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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第三章 平行線を駆け抜ける
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プライド崩壊

 土御門明羅は呪符を投げてそこら中で放電を起こす。しかし哉人は呪い返しの達人だ。刀で呪符ごとはじき返し、電撃が土御門に迫る。


「お見事」


 形代を盾にして防ぎ、陰陽術で強化、「呪装」した刀で受け太刀する。ご丁寧に十手のような形状で刀を絡めとる気だ。

 ここまでずっと至近距離で刀を打ち付けあう立ち回りばかりしてきたからその対策なのだろう。

 今は神通力を使わないからいつものような高機動で振り切るような戦い方はできない。

 かといって妖術はまだメインとして使えるほど習熟しているわけではない。哉人の見立てでは土御門は少なくとも既に実戦に投入できるレベルである。むしろ実戦の経験があるかのように落ち着いている。

 崩すのには苦労する、と哉人は考える。

 陰陽術は大規模な技を発動するにはどうしても時間がかかる。だが長期戦になれば呪符や形代などを切らして継戦能力を失う。

 つまりどこかで大きく勝負に出なくてはならないのだ。そこを回避すれば大きく有利が取れる。

 逆に哉人は大きく崩すには妖術はあまり効果的だとは言えない。さらには剣で崩すにしろ体術で崩すにしろかなり接近する必要がある。


「何がともあれ、手札を見せてくれなきゃ隙も生まれないな」


 哉人は初歩的な風属性妖術、鎌鼬の術で牽制しつつ状況を伺う。持ち込んだ武装は刀一本だけ。脇差すら置いてきたその姿は古来より彼岸で伝統的なスタイルであり、流派は彼岸ではありふれた閻魔流の分派。

 土御門の見立てでは最低限の牽制だけで様子見の構え。彼岸からの留学生という話は聞いていないが彼岸で鍛えられたことには間違いない、自身の剣に相当の自信があるのか得物は刀一本。妖術は多少は使えるが自分の守りを崩すには明らかに足りない。

 かといって大規模な手を打とうとすればすぐに妨害ないし対処に来るだろう。機動力に関しては土御門がこれまでに見てき武者、妖魔達の中で最も速い。小回りもきくあたり最高速度ではなさそうだ。


「なら、望み通りいかせてもらおうか!」


 形代を30枚ほど飛ばし、自身の周囲を周回する様に浮遊させる。哉人はすぐに針状に成型した風の刃を飛ばして形代をすぐに撃墜し始める。


「手の早いこと」

「それが取り柄なもんで!」


 土御門は形代を飛ばし、その合間に呪符を混ぜて飛ばす。

 哉人が形代を斬っていき、呪符も斬るとすぐに爆発するが風を薄く伸ばして纏う哉人はそのまま突っ切って進む。刀を振り回し、爆破されることを構わずに進む。

 だが斬られた形代が残る呪力を振りしきって浮遊する。


「ほう、そう来るか」


 術式が刻まれ、決まった効果を発揮する呪符とは違い形代は術式が込められてはいないが呪符以上の呪力が込められており、普段は盾や呪い返し避けの身代わり、そして呪力の砲弾として突撃させて使うが今回は助燃材として使うつもりなのだ。

 呪符の爆発に巻き込まれた形代の残骸も連鎖して爆発する。準決勝同様に大爆発を起こしていく。

 しかし直前に上に向かって突風が吹き、その中を通り抜けるように哉人が抜け出していた。爆風に巻き込まれても、ダメージは受けていない。


「何!?」


 完全に爆破し切ったと見ていたがまさか無傷で乗り切られるとは考えていなかった。焦って残った呪符を飛ばし、空中に機雷を設置するも哉人は容易くはじき返し、土御門は形代で防ぐことで難を逃れる。

