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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第一章 一縷の希望
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広がる絶望

 哉人と将春の二人は黒服を4人まで減らしていた。リーダーこそ高い技量は持つものの華族の中でも指折りの実力者。哉人は橘氏の配下で最も強く、将春も次代の平家の最高戦力となることが期待されている。そんな二人には黒服のリーダーも一対一では勝てない。

 よって、二人が取った戦法は一人を孤立させ、下半身に傷を与え、ビルからビルへと飛び移って逃げる。これを繰り返すことで少しづつ削って来た。


「あと少し…」

「そろそろ切り札の切りどころかな?」

「あっ、バレてるか」

「君、今の今まで殺意も敵意もしっかり抑えて冷静に立ち回っているからまだ手札があると見え見えなんだよ」


 そういう将春も冷静に捌きながら相手の隙を伺う。そんな話をしながらあしらわれては黒服たちの面目丸つぶれというもの。

 一気にテンポが上がって二人を攻め立てるも全く戦況に変わりがない。勢いで詰めたところで簡単には崩れない。


「じゃあ先に俺から行こう。『空震』!」


 哉人が一歩前に出て神通力で指向性の衝撃波を発生させて黒服たちの三半規管を揺さぶる。ビルの屋上という風が強くバランスを崩しやすい状況ではより効果的に作用した。

 黒服たちは皆立っていられなくなり、転がったり膝立ちになる。


「じゃあ次は俺だな。『霞打ち』!」


 術符を刀に走らせると術符が消えて刀に水がまとわりつく。そのまま刀を振ると水が霞となり、剣速そのままのスピードで叩きつけられて全員を一網打尽にする。

 二人共相手をしなくてはならない人数が多いうちはとにかく隙を晒さないように立ち回っていたため妖術や不慣れな神通力を使わずに戦っていた。

 この二連撃で黒服はついにリーダ―1人だけが残ったがリーダー自身も最早二人相手には勝てないことを悟る。

 

「逃げれば良かったものを」

「ふ…ふふ、我々は主君に出会わなければ無戸籍無国籍で人生を終えただろう。だがこの世の地獄の中に主君は希望となったのだよ」

「その地獄も行政の軛を外れた無法者が作り出したものだろうに。お前もお前と同じ境遇の者たちを作り出す片棒を担いでいたんだよ。希望?お前は希望を地獄に投げ捨ててるじゃないか」

「世間はきれいごとだけでは回らないのだよ」


 最後の矜持として立ち上がろうとするが哉人は峰打ちで意識を奪う。


「お前は肥えたことでかつての自分を忘れてしまったんだな」


 憐みの目で黒服を見ながら黒曜を鞘にしまう。気づけば大分移動した末に大通りの端のビルにたどり着いていたようで地獄の行進を続けるデイダラボッチの巨大な背中が見える。

 時刻は午後10時を過ぎ出おり、デイダラボッチの行進は既に3時間以上続いている。この大通りは東洛都のターミナル『土岐(とき)』駅まで続いている。デイダラボッチはその駅の駅ビル目掛けてのっそりのっそりと少しづつ進む。



 その動きを止めようという試みは直接デイダラボッチへの攻撃を試みる四摂家の部隊が行っていた。


「放て!」


 デイダラボッチよりも先回りして準備を整えていた摂家の筆頭、藤原家の部隊が大砲からワイヤーアンカーを射出してデイダラボッチに突き刺す。デイダラボッチの巨体は液体のように内側は流動的になっていたが、妖術で表面を貫通したところで固着させ、ワイヤーで引っ張って足の動きを止める。


「あまり長くは持たんぞ!」


 藤氏部隊を率いるのは藤原瞳子(とうこ)。現藤氏長者の長子であり、しばしば多忙な長者の名代を務める才女であり、既にその名は社交界にも広く知れ渡っている。


「助力感謝するよ」


 ワイヤーを利用しながら垂直に登っていくのは源義臣。大太刀を首筋に突き立て、振り抜く。しかしデイダラボッチは血を流すようなこともなく、そして傷が閉じていく。


「ダメだ!核を破壊しなければどんなダメージもあってないようなものだ!」


 義臣は単体の戦力に特化しており、探知することにはあまり長けていない。これでは時間がかかりすぎてしまう。


「召喚陣から召喚されている以上召喚者が死ねば此岸への楔が失われて実体を維持できなくなるだろう。だが万が一召喚者を取り込まれてしまえば召喚陣に縛られなくなり手が付けられなくなるぞ!」

