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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第三章 平行線を駆け抜ける
39/46

優勝候補・対抗

 哉人に続き、拓也、千沙希、雪乃も初戦を突破した。

 だが文香が行方知れずとなった。連絡をとっても応答がなく、反応もない。四人はそれぞれ試合がある為探しに行くこともできず、それぞれもやもやと胸に何か違和感がが残るような感覚をしながら勝ち進んでいく。

 客席で見てくれているのだろうか。それとも帰ってしまったのか。

 心配だが今は新人戦の次の試合がある。とりあえず終わってから話そう。

 後で話すとメールを送ってひとまずは思考から外す。

 すぐに二回戦が始まる。今回は自ら神通力を使わないという縛りをしいている。これで負ける方が心にしみる。言い訳の理由がある状況で負けたくない。

 

「何もかも順風満帆とはいかないな」


 後八回勝てば優勝だ。俺は再び入場ゲートをくぐっていく。



 四人の中で最初に敗退したのは千沙希だった。4回戦、対戦相手は哉人と並ぶ優勝候補だった。

 哉人と彼が当たるのは決勝だ。きっと決勝のカードは二人になる。そのために情報を伝えようと彼の待機しているラウンジに走る。

 

「哉人!」


 ラウンジでジュースを片手に試合を見下ろす姿は強者の風格を漂わせ、そして板についた大物感に思わず足が止まる。


「千沙希か。よく頑張ったな」

「あの…哉人!」


 だが哉人は片手を上げて千沙希を制する。


「それは、大会が終わってから聞こう」


 哉人は心を読むまでもなくそう告げた。あくまで正々堂々と、自分一人で勝ち進むつもりなのだ。


「それよりも文香と連絡がつかない。心配だから、探しに行ってもらえないか?」

「ええ、任せて。あなたの健闘を、期待しているわ」

「ありがとう」


 千沙希は来た時とは逆にゆっくりと歩いてその場を離れる。彼に任せれば全て上手くいく。きっと全部解決してくれる。

 いつの間にか、千沙希は心の底から全幅の信頼を置いていた。哉人も当然のものと受け止めている。この差が彼らが現状を認識することを妨げているがそれを指摘できるものもここにはいない。

 哉人も事態を認識することなく自分の次の戦場へと向かう。


 準々決勝まで終えて、大原拓也は敗者として舞台を去る。

 一回戦進むごとにランダムで対戦相手が決まるのだが、運悪くここで哉人を引いてしまったのだ。

 予選でも全力を出して負けたが少しずつ様々な流派の剣を見て学んだ哉人はもう昨日とは別人の強さとなっていた。

 神通力によって幼い頃より情報収集、解析能力に長けていた。それが今相手の技を見た途端に技を解析して対応していく。

 もう拓也の技は何一つ通用することなく哉人の前に敗れ去った。それはもう清々しいほどに。


「よし!次だ次!」


 だがいつまでもくよくよしているわけにはいかない。

 拓也は文香よりも前から哉人の姿を見ている。かつてはかなり苦労しており、決して恵まれた育ちではなかった。

 いつだって目標にしてきた。だから今回も彼を見習うことにした。

 そして彼も文香を探しに疲労で重たい足を動かす。



 哉人は危なげなくそのまま準決勝も突破。

 もう一人の決勝進出者を決めるための準決勝第二試合。

 雪乃はここまでクジ運に恵まれていたこともあって順調に進出してきた。

 だがここまでくれば優勝候補同士が激突することになるのは必然だ。

 目の前に立つのは明倫館の一年の中で三館序列が最も高く、そして新人戦で勝ち抜いたことでついに哉人と共に一桁順位に到達した対抗馬、土御門明羅。

 彼もまた何十戦もの決闘の全てで勝利してきた無敗の新人。優勝予想では哉人に次いで第二位だ。千沙希を始め既に何人も他の有力選手を破って勝ち進んできている。

 雪乃も一年生の中では指折りの実力者なのだがそれでも五番手程。観客の予想はほとんど皆土御門であった。

 だがせっかくここまで来たのだ。せっかくならば進められる限界までは全力で進みたい、雪乃はそう言い聞かせて自ら士気を高めていく。

 新人戦でのレギュレーションでは普段使っている呪符鉄扇は使えないので代わりに暗器類や小太刀など多くの武器を持ってきている。その分重量は嵩むが有り余る妖気で身体能力を大きく引き上げて機動力を確保している。

 試合開始、すぐに雪乃は吹雪の術で先手を取る。ここまで毎試合見せてきた流れ。すなわち相手はこの吹雪を対処することをまず考えてきているはずだ。

 間違いなく対処はされる。だが対処をさせることで相手の手札を強制的に一つ開かせる。

 土御門は懐から取り出した()()を自身の正面に投げる。


「結!」


 呪符は空中に張り付くように停止、浮遊し結界を張って吹雪を防ぐ。


「やはり陰陽術ですか」

「我が土御門家は代々陰陽師の一族でね。潰戦以来妖術の後塵を拝しているが、その時代ももう終わりだ!」


 妖術師としては新人戦でも最高峰の力を持つ雪乃と陰陽術を若くも極めつつある土御門の対決はかつて幾度となく衝突してきた両派閥の争いが未だに続いていることを示している。

 古来より妖術師と陰陽師は仲が悪い。とにかく仕事が被るのだ。だが正面の破壊力に勝る妖術と呪いと搦め手に長ける陰陽術ではとにかく溢れる妖魔と戦わなくてはならない近代真秀では前者の方がより成果をあげるのは当然のことだった。