 だがいたずらに手札を次々失いより焦りを募らせる。

 哉人に斬りかかられて何とか受け太刀する。槍矛に似た剣状の得物を走らせるように刃をわざと流し、そして突起に峰を引っかけて下に落とす。


「しまった!」


 とっさに呪符を投げつけて重石の呪いをかけるが最早何の動作も無しに呪い返しをしてくる。

 土御門の体重が自らの呪いで重くなり、体が前傾みとなって倒れる。

 踏みとどまろうと足を踏みしめるが下がった顔に膝蹴りが入る。


「ぐっ…!ここで負けるわけにはいかないんだ!」


 残る呪符で全身に呪装をかけ、さらに得物も防御を考えて大きくしていたが一気に刀のサイズまで縮める。


「終わってたまるかー!」


 土御門が一気に前に出て哉人と鍔迫り合いを演じる。しかし至近距離では哉人の独壇場だ。くるりと刀を切り返され、鍔で右手首を叩かれて刀が下がり、一太刀浴びせられる。

 剣技では勝てぬと悟って距離を取って機動戦に持ち込む。残る形代をさらに呪装していくつもの呪符を持たせる。

 形代からオールレンジ攻撃を行うと共に、自らもヒットアンドアウェイで一撃一撃を叩き込むが哉人は涼しい顔でいなしていく。

 元々哉人自身が高機動戦を得意としている。土御門は自ら墓穴に突入してしまったのだ。

 妖術の牽制で誘って接近した哉人はわざと土御門の顔の前で受け太刀させ、すぐに二度切り返して切り下す。


「影打!」


 さらに腹部に一太刀浴びて土御門はついに敗北の二文字が頭をよぎる。それはだめだ。何よりも負けてはならないという意思がついに彼の縛りを解禁する。


「来い!」


 土御門が封じていた呪符を取り出し、その場に小さな門を開き、式神を召喚する。

 魔法使いの使い魔のように、魔力は亜種生命体を作り出したり、他生命体と契約して従えることができる。真秀では妖魔と契約している者も多い。

 土御門の式神は金棒を担いだ赤鬼と青鬼。

 陰陽師の強さは式神によって大きく左右されると言われている。それは式神の瞬間出力は陰陽師の力量に左右されず、式神自身の力次第である。ゆえに陰陽師は他人だよりだと軽んじられることも多い。

 土御門はその汚名を雪ぐことを願い続けてきた。その第一歩として自力で新人戦を勝ち抜く事を目標に掲げ、決闘に明け暮れていたのだ。

 彼の実力は確かに例年なら優勝は容易いだろう。

 しかし彼の最大の不運は同じ優勝という目標を掲げ、同じく自身最大の長所を縛り、そして同じく無敗のままここまで来た相手が、昨年まで三館を震撼させていた無双の剣豪と同等の実力者だったことだ。


「俺に式神を使わせるとはな!許さぬ」

「ほう、逆恨みかね?」

「もう何もかも…終わらせてやる!」

「術でも勝てぬ、力でも勝てぬ、しまいには心でさえ勝てぬと認めるか」

「キサマァーーー!」


 ついには口でも勝てなくなった土御門は二匹の鬼に先行させ、自身はその背後から残る形代を全て取り出して一歩引いた位置から動きを制限しに動く。

 哉人は赤鬼と青鬼が次々に繰り出す力任せの一撃を躱しながら土御門の形代にも対処していく。


「手下の影に隠れるだけとはな」

「何だと!?」

「怖いのか」


 哉人は鬼達を手玉に取り、風に乗って空を翔けてまだ余裕を見せている。だがまったくの無傷とはいっていない。ここまでの戦いで確かに哉人も消耗しているのだ。

 単純な剣技と妖術だけでは瞬殺とはいかない。それだけ体力を消耗していたのだ。

 形代の突撃を食らって切り傷がいくつかついてしまっている。だがまともなダメージは見事一撃も食らうことなくここまで戦い抜いている。

 土御門も哉人と同様に体力を消耗している。さらに彼はここまで呪力を使い続けてきた。大規模な技を使ったのは千沙希と雪乃と哉人を相手にしたときだけだが他の連戦で少なからず消耗が積み重なっている。

