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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第三章 平行線を駆け抜ける
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戦争の手

 期末テストが終わった。と、同時に海外との繋がりのあるネットワークの引っこ抜き作戦も完了した。

 見事密貿易網を一網打尽にして成し遂げた捜査部の成果を意気揚々と本部の会議に持ち込んだ。しかしそこで俺は驚愕の事実を知ることになった。


「!!!???空亡(おれ)が風魔の隠密!!!???婆裟羅の取り締まり!!!???」

「ええ、大きく話題になっていたと私の配下が報告してくれました」


 京介さんにそう伝えられて愕然とする。

 風魔とはかつて潰戦前の帝國時代に一時代を築いた隠密の一族。しかし潰戦以後はその勢力が壊滅したのかその存在は婆裟羅全盛期の雨月・白峯の乱前後に魔薬師とやり合ったライバルぐらいしか知られていない。

 

「心当たりはありませんか?」

「そんな、心当たりだなんて!俺は彼岸の医療大家、芦屋の分家の傍流の血筋で、隠密とは縁があり…ま…」


 そこまで言ったところで懐かしい顔が浮かんだ。

 都の母親の山階一花、旧姓()()一花。

 彼女こそが近代唯一名の残る風魔の隠密にして俺に風魔忍術を伝授してくれた張本人。

 というか、そもそも俺は彼岸での明羅との決闘で風魔手裏剣を使ったじゃないか!


「す…。情報の出所も…心当たりが…あります」

「何でも陰陽術師の便利屋が吹聴しているとの話なのだが」

「ハイ、ソイツガウワサノデドコロデマチガイナイデス」


 明羅(アイツ)便利屋なんて営んでいたのか、道理で実践慣れしているわけだ。そもそも土御門家自体隠密まがいの一族。若くても将来が有望なら現場を体験させていてもおかしい話ではない。


「風魔に探られてはたまらないと焦ったのだろうな、へまがあちらこちらで起こってそれが捜査部の目に留まったのだろう。何がともあれ大手柄だ」


 まてまてまてまて捜査部の手柄じゃなくて俺の手柄になってないか?いや俺は上司だからあながち間違いではないのだがそれでも彼らの努力を労う為に来たはずだったのに。

 というかこれで俺の発言力は京介さんを上回りかねない。

 千沙希を手元に置いている以上この家に長居すれば楠木家のような積み重ねのない俺ではいずれ敵視されるのが見えている。

 天文台に帰る以外の将来が無くなってしまった…。


「ハイ、キョウシュクデス」


 なんとか笑顔を取り繕って俺はそう答えるしかなかった。




「どうしてこうなるんだ!」

「よくわからないけど大変ね」


 早朝会議の後学校に遅れて登校し、現在はくじ引きの席替えの結果ひとつ前の席になっている文香に哉人は泣きついていた。


「ううう、俺は千沙希と犯罪者の頭の中をいじくりまわしているだけでよかったのに…」

「中々倒錯的な日常ね」


 文香は呆れた目を哉人に向けながら急いで着替えてきたため変な折れ方をしている制服の襟を整えてあげる。しっかりとアイロンがけされた制服を正すとピチッとその姿で固まる。

 千沙希がきちんと管理していることが伺える。


「哉人、期末の成績はどうだった?」

「んーいつも通りかな。必要な科目は満点で、不要な科目は7割ぐらい。総合だと100位以内にギリギリ入っていたかな」

「流石ね…一応私もなんとか補講は免れたわ。一応感謝してるわよ。ありがとう」


 文香は照れながらそういった。どうせ隠しても哉人には心を読まれるのだ。

 文香は正直に伝えるようになった。文香が自分の気持ちを偽らなくなったことで哉人が無意味な気遣いをせずにちゃんと伝えられるようになり、二人がすれ違うことはなくなった。

 文香は感覚が平民にとても近いということもあって華族しかいないクラスの中ではあまりクラスメイトに馴染めているとは言えないがそれは愛憎様々な感情を向けられている哉人も同様だ。

 哉人の能力が三館すべて合わせても傑出しているのは序列を見れば火を見るより明らかであり、一年生の一学期だけで凄まじい成果を挙げ、そして既に仕官しているとなればそう気安く話しかける勇者はいない。

