後宮内部
「ちなみに」
カイレンが呟く様に言った。
「下級側妃はかんざしではなく、それぞれが何か揃いの装飾品を身につけている、何もつけていないのは、下働きの者だ」
それを知った所で、どうする事もない。誰かをイジメるつもりもないし、誰にでも礼を欠くつもりはない。恐らく獣憑きは全ての人間より下に見られる。例え第二側妃の侍女だったとしても。わかりやすい攻撃は無いだろうが、相応の態度をとられる。だからこそ頭を下げるのが重要になるだろう。
「かんざしを身につけていれば、後宮内のたいていの場所は入れてもらえるようになるわ、ちょっと強引に入っても何も言われないわよ」
メイユーがイタズラっぽく笑う。権力をかさにして強引な事も通してしまえるという事だ。礼を欠くつもりはないから、そんな事をするつもりはもちろんないが。
「いえ、メイユー様、どこでもというのは少し間違っているかと」
少し頭を下げてからカイレンが訂正を入れる。それを聞いて、メイユーは思いついたように声をあげた。
「あぁ、私は第二側妃だから、白桃殿と葡萄殿だけは用がない限り難しいわね」
場所の名前を言われてもわからない。メイユーより上位なんだとすれば、皇后と第一側妃の居所だろう。
「場所の名前を言われてもわからないだろう、そこの事も含めて教えてやろう」
「よろしくお願いします」
カイレンの言葉に軽く礼をして、感謝を伝えた。
「それでは、後宮内の案内をしてきます、行くぞ、シャオグー」
「よろしくね」
メイユーの言葉にカイレンが軽く頭を下げると扉に向かう。私はそれに続いて部屋を出た。
それからカイレンから説明を聞きながら、後宮内を歩いた。とんでもなく広い。各場所の入り口付近だけの案内だったからよかったが、中の隅々まで案内されていたら、相当の時間がかかっただろう。たぶん一日では終わらない。今後この中で働くのか。主にヨウズデンで働くのだが、何か用事を頼まれてどこかに行くような事もあるかもしれない。その為に各場所の名前と位置は覚えなければならないだろう。
後宮は六つの区画に分けられているらしい。白桃殿は帝と皇后の居所。後宮の入り口から一番遠い場所。入口から見て正面の一番奥にある場所だ。
葡萄殿が第一側妃の居所。入口から見て右奥に位置していて、バイタオデンより手前の場所。
ヨウズデンはメイユー様の居所。プータオデンと道を挟んで向かいで、入口から見て左奥にある。もちろんバイタオデンより手前だ。
さらにその手前には第三側妃の居所、石榴殿がある。プータオデンの隣で、ヨウズデンからは、はす向かい。そのシーリウデンから道を挟んで向かいにあるのが下級側妃たちが住まう寝所が集まっている場所だ。ヨウズデンの隣になる。