 そして陰陽術はある程度の呪力の素養がいる。基本的に華族であればだれも使える妖術と母数が違えば研究発展のスピードは上がる。

 結果陰陽術は取り残されたのだ。急激に使用者の割合が減っても、代々続く伝統的な陰陽師の家系は諦めなかった。

 土御門明羅は次代の陰陽師の復権のために並々ならぬ執念をかけてここに立っている。

 その情熱を乗せて次から次へと形代を袖や裾から吐き出し、二人を取り巻く様に周囲に浮かべて封鎖する。戦場を少し狭めた形だ。


「この程度!」


 雪乃は周囲に氷柱を連鎖する様に生やし、周囲を浮遊する形代をずたずたに切り裂いていく。

 土御門はそれを黙ってみているわけがなく、その隙に他の呪符を取り出して準備を整えていく。

 そしてその準備を終えると役目を終えた形代を一斉に雪乃へ突撃させる。


「何!?」


 氷柱を生やし、吹雪を起こして打ち落とすがいくつかが何層もの防御陣を潜り抜けてくる。

 だがこの程度であれば雪乃は手に持つ得物で次々叩き落としていく。氷で足場を作り、移動して一方向に揃えて吹雪で一網打尽にする。

 そして高さの有利を活かして雪雲を広く展開する。

 氷柱を次々に落として重力落下を利用して攻め立てる。これは流石に結界で防ぐだけではまずいと考えたのか土御門も大きく移動しつつ頭上に結界を張って身を守る。

 二人が反時計回りに舞台を丁度半周移動したことで初めの立ち位置から真逆の立ち位置になる。

 土御門の足元から突如氷柱が生えて土御門も巻き込まれて全身が凍り付いていく。


「まあ、罠を張っておくよね。そりゃ」


 雪乃は勝ちを確信する直前、自身の周囲にいつの間にか呪符が集まっていることに気付いた。

 形代で周囲に目を向けさせている内に罠を巻いておいたのだ。そして妖術では出来ない、魔法でも際限の難しい陰陽師の最大の特徴を実現する。


「集まれ!」


 遠隔起動した呪符が全方位から集結し、雪乃を包んでいく。

 妖術は必ず手元で発動する。魔法も遠隔で発動するには「路」を介して魔力を送る必要がある。だが陰陽術は呪符に込められた呪力で発動する。さらに遠隔起動のタイムラグもほとんど隙にならない。

 回避はもう間に合わないと見て全身に冷気を纏って防御を固めつつ雪雲を大きく落として自分自身もろとも呪符を氷漬けていく。


「爆!」


 一斉に呪符が爆発して雪乃は爆風に包まれていく。

 煙が立ち込め、雪乃の安否が心配されえるがすぐに煙から飛び出して凍り付いた土御門に向けて小太刀を突き付けて突進する。


「悪いね。もう、詰めてるんだ」


 小太刀を交差する様に形代がはじき、さらに後ろ斜め上からいくつか足元にばら撒いて残していた呪符が飛んでくる。

 背中に張り付いた呪符へ、右手に握りしめた呪符から呪力の道が繋がり、そして雷が落ちる。

 紙一重、というにはかなり厚い壁の向こう側にいる土御門が勝利を確信するのと、その向こう側から観戦している哉人を見ながら雪乃の意識が途切れていく。

 



 準決勝から決勝までは少し時間が空く。その間に雪乃は目を覚ました。

 

「ここは…治療室…ですか?」

「気が付いたようだね」


 どうやら運び込まれてから傍に付き添ってくれていたらしい哉人がのぞき込む。


「惜しかったね」

「いえ、私は最後まで手のひらの上だったようです」

「そうでもないよ。爆風をしのいだ後、他の罠を警戒する余裕だってあっただろう?」

「あっ…」


 雪乃はまだ回らぬ思考でも自分が決着を急いで手を誤ったことに気が付いて赤面する。


「でも、頑張ったよ」


 よしよしと哉人は雪乃の頭を撫でる。


「今はここで休んでて。俺は行ってくるよ」


 雪乃が枕元の時計を見れば決勝の試合開始時間が迫っている。どうやら時間ギリギリまで粘ってくれていたらしい。

 その心遣いに深く感謝しながら雪乃は哉人を見送る。


「ご武運を」

「ああ、任せろ」


 そのいつでも頼りになる背中が見えなくなって、余韻も薄れたころ。ふと通信端末を開いてみる。どうやら文香がいなくなったらしいとはどこかで聞いたが詳細は分かっていなかったのだ。




 哉人は一人、入場ゲートの前で時間を待つ。文香からの連絡はない。千沙希と拓也もまだ見つけられていないようだ。

 だが今は決勝に集中しようと手に持つをゲート前で係員に預けて舞台に上がる。


「さあ、ファイナルの始まりだ。楽しんで行こうか」

「ずいぶんと余裕なんだね」


 決勝でついに対面する入学以来負け知らずの二人。

 新人戦決勝、御影哉人対土御門明羅。

 二人共それぞれ修導館と明倫館に入学して以来話題を二分していた。御影は体育祭で見せたような高い身体能力を持ち、土御門にも一流の武人さえ容易く罠に嵌められるほど卓越した陰陽術の技がある。

 新入生は新人戦が終わるまでは学外決闘が禁止されている。つまり学外に彼らの実力を見せるのはこれが初めてなのだ。

 これからの三年間を占うような、戦いが今幕を開ける。


『試合開始!』

ちょこっと登場人物解説


土御門明羅「決して認められない世界がある」


世間で話題になっているアイドルとダークヒーローが大好きな青春を謳歌する高校生。他力本願が常の陰陽術を自分の力として使えるのだと証明するために来たが新人戦だと対戦相手に恵まれないとそこまで注目されないので結局他力本願であることに変わりはなかったことに気付かないアホの子。高校生ノリができる奴がコイツとぼんくらーズぐらいしかいないので話を回すのに便利なのでちょこちょこ出てくるかも。

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