黄色のかんざし
「……何か用事が?」
少し残念そうにカイレンが振り向く。
「そう、お願いしたい事があって」
微笑みながらメイユーが部屋に入ってくる。その後についてチュウも入ってきた。その最中に小さく頷いてくる。逃げた訳ではなかった様だ。ありがとう。私も小さく頷いて返した。
「シャオグーにね、後宮を案内をしてほしいのよ」
「え……そんな、カイレン様のお手を煩わせる訳には」
私はメイユーの提案にすぐさま口をはさむ。さすがにそんな事をしてもらう訳にはいかない。自分の様な身分の者にはそんな贅沢な事はさすがに。
「後宮内なら……一人で見て回ってきますので」
それで十分だ。わからなければ人に聞けばいいし、それで嫌な顔をされても、偉い人に案内させるなんて事をしないで済むなら安い物だ。そんなに悪い案ではないと思ったが、それを聞いたメイユーは渋い顔を浮かべる。
「かんざしを用意できてないし、その状態で一人で歩き回らない方がいいわ」
自分の髪に刺してあるかんざしを、メイユーは軽く撫でる。そういえば、みんな同じ黄色のかんざしを帯に刺していたと思う。チュウに目を向けると、同じ黄色いかんざしを帯に刺している。やっぱり。
「もしかして、ヨウズデンにお仕えしている事を示す身分証の様な物ですか?」
「さすがシャオグー」
正解だったようだ。メイユーが微笑んで続ける。
「皇后さまと上級側妃はそれぞれのかんざしを持ってるの、それと同じ物を自分に仕えてくれている者に渡しているわ、まぁ配慮よね」
苦笑するメイユー。そういう配慮のおかげで、自分の主より上の主に仕えている者に礼を尽くせるという事か。ひねくれた考え方をすれば、イジメる相手を選べるという所だろう。苦笑した事からして、メイユーが考えたのは後者かもしれない。
「それから何も身につけずに後宮内にいると」
そこまで口にしてからメイユーは言い難そうに続ける。
「……あなたの場合、あまり良くない事になってしまうかもしれない」
良くない事。恐らく獣憑きが身分証も無しにうろついていると、身が危険かもしれないという事だ。一人で後宮内を見て回るのは諦めた方が良い。申し訳なさと、理由をつけて触ろうとしてくるかもしれないという疑いで、カイレンに案内してもらうというのが少し気が引けるが。ともかくメイユーがカイレンに頼むという事は、他の者は手が空いていないという事なんだろう。
「……理解しました」
「……ごめんなさいね」
どういう意味の謝罪か、この人の人の好さから簡単に理解できる。
「メイユー様が謝る事では」
何も悪い事はしていない。謝る必要などないのだ。