく。


「ところで、もしかしてその目は獣憑きになった時に……」


 私の問いかけで、ミンズーの尻尾の勢いが失速した。


「それも隠せることじゃないし、言っておくね」


 ミンズーが目隠しに手をかけて、一気に外す。現れたのは両目とその付近に、生々しい傷跡がある顔だった。もう治っているのに、痛々しい。


「いつも目隠ししているのは、こういう事……」


 それからミンズーは目隠しを戻しながら言葉を続ける。


「獣憑きになった時に暴力を受けて、目をケガして見えなくなった」


 しっかりと目隠しを着け終わったミンズー。それから笑顔になって尻尾を振り、口を開く。


「でもメイユー様にお仕えできて、とっても幸せ」


「わかった、ありがとう」


 それだけ言って、二人を見比べる。ユンはそれほど深刻な物が見えないけど、少なくともミンズーはこれだけの目に合っても、幸せと言った。なぜだかわからないけど、嘘はついていないと言い切れる。


「……保護の話、信じます、ありがとうございます」

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