思い出した事
「人聞きの悪い言い方をするな、私は後宮内を巡回しているのだ、帝や皇后、上級側妃達に困りごとが無いか、警備として日頃から様子を見ている、それに毎日見ている事で後宮内の異変に気付ける」
なんだか必死で言い訳している様に聞こえてしまう。警備というのは、そんな話をひたすら捲し立てるカイレン。言葉を重ねる毎に、墓穴を掘っている気がするが大丈夫だろうか。
「だから、お前の尻尾を撫でたいなんて、そんな事を考えて、ヨウズデンへ出向いたわけではない」
「あぁ、はい、わかりました」
「本当に分かっているのか、シャオグー」
「理解しましたよー、警備の為に来たのですよね」
これ以上は面倒くさい。カイレンの言葉へ適当に頷きながら、ヨウズデンへと歩を進める。
ヨウズデンへと到着すると、カイレンは客室の椅子に腰かける。メイユーの頼まれごとは終わっただろうに、まだ帰らないつもりらしい。もしかしてまだ私の尻尾を撫でる事を、諦めていないのだろうか。しょうがないので部屋の端に控えておく。許しが出るまで、勝手に離れる訳にもいかない。
「……お前も座ると良い」
カイレンがこちらに顔を向けると、そう勧めてくる。
「しかし」
いくら何でも、それはいけない。身分の低い私が、身分の高いカイレンと一緒にくつろぐなど。
「よい……咎められたら私が謝罪する、無理に座らせたのだと説明する」
良いと言われても、ここはカイレンの部屋ではない。まぁ、メイユーはそんな事で怒ったりしないと思うが。それにカイレンが弁明してくれるのなら。そんな風に考えて、勧められるがまま椅子に座っておく。
しばらく沈黙が続いて少し気まずくなり、どうしようかとカイレンの方を見る。するとカイレンはこちらをじっと見つめていた。
「なんでしょうか」
やっぱり尻尾を撫でる事を諦めておらず、虎視眈々と狙っているのだろうか。少し咎める様に声をかけると、申し訳なさそうにしてからカイレンが口を開いた。
「いや、すまない……先ほど昔の事を話したおかげで、思い出した事があってな」
私から視線を外すと正面に向き直り、カイレンはどこか別の場所を見ている様な目をする。その昔の事と私を見つめる事にどんな関係があるのだろうか。そんな事を考えながら次の言葉を待っていると、ややあってカイレンが呟いた。
「昔……可愛がっていた犬がいてな……灰色の犬だった、汚れてしまって白が灰色になっていたのだが」
そこまで言うと、黙ってしまった。それから少しして「今のは忘れてくれ」と少し寂しそうに漏らす。