色気
というか、やっぱり尻尾に触れたいだけではないか。何かと理由をつけて、触ろうとしている気がする。一歩下がってカイレンとの距離を離して、問いかけた。
「やっぱり、私の尻尾に触れたいのですよね?」
「そ……んな訳な、かろう」
伸ばしかけていた腕を引っ込めて、カイレンが視線を泳がせる。それからすぐに持ち直した様だけど、やっぱりあの匂いがした。心の臓が早鐘を打っていた。
私は確信した。これが嘘の匂い、嘘の反応。相手がどんなに平静を保っていても、これだけは隠せない。そんな反応に気づく事ができる。獣憑きは、というより獣憑きの能力を生かせば嘘を見抜く事ができる。これが獣憑きの力。私の力。
「……そうですか」
とりあえず、それだけ言ってヨウズデンに向かって歩みを再開させる。問い詰めても意味がない。そんな事をして機嫌を損ねて、立場を悪くしても損なだけだ。それに嘘をついている確証はあっても、証明する証拠が今のところない。とりあえず保留。害がある訳ではないし。
「まて、一人で行くな」
早足で駆け寄ってくる足音が聞こえる。そうして隣まで追いつくと、カイレンは私に並んで歩き始めた。しばらく無言で歩き続ける。気まずい。何も話さずに歩いていると、とても気まずい。
歩いていてふと気づくと、遠くの方できゃぁきゃぁと騒ぐ声がしている。なんだろうと、そちらの方を見やると、遠巻きに下働きの女たちがこちらを見ていた。結構たくさんの女たちがこちらを眺めている。距離が遠いからはっきり何を言っているかわからないけど、どうもカイレンを見て騒いでいる様だった。人気があるらしい。
一緒にいる私が獣憑きで、本来憎々しい目で見られているはずなのに。それが無いのはきっと、カイレンの美しさで私なんて目に入らないからなのだろうか。メイユーがカイレンに頼んだのはこの為かもしれない。
カイレンを見てみる。その横顔には厳しさが見えるけど、それが何とも言えない色気を醸し出している。
「なんだ? ……む、顔が赤いな?」
「はうっ、あぁえええぁの」
つい見とれてしまった。顔まで赤らめていたらしい。恥ずかしい事を。私はそんな事に、うつつを抜かしていられるような立場にないのに。カイレンに問いかけられて、慌てて取り繕う。とりあえず何か返さなければ。
「あぁ、あの……カイレン様はどのような職務をされているのですか?」
少し訝しむ様にしてから、カイレンは言葉を返してきた。
「私は、後宮全体の警備を統括している」