「最悪の場合、彼岸から天の御使い様を及びせねばならんか」


 平将重もどれだけ地べたの妖魔を倒そうとも肝心のデイダラボッチを倒さなければ百鬼夜行は終わらない。


「将重殿、一人を守るために洛都を灰燼に帰してもよいとお考えかな?」

「倒せぬと判断するには早計だと言っている」

「揉めないで頂きたいなご両人」


 冷酷に算出した藤原瞳子と親しみを持っている千沙希を助けたいという平将重の意見が対立する。しかし仲間割れを起こしている場合ではないと源義臣が仲裁する。


「ひとまずは橘千沙希を捜索するべきではありませんか?デイダラボッチよりも先に確保できれば少なくとも今の状況を保てるんですよね…?」


 恐る恐る先程何とかわずかながら手柄をあげた源進九郎が進言する。先程よりは自信がついたのか少し声に張りがある。


「それなら既に我ら藤氏の旗本を散らして捜索している。だがまだ見つかっていない」

「そうですか…そうだよねまず召喚者を探すよね当たり前だよね何言っているんだろう俺は」


 一瞬で卑屈ゲージが満タンになった進九郎はすごすごと引き下がり久我義照に慰められる。


「いや、着眼点は悪くないぞ。少し討伐の戦力を割いて捜索に回そう。よいか?」

「平氏部隊に限り、ならばな」


 平将重は重量のせいで身動きが取れないが配下は機敏に飛んでいく。あまり藤原瞳子は気乗りしていないようだ。

 だが倒せるかもどうかわからないのに兵を遊ばせる余裕もない。地方からも戦力が集結しつつあるが最早兵力の問題ではなさそうだ。



 その背後の妖魔の大半は一度戦場を離れて迂回してゲリラ戦を行いキロメートル単位で妖魔を殲滅しつくして陸軍部隊と警察機動隊を四摂家部隊に合流する直前になっていた。


「まだ千沙希様の行方が分からないのか?」

「ハッ、手の空いたものから捜索に回しておりますがどこにもおられないとのことです。千沙希様の旗本の者たち曰く、千沙希様を攫った者たちも妖魔だったようですがなぜか拘束された状態で捜査本部の前に突然現れたようで既に確保され事情聴取が行われておりますが今日の記憶が混濁しており有益な情報はあまり聞き出せていないとのことです」

「わかった。お前も捜査に回れ」

「御意!」


 楠木正貴は拳を握りしめて机に叩きつける。橘氏の旗本の筆頭として千沙希の行方が知れないという状況に落ち着いてはいられない。

 橘氏の旗本は哉人の手で僅か一月足らずで脳筋フィジカルゴリラ軍団となり、特に鍛えられた体力は5時間以上もの連続行動にも休息なしで務められるほどに向上している。この体力が無ければ他の摂家部隊をデイダラボッチだけにぶつけることが出来ずにデイダラボッチの進撃の抑制もできなかっただろう。


「どうかご無事で、千沙希様…」



 同刻、土岐駅の駅ビルの屋上。周囲のビルよりも頭一つ抜けた高さであり、駅にはまだ避難し切れていない市民たちが残っている。実質的な最終防衛ラインであり、逃げる先は無い。もしあったとしても逃れはしないのだろう。何せビルの屋上に妖魔が続々と集ってきてしまっている。なんとか一人で自衛出来ているからまだ大丈夫だが一歩ずつ一歩ずつこちらに歩み寄るデイダラボッチの巨影が近づくほど恐怖心を煽る。

 投げ出したい。楽になりたい。苦しい。

 だけれど華族としての矜持がそれを許さない。華族としての血が、記憶が、職務が、責任が、心を縛って許さない。

 妖魔たちは例外なく自分を目指している。自分が引き寄せている。それが分かってしまったから逃げられない。

 大通りでは未だ足止めを頑張っているがその効果は実を結んでいないようだ。

 持ってあと10分もすればここに到達してしまうだろう。そう考えたとき、千沙希の心は限界を迎えてしまった。助けが欲しくてたまらなくなってしまった。

 手で収納を漁ると捕らわれた際に奪われたはずの通信端末が入っていた。

 呼び出す先は…



 哉人は着信音を聞いて端末を取り出す。呼び出しているのは千沙希だった。


「もしもし。千沙希殿、ご無事ですか?」

『…ねぇ。約束、覚えてる?』

「約束…ですか?」

『そう、全部、嫌になっちゃった。投げ出したくなっちゃったの』

「…ッ!」


 通話の奥から聞こえる消え入りそうな声。哉人は古い記憶が刺激される様な気がした。


『私、やっぱりずっと苦しかった。いいことなんて何もなかった』

「今手勢を向かわせます。場所を教えてください」

『ねぇ。覚えてないの?』

「約束、ですか?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その言葉で完全に思い出した。


「ごめんな。遅くなった。待ってろ。今、助けに行くから」


 哉人の全身から神通力の光が溢れ出す。輝きが増していくその瞳には大通りを挟んだ丁度向こう側。確かに見えた。

 彼岸で約束した、あの少女の姿が。

ちょこっと登場人物解説


藤原瞳子 「とりあえず家族は甘やかせばいい」


藤氏長者の長子。癖の強い兄弟をまとめ上げるお姉ちゃんであるがなんと本妻の子は瞳子一人である。

学生時代は大会とかの度に京介をボコっており京介の軽いトラウマになっている。

こないだまで跡継ぎレースの優勝候補だったが最近第二位に転落した。そのうち第三位まで後退するかもしれないと言われている。

でも本人は気にしてない。大物。

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