 呪力と妖力は別のリソースを使う関係でどちらかのリソースが切れて使えなくなったからと言ってもう一方も使えなくなるわけではない。

 しかし体力や気力という目に見えないパラメータではどちらを使用しても消耗する。

 哉人は妖力だけしか使用しておらず、さらにはまったく使わずに勝った試合さえあるのに対し、土御門はずっと呪力を使い続け、今は呪力の消耗を避けるために妖気で身体強化をかけている。

 哉人に追われ、逃げつつ鬼をけしかけ、さらには形代を操作し続けたことでついに力尽きた。

 ガクリと膝が折れて形代に呪力を送ることもできなくなり、鬼達を現界し続けることが出来なくなり、消滅する。


「やっとこさ力尽きたな」

「御影!貴様!まさか!」

「人を呪うっていう連中なんてまともにやってらんないよ」


 何せ哉人自身が誰よりも強い憎悪を抱えた人物だ。その良し悪しも、特性も熟知している。

 なにより魔力や呪力というものに本当にいい思い出が無い。

 血筋以上に助けられた経験がない。


「ま、さっさと決着をつけてしまおうか。ちょっと立て込んでいるんだ」


 哉人は最早指一本満足に動かせない土御門に歩いていき、静かに、そして丁寧に、土御門の首を斬る。

 三館武闘新人戦。優勝、御影哉人。

 圧倒的な強さで優勝し、直後の表彰式の後、彼はすぐに会場を去ったことで記者たちは右往左往していた。

 何せ他の有力選手なんぞ最早印象に残っていない。それほどに圧巻の戦いを繰り広げ、ついにはまともなダメージを受けることなく優勝したのだ。

 それはそれを望んでいたのにも関わらず全て目の前でかっさらわれた土御門のプライドをずたずたに引き裂き、さらにはその決勝さえ時短で終わらせたかったとまで言われてしまえば彼が憎悪を抱くのもむべなるかな。

 大慌てで哉人を探しているマスメディアたちを見て土御門は悔しさのあまり拳を握りしめ口の端を歯で切り血を流していた。




「行ってしまったね」


 修導館生徒会長として見届けていた中村周作は半年前に生徒会長就任直後に上り詰めた三館序列の順位が一つ後退してしまったのを感慨深く見ていた。


「うう、私も追いかけてはいけませんか?」


 まだ包帯ぐるぐる巻きで医務室のベッドに寝かされていた雪乃が窓から外を眺めている中村に視線を向ける。


「ダメですよ。あなたが無理をしないようにここで見張ってくれと御影君に言われているんですから」


 三館序列第三位、だったけれど哉人に抜かれて第四位の実力者である中村には雪乃も万全でも敵わない。というか雪乃はどうも正面戦闘をほとんど教えられていないので実はものすごく駆け引きなども弱いのだ。


「それにしても修導館の一年生が三館序列の第二位にまで上り詰めるのは音羽飛鳥氏以来だそうです」

「音羽飛鳥は私の父です。それと、哉人のお師匠さんの師匠なのだそうです」

「世の中は自分が考えているよりもずいぶんと狭いようですね」


 中村会長はにっこりと慌てふためくマスメディアたちを実に愉快そうに見ていた。

 どうにも哉人と決闘の約束をしたらしい。これでどちらが勝ってもポイント的に勝者が序列一位になるセンセーショナルなイベントが開催できる。

 どう決着が付いても中村に利がある打算話だ。

 楽しみで仕方ないのだろう。たとえ高確率でボコボコにされるのだとしても。

ちょこっと登場人物解説


中村周作「財力!暴力!権力!」


欲望に忠実な実力者。妖術をメインに立ち回って中等部から上がり、修導館の序列1位と大統領とも呼ばれる絶対的権力を持つ生徒会長に上り詰めたが入学して4ヶ月の新人に掻っ攫われた不憫な人。やること為すこと哉人に裏目にされるので折れないで頑張って欲しい。

かわいそう枠その3。

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