表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮もふもふ事件手帖  作者: 高岩 唯丑
お菓子横領事件
18/90

事件発生

 一仕事終えた後の日差しはなんだか気持ちいい。そんな事を思いつつ、メイユーがいる部屋へと私は戻ってきた。部屋の前に立つと中から何やら甘い匂いが漏れだしてきている。お香だろうか。


「失礼します」


 部屋の前で声をかけて扉を開くと、中から甘い匂いが流れ出てくる。頭を軽く下げてから部屋に入ると後ろ手に扉を閉めた。


「いい香りでしょ、良い物なのよ、たまにはいいでしょう、フフ」


「はい……いい香りです」


 メイユーは上機嫌だ。何かあったのだろうか。メイユーはお香を焚く事はあまりない。こうして焚いているのだから、嫌いという事ではないと思うが。もしかしたら、匂いが強い物を避けているのかもしれない。ミンズーは毒を匂いで嗅ぎ分ける。その能力の邪魔になってしまうから。


 それにしても、鼻が良くてもこういう香りが強すぎて辛くなったりしないのは、不思議だ。普通に楽しめる。


「いい匂いだ」


「ユンにそういうのが分かるんですか?」


 ガサツなユンに、繊細なお香について理解できると思えなかった。くさいとか言いそうな気がしていた。


「いい匂いかどうかぐらいわかるわ」


 心外という感じで、ユンが声をあげる。繊細な事はわからない、という自覚がありそうな言葉だ。そのやり取りにチュウが微笑む。


 どうして、チュウがお香を焚かなかったのか。メイユーが自ら焚いているのはどうしてか。ふとそんな事を思いつつ、わざわざ問いただす事でもないと思い直す。


「あれ?」


 外から足音が聞こえてきた。何というか慌てているというか、怒っているというか。騒がしい感じの足音だ。重みを感じない足音だから、今ここに居ないミンズーだろうか。


「どうしたのかしら?」


 メイユーに問われて、返そうとする。だがそれより早くミンズーが部屋の前に到達した。鼻息が荒い。やはり怒っているだろうか。


「どこを探しても無い!」


 声を荒げながら扉を開けたミンズー。一瞬、驚いた様な顔をしてから、おずおずと声をあげる。


「あれ? 誰かいるよね? 音はするけど」


 目が見えないミンズーはその場の状況を確認するのに、嗅覚と聴覚を使っている。その嗅覚がこのお香のおかげで上手く機能しなかったのだろう。そのせいで不安になってしまったという感じか。


「フフ、いるわよ」


 メイユーのあげた声の感じが少し違う。そう思ってメイユーの顔を見ると、ニヤリと笑っていた気がした。でもすでにいつもの微笑みに戻っている。見間違いだろうか。


「どうしたのかしら? とりあえず中に入って、扉を閉めて」


 言われるがままミンズーは中に入ると、扉を閉める。お香の匂いの空白部分がすぐに埋められた。


「大事に取っておいたお菓子がなくなってるの! 誰か勝手に食べたでしょ!」


 そして、思い出したようにミンズーが声を荒げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