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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第三章 平行線を駆け抜ける
36/46

韋駄天伝説

 修導館高等学校体育祭。それは真秀一のマンモス校にふさわしい規模となっている。まず体育祭が三日間ある。これは人数が多すぎて一日では競技が終わらない、そして出場数競技が少なすぎるからだ。

 よって初日は競技科と専科、二日目は普通科、最終日に華族科が出場する。そして三日間の合計得点で覇を競う。

 まあ華族科だけでも一クラス男女たして40人、それが16組、そして三学年。合計1920人にも上る。

 その規模は既にほとんどの学校よりも規模が大きい。

 そして体育祭午前の部の最後を飾るのはクラス全員でバトンを繋ぐリレーだ。

 流石に16組同時に走るのは無理があるので体力計測で格段成績上位2組ずつと下位2組ずつに分かれて行う。が、そもそも入学の時点で成績上位者ほど前の方のクラスに入れられているので今回の上位組の出場クラスは1から8の組だ。

 現在の総得点は生徒会長率いる緑団が一位。我らが赤団がその後ろを青団と共に追い、黄団が頑張って追いかけてはいるが残念ながらもうすでに逆転は絶望的な差がついている。

 優勝争いに残るには配点の多い集団競技でより得点を重ねる必要があった。だが高得点が欲しいのはどの団も同じ。

 俺は先頭ランナーのスタート位置で立つ。かつては一クラス42人の普通科と共に走っていた名残で今も42枠ある。一応担任に走らせることもできるのだが担任よりも哉人と拓也の方が早いので二人が二度走る。


「がんばれー!」


 同じ待機場所の雪乃が大声で応援してくれる。学校に隣接した4万人収容可能な巨大スタジアムいっぱいに集まった観客の歓声の中で行われるということで非常にテンションも上がる。


『位置についてー!よーい!』


 普通科放送部のアナウンスに合わせてスターターピストルが掲げられ、そして引き金が引かれる。

 第一ランナーが全員指定コースを走りだす。俺は一番内側なので一番後方から走るのだが距離の半分を過ぎたころには既に目に見えて先頭に立っている。

 一組は俺が平均値を大きく上げているだけで中央値ならこの中だと上位を狙えるタイムではない。それだけに大きくリードを奪っておく必要があるし、最後に絶対に逆転に持ち込まなくてはならない。


「頼む」

「任せろ」


 一言だけ交わしてブッチギリの一位でバトンを拓也につなぐ。次に受け取る時も拓也から受け取ることになる。

 拓也も学年で三本の指に入るぐらいには早いのでなんとかなるだろう。

 俺はアンカーでのバトンパスゾーンへと移動する。少しずつ貯金を使い潰しているがこれならもしかしたら最後まで一位でい続けられるかもしれない。

 そう思っていた自分がいました。普通に抜かれて4位まで落ちたわ。幸い2位が同じ赤団の5組なのでまだ許せる。

 みんなそれぞれ所属するクラスとついでに同じ団の応援をしている。俺はまだ出番があるし午後の種目に備えて体力を残しておかなくてはならない。だから全力で応援はできない。

 だからね拓也、君も張り裂けそうになるほど声を上げて応援するのはやめたまえ。

 そしてリレーは後半に入り、5位でバトンを受けた文香はしっかりと順位が変動することなくバトンを渡し、さらに30番目のゼッケンを付けた雪乃が受け取って男子に追いつかんとするほどの速さで追いかけている。

 とにかく全力で走り抜けて、次のランナーは千沙希。女子の中でしれっと最も早いのでかなり後の方に配置されているのだ。

 

「ハァ…ハァ…千沙希さん!」

「雪乃!」


 二人のバトンパスが練習通りに渡され、無かった。


『あーっとここで一組がバトンを落としてしまった~!』


 雪乃が千沙希に渡すために手を伸ばしたところでバトンを落としてしまった。


「急いで拾え!」


 まだバトンは千沙希には渡っていない。雪乃が拾わなくてはルール違反になってしまう。

 しかし雪乃は一瞬足を止めてしまった。そしてすぐに取りにはしり、千沙希に改めて渡しなおす。

 だが一秒でもトラック競技には大きな差になる。

 このミスでさらに順位を落とし、最下位にまで落ちてしまった。

 自分の出番を終え、待機列に並ぶ雪乃は虚ろな表情をしていた。

 あれだけ練習したのにもかかわらず、ミスをして、さらに少しずつ後退していた順位も最下位に落としてしまったことで責任を感じ、暗い顔で俯いている。

 なんとか追い上げてはいるが半周近く差がついてしまっている。全ての組が速い者を終盤に揃えているはずだ。追いつくのはそう簡単ではない。

 さらに2週、追いかけるがすこしずつ差を埋めつつあるが未だ届かない。

 そして最下位のまま拓也にバトンが渡り、さらに急激に追い上げて一人を抜き、そしてさらに一人前を走る6位に追いつき俺に渡った時点で6位タイだ。

 よくやった。偶に道場に顔を出して鍛えておいた甲斐がようやく報われたというものだ。


「頼んだぜ!」

「後は任せろ」


 先程とは逆の立場で一言だけ交わす。

 先頭はもう向こう側の直線に入るところだ。

 だがアンカーの中では俺がブッチギリで一番早い。50m走だと俺が2秒切っているが二位は4秒代だ。そして400mはみんなだと持つかどうかのギリギリだが俺なら全力で駆け抜けることができる。