 結果、二人は教室内で話す相手が互いだけ、ということが多かった。

 この時は大抵文化系男子組の中に拓也が混じり、決闘に積極的な体育会系女子たちに雪乃が可愛がられ、名家の女子たちに千沙希が囲まれている。

 でも学校の外ではやはり雪乃と千沙希はクラスメイトとの交流はない。


「そういえば夏は(セント)ラプラスにバカンスに行くんだっけ?やっぱり準備しといた方がいいのかな」

「しなくていいよ。多分行けないから」

「そうなの?」

「ああ、これからとてもそんな遊んでいる場合ではなくなる」


 哉人は仔細を話はしなかった。まだ発表はしていない情報であり、機密保持の義務がある。

 文香もそのことを察してそれ以上は聞かなかった。


「忙しいのね」

「大人の休みは正月だけなのさ」

「でも華族にとっては祭祀も重要な仕事じゃないの?」

天文台(ウチ)は年一の祭祀をクリスマスにやってるから寝正月だぞ」


 妹を家に置いておけないから毎年参加してないけどなと哉人はぼそりと付け足した。

 お兄ちゃんに休みは無いのだ。


「また、落ち着いて温泉でも行きたいわね」

「彼岸で良ければ日帰りでどこでも行けるぞ」


 音速で飛び回る哉人ならば真秀広しと言えども日帰りで飛び回れる。

 コストパフォーマンスと整備性に非常に長けているのがポイントだ。


「そうね、じゃあ()()で行きましょう」

「えっ?」


 他の人が聞けば意味が通らないようにしか聞こえないだろう。だが心の読める哉人にはしっかりと意味が通った。

 高位の華族はその職務からいつ何時でも動かせる戦力を必要とする。郎党は必要があるから維持され、そして現在はその結束力は家族にも例えられる。

 だが今回、文香の心内にはそんな雅やかな表現をするような余裕はなかった。

 必死に笑いと気恥ずかしさを押し留め、そして精一杯の悪意を込めた、その大胆な告白に哉人は呆気にとられる。

 普段は発言と本心の差を分かるからこそ余裕を見せているが、その差が正負反転したときに彼は不慣れな反応を見せる。

 文香はついに哉人に勝利した。





 そしてもう一人、洛都で呆然としている者がもう一人。

 ぬらりひょんだった。

 彼が再び一年かけて積み上げてきた新しいネットワークが橘に根こそぎ引っこ抜かれてしまったのだ。結果投資していた分が全て焼き付いた。幸い借金こそしてないが残っていたほぼ全財産を投入していたこともあって一文無し同然だ。さらに洛都の人脈も失ってしまい、これでは新しいビジネスも始められない。

 どうしてこうなった?と振り返る。厄災の凶星に助言をしたのが悪かったのかと熟慮するがつながるわけもない。

 しかし現に彼の部下によってぬらりひょんのビジネスは壊滅してしまったのだ。

 風の噂によると彼は風魔の技を使うらしい。だが風魔は此岸、御影は彼岸の一族。此岸と彼岸、どちらにも詳しい彼にも真相は分からない。

 正しくは彼が此岸に定着したのと風摩一花が彼岸に渡ったのがちょうど入れ替わるような形になっていたのでわからなかったのだ。

 ぬらりひょんからすれば全ては空亡という謎の少年に関わったばかりに全てを失った。

 身一つ、フェリーで離州に逃げ出しながら、復讐のゴーサインを最後に残った投資先に連絡した。





 翌日、真秀政府に反乱勢力が宣戦布告。

 新皇(しんのう)軍と名乗る反乱勢力が離州防衛警戒網に確認され、国防軍との戦闘が開始した。

 しかし華族から警告を受けていた国防軍は先鋒を一度追い返すことに成功した。

 だが本軍が合流し、形勢が不利となった国防軍は遅滞戦闘に移行。離州の避難を行い、軍関連施設の機密処分及び港湾施設からの疎開を行い、安全確保の後戦力を持たない部隊のみ残して本土に撤退した。

 離州を占拠した新皇軍が避難した民に手を加えることは無く、政府との交渉の末本土へ帰還を望む観光客を逃がすことに合意した。

 その際に首謀者たちの情報が明らかとなり、国防軍から華族にも動員要請がかかった。

 数日後、両軍が配置転換を行っている他目立った動きが無い中各メディアは空亡の参戦を公表した。

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