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後宮もふもふ事件手帖  作者: 高岩 唯丑
お菓子横領事件
19/90

この部屋から出しませんからね

「何かと思えば……菓子ぐらいでそんなに騒ぐなよ」


 ため息まじりでユンが呟いた。やれやれといった感じで、小さく顔を横に振っている。それを聞いてミンズーは、怒りがさらに燃え上がった様に声を荒げる。


「菓子ぐらいって! 楽しみにしてたのに!」


 そう言って両手をブンブンと振った。相当お怒りの様だった。月餅一つで大げさである。


「とりあえず落ち着いてください……本当に月餅が無くなったんですか? 別の場所にあるのでは?」


 妙に真剣な感じのチュウの言葉。確かに目が見えないミンズーでは、場所を間違っている可能性はある。だが、しっかり探したらしいミンズーは顔を横に振った。


「間違いなく、無い! 探したし、何より匂いがしなかった!」


 そこまで言って、ミンズーが鼻をヒクヒクとさせる。このお香の匂いが充満している部屋で、そんな事をしても無駄な気がするが。


「確信した、ここにいる誰かが食べた……部屋にお香の匂いが充満してて嗅ぎ分けられないけど、かすかに月餅の匂いがする!」


 この状況でも嗅ぎ取れたらしい。一応自分でも匂いを嗅いでみるけど、全然わからない。月餅への執念なのか、ミンズーの嗅覚の能力が私よりはるかに高いか。


「あ、アタシ達を疑うのか」


 なぜか少し弱気なユンが口を開く。


「匂いがするのは事実なんだから、当たり前でしょ!」


 弱気のユンの言葉を打ち砕く様に強気のミンズー。それから突然、一度深呼吸をすると落ち着いた表情を見せる。


「月餅を全部食べちゃったのは誰ですか? 先生怒らないから素直に名乗り出なさい」


 突然何を言いだすのか。というか先生ってなんだ。唐突すぎて意味が分からない。その場にいるみんなが戸惑っていると、落ち着いた怒りが再燃したようにミンズーが声を荒げる。


「犯人がわかるまで、この部屋から誰も出しませんからね!」


 ここから出さないって。私は皆の顔を見渡す。それぞれが違った表情を浮かべていた。少なくともこの状況を喜んではいない。



 私は状況を整理するために考えていた。大事に残しておいた月餅が何者かに食べられてしまったとミンズーは言っている。犯人はここにいる誰かであるとも。月餅の匂いがかすかにするから、というのが理由らしい。かすかにしかわからないのは、焚かれているお香の匂いのせいだ。この状態だと口元で匂いを確認してもわからないだろう。いや、ミンズーならわかるかもしれない。というより、お香の匂いの外に出て確認すれば良いのだが。ミンズーがそれに気づかないのは運が良い。


 月餅を盗み食いしたのは私だ。自分の不利になる事を、わざわざ教えてやる必要もない。

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