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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第三章 平行線を駆け抜ける
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分かれ道の始まり

 俺は決闘用の刀を両手で握り、相手と正対する。

 目の前に造士館の決闘用装備を装着し、同じく決闘用の刀を握りしめている。

 この決闘用の刀は光の刀身が成形され、人体を透過するが刀同士なら干渉する。

 輸入品で訓練用に導入したが今ではゲームセンターや訓練センターにも導入されている。

 俺は高校に入るまで縁が無かったが結構本物と感覚が似ている。なるほど、これなら安全で実践的な訓練ができる。

 俺は試合開始と同時に大きく踏み込んで距離を詰め、大上段から大きく振り下ろす。普段の決闘では結構これだけでも終わることが多いが今回ばっかりはそうもいかず半身で躱されて返しの一太刀。

 俺は普段通り大きく引いて回避しようとするがそれでは剣で弱いままだと気づいてスレスレで回避してすぐに刃を返す。柄頭で出だしを止められ、組みあう形になる。

 俺は右膝で腹を蹴り、距離ができるとすぐにそのまま右足を前に出して左拳を突き出す。

 相手はわきの下を広げて回避。俺は弓を引くような姿勢から右手片手で突き出し、すぐに右に大きく足を踏み出して動きを制限しつつ刀を振り抜く。

 だが背後を向けたまま大きくかがんで躱され、足を蹴られて動きが止められてしまう。

 そして距離を少し取って仕切りなおす。

 コイツ、初戦だしどうせ余裕とか思ってたけどめちゃくちゃ強ぇ!刀を力で振り回すだけじゃ絶対に勝てない。

 ちゃんと崩さないといけない。

 今度は向こうから詰めてくる。刀を小さく回しながら詰め、俺は切っ先を合わせるが巧みに外され刃を内側に入れられてしまう。

 しょうがないので再びゼロ距離まで強引に詰めて左ひじで相手の右手首を抑え、ゼロ距離ハイキックで顎に一撃を加える。

 妖気を乗せた重い一撃で強引に間をつくろうと振り回してくるが前後左右に最低限だけ回避して大きく空いてしまった相手の左肩に軽く当て、少し斬ってから再び一歩だけ引いて横薙ぎを回避。刀から右手を離し、相手の右ひじを胸に押し当て動きを止めて、左手一本に妖気を込めて振り抜く。

 試合終了を知らせるブザーがなる。


「「ありがとうございました」」


 後半に焦ったのか振りが大きくなったことで隙が出来たが防御時にはつくスキが本当に無かった。


「やっぱり勝てなかったかー」

「いや、君が焦らなければ負けていたかもしれん」


 そう健闘を称える言葉を交わして握手する。

 今川君。君の名前は覚えておこう。君はとても強かった。

 俺はこうして新人戦の初戦を少し苦労しながら突破した。

 そう。ここは洛都中央武道館。三館武闘新人戦。予選としてランダムで抽選された対戦相手と戦い、ポイントを奪い合い、規定ポイントに先着した者から本線トーナメントに進めることが出来る。

 ポイントの増減は基本的に一定で連勝や連敗すると移動するポイントが増加する。

 つまりとにかく勝ちまくればいいっとこと!単純!

 いやさ、とりあえず8連勝すればぴったりボーダーラインに乗るんだわ。だから後は誰よりも早く決着を着ければいい。連勝と連敗で戦ってもそんなに増えないからとにかく誰でもいいから最短時間で決着を付けたいが誰もまともに組んでくれやしない。お前ら普段あんだけ決闘もう仕組んでくる割になんでこんな時だけガチになるんだおかしいだろ。

 そんな時にはランダムに組みあうことが出来る。まあその一回目から負けかけたわけだが本来俺がそんな苦戦する相手なんてそうそういるわけがない。

 というわけで二戦目がマッチングした。

 表示された対戦カードは御影哉人対大原拓也。もういいってそういうの。違うでしょ。

 


 普通に強かった。苦戦した。けど勝った。そしてそのあとのマッチングではそこまで強い相手と当たらなかったのでトントン拍子に勝ち抜いて予選を突破した。

 八連勝。予選突破順は四番目位。こんなはずじゃなかったんだけどなー。

 俺は突破者の集まるラウンジでドリンクサーバーからジュースをもらって一息つく。なんかみんなスポーツドリンクを飲んでいたけど昨年の冬からずっと飲んでたからもう見たくもない。

