愛らしい動物が好き
そういう事か。私を見て、その犬を思い出していたのだ。私の髪は銀髪だから、近い色ではある。厳密には違う色だが、思い出す要素としては充分だ。
カイレンはその犬を可愛がっていたが、子供の頃の話だ。おそらくその犬はもう居ない。私を撫でようとしていたのは、その犬と私を重ね合わせての事だろう。意外だった。そんな風に、過去の思い出を持ち続ける人間には見えなかった。
私は少し想像してみる。カイレンが微笑みを浮かべて、犬を撫でている姿を。話を聞いていなかったら想像することは無かった。カイレンにはおよそ似つかわしくない姿だ。
「……カイレン様が犬好きとは」
少し頬がほころんでしまう。
「なんだその顔は」
「いえ、なんでもありません」
急いで表情を戻して、澄ました表情を浮かべる。それでも少し余韻が残ってしまい、微妙な表情になっているのが自分でもわかってしまう。カイレンもそれに気付いたのか、声をあげた。
「勘違いするな、あ、愛らしい動物など、好みではない」
カイレンから嘘の反応を認める。というか自ら白状している。愛らしい動物が好きらしい。
「私は、カイレン様は犬好きとは、と申し上げただけです、愛らしい動物好きとは、と申しておりません、でもカイレン様は愛らしい動物は好みではないと否定しました、これは自覚があったから、そう否定してしまったのでは?」
「そんな、事は無い」
また嘘の反応。というか目もそらした。私じゃなくても確信できるほどにわかりやすい反応。もう確実に愛らしい動物が好きでいいだろう。
「まぁそういう事にしておきましょう」
「……もうよい」
カイレンの声は機嫌を損ねた、という感じではない。しかし、少し調子に乗ってしまった様だ。つい楽しくなってしまって。この人は見た目と違って、案外可愛い人らしい。しかもそれをバレない様に必死で隠しているというのも面白い。
あれ。というか私を撫でようとしたという事は、私の事も愛らしいと思っているという事だろうか。
「……ぬ」
ふとした拍子に変な事を考えてしまった。やっぱり調子に乗ってしまっているらしい。自意識過剰が過ぎるだろう。すこし顔が熱い。
遠くからメイユーたちの足音が聞こえてくる。この顔の赤みがバレてしまわない様に立ち上がり、出迎えるために扉の方に移動した。これでカイレンには背を向けた状態だ。顔は見えない。
「撫でさせてあげません……素直に言ったら考えなくもないけど」
かなり小声でついそんな事を口にしてしまった。多分聞こえていないはずだ。何を言ってるんだか。私は。