 なので少しづつ減っていく本選出場枠を奪い合うレースが加速していくのを高みから見下ろしていた。

 しかし程なく拓也も雪乃も千沙希も来たのですぐに騒がしくなった。


「なんでこんなに人いて哉人とマッチアップすんだよ。厄日だぜ」

「俺も想定外だった。本来もっと早く突破する予定が君のせいで後れを取ってしまったではないか」

「いや、そんな負けるつもりで戦わねぇから…」


 俺と拓也はそうぶつくさといい合う。俺は8勝、拓也も9勝1敗で突破しているのでとても不満を漏らす立場ではないはずなのだがイライラする。

 雪乃も千沙希もそれぞれ9勝1敗と12勝3敗で突破している。未だ半分も出場枠が残っていることを考えれば十分優秀だと言えるだろう。

 既に目下では皆20戦を超えてきて疲労が目に見えている。

 

 

 文香は一人、14勝9敗で24戦目を迎える。一緒に戦っていた四人は既に予選突破を決め、孤独の恐ろしさと対戦相手との三つ巴の戦いになっていた。

 ふと上のラウンジ席を見ればこちらを見下ろすように哉人が見ている。彼はこの中でも間違いなく優勝候補筆頭であり、一年生に限らず、それどころか学生という括りを外してもなお優勝候補に並ぶほどの実力者だ。この予選程度片手間に突破していることだろう。

 そしてずっと一緒に同門として育ってきた拓也も既に突破を決めている。だが文香は勝ち抜けていない。

 高校に入学してからは授業で哉人や雪乃といった本物の戦場を経験している強者たちに鍛えられて決闘でも学年上位の勝率になって来た。

 だがそれは三館で一番レベルの低い修導館だからだったのだとよくわかって来た。

 身体能力や技の精度など純粋に高い実力者の多い明倫館の生徒と喧嘩殺法的に確殺、必殺の技を誰もが一つ持ってくる造士館の生徒たちに悪戦苦闘していた。

 それでも大幅に勝ち越しているのは目が慣れているから、という点が大きいのだろう。

 それでも最後まで諦めずに薙刀を握りしめる。

 そして次の対戦相手が決まって、指定された会場に移動する。



 なんとか文香もギリギリで予選を突破して翌日の本大会。

 開幕試合にカード、一回戦第一試合。

 御影哉人対上杉文香。


「まさかこんなことになるとはね」


 哉人は訓練用の刀の柄をしまったまま正面に立っている文香を見据える。


「どうして、こうなるのよ…」


 文香にも努力の成果を発揮したい、出来るだけ勝ち残りたいという気持ちは強い。だがそれを成すには目の前の今大会最大の障壁を乗り越えなくてはならない。

 だがその壁はあまりにも高すぎる障壁だ。普通に考えて勝てるわけがない。

 希望は無い。だが容易く絶望に屈する気もさらさらない。

 哉人は一言だけ告げた。


「来い。全てを持ってかかってこい」


 試合開始のブザーが鳴り、文香は初手から一気に詰めて突きを繰り出す。

 だが次の瞬間哉人は納刀したまま一歩前に出つつ薙刀の穂先を回避しつつ右手で掴む。

 文香は全力で振り払おうとするが梃子でも動かない。すぐに自ら得物を捨てて組み討ちに持ち込もうとするも逆に哉人に奪われた薙刀が既に順手に持ち替えられて振り払われ、薙刀の刃が文香の体をすり抜けていく。

 まるで勝てるわけがないという予想通りの決着を知らせるブザーが鳴る。

 哉人は刀を抜く事はなかった。そして何一つその手の札は見せることは無く彼はその場を去っていった。

 勝てるとは思っていなかった。

 だが例え友人であっても、彼は大義の為に目の前に立ちはだかるのなら容赦しないという底の見えない姿を見てここで文香は本当に心が折れてしまった。

 その場から退場し、会場のまだ誰も通っていない敗者の通路を歩くたびに涙が零れた。

 一度はやめようと思った。だが幼馴染には励まされ、憧れの人に手を貸してもらい、雲の上の存在だと思っていた人に手が届くことを知り、クラスメイトの奮闘に勇気をもらった。

 だが自分の勇気は空回り、友人には窘められ、それでも傍に居たいがために実力を見せようとするも何一つ、自分の考えた手立ては通用していないことを痛感させられた。

 自分は何かを成せる人間ではないと、思い知ってしまったのだ。


「もう、やめよう…」


 出口にたどり着いたとき、そこで運命的な出会いを果たした。


「アラ、これ、アナタでしょ」


 先の折れたとんがり帽子をかぶった洋装の少女が画面を見せながら会場から出てきた文香に詰め寄ってくる。


「ねぇ、私と一緒に来てくれない?」

ちょこっと登場人物解説


今川君「たのもー」


洛都中の道場に押し入っては道場破りを繰り返す剣士。決闘は嫌いだが剣を極めることが趣味というやべー奴。序列はランク外だが多分造士館で三本の指に入るぐらい強い。こういうのは洛都にいくらでもいる。

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