 俺は午後の事もすべて忘れて全力で走る。

 200m時点、向こう側のバトンパスゾーンを駆け抜けながら4位まで一気に追い抜いてさらにギアを上げていく。

 そして最後の直線に入り、また一人抜いて最後の一位と肩を並べながら最後のバトンパスゾーンへ入り、体一つ分だけ前に出る。

 同時にゴールテープを自分の身で押しのけながらゴールする。


「ダアアアアアア!勝った!」


 かつて明倫館に通った一人の生徒の功名心から始まったアンカー偏重のルールをここまで活かす事になるとは思わなかっただろう。

 今回だけは感謝してやる。だが許さんぞクソ爺。


「御影!ありがとう!」

「やっぱ最高だお前!」


 俺の元にみんなが駆け寄ってくる。劇的な大逆転を成し遂げたことでスタジアム全体が揺れるような大歓声に包まれアナウンスもまともに聞こえていない。

 集まって来たクラスメイトと同じ赤団の5組(3位)の生徒も集まってくる。

 押さないでちょっと久しぶりに乳酸溜まって結構辛いの。妖気神通力無しで走るの久しぶりなんだよ。何年ぶりだろうか。

 多分昼寝してるところに都が雷を落としてきて命からがら逃げだすことになった時だ。

 

「ちょっと通してくれ…」


 俺は何とか人の群れをかき分けて何とか進む。号泣してぐちゃぐちゃになった顔の雪乃を見つけ、がんばって駆け寄る。


「哉人…さん…!私…私…うわぁあああああああ!」


 練習通りにできなかった悔しさと、最下位まで落とした責任と、そして全てを取り返しての歓喜と強烈な感情が押し寄せているようで一周回って心が読めない。


「大丈夫、一位になったよ。落ち着きな、可愛い顔が台無しだよ」

「うわあ~」


 この後二年生の全員リレーと三年の全員リレーがあるんだけどどうするんだろう。

 あっ、教員陣が入って来た。他のクラスも整列して整然と退場し、遅れて赤団も退場していく。

 その混乱に紛れて、俺は全てを拓也に任せて千沙希と雪乃と三人でクラスメイト達が来ない場所で雪乃を落ち着かせる。


「ふぃ~。今回はちょっと危ないと思ったな」


 久々に全身の血流を意識して加速させ、酸素を行き渡らせた。反動が強いから普段は使わない。というか妖気を使った方が強化されるから使いどころがない。

 古典的なこの技は前に一度だけ師匠に教えてもらった技で、そして久しく感じる筋肉痛になりつつある。


「ごめんなさいい~!」

「もう勝ったのだから泣き止みなさい。午後の部が始まる前に昼食も食べるんですよ」


 俺が座敷で四肢を伸ばしてだらける傍で膝を抱える雪乃をなだめる千沙希。

 なんか最近千沙希が頼もしく感じる。責任から解き放たれて本来のポテンシャルを発揮し始めているようだ。よきよき。


「雪乃、落ち着いてきたなら俺の足を少し冷やしてくれないか?この後まだ俺の出番があるんだがこのままではまともに動けない」

「はい!私にできることは何でも致します!」


 雪乃は涙を凍らせながら湿布の代わりに氷属性の妖術で両足の筋肉をちゃんと冷やしていく。

 さらには千沙希が頼んでもいないのに汗を拭いて筋肉を揉んでマッサージしてくれる。


「ありがとう。千沙希」

「これだけ注目を浴びたのです。午後は想定以上に狙われるようになりますから」

「あーそうだった。きついな~。拓也には頑張ってもらわないと」


 クラスでも人気の女子二人に献身的にサポートしてもらい、なんとか調子を戻して午後の部最後の種目を待つ。

 四色の各団の男子80人ずつが東西南北のゲートから入場する。

 そして等間隔に配置された棒を建て、その一本の棒を守る様に陣形が組まれ、そしてその上に俺が一人で立つ。

 そう、棒倒しだ。修導館の棒倒しは四団が同時に攻め、そして守りあう。320人の華族の高校生が同時に互いの威信の象徴たる棒を賭けて闘争を繰り広げる。

 俺は赤団一年の総長として3重のサークルの上乗りを務める。そして最前線で攻撃部隊を率いるのは拓也だ。

 実は拓也は統率能力が高い。元々地元じゃガキ大将で中学に入ってからは俺の影響でモミジとも一緒にゲームもしている。

 よって指揮能力も高い。頼んだよ~。

 俺が行けば簡単に倒せるんだけど、今回ばっかりは俺が防御に回らないとやばい。かなりやばい。


「お前ら!やるぞ!」


 俺は競技開始直前に最後の一押しの檄をかける。

 先程入場前に壮行会的な演説で士気を高めてはあるがそれもこの先の展開が読めている俺からすれば気休めにしかならない。

 本当は千沙希にやってもらった方が効果があるんだけどそれはしないって約束したからね。

 おー!と答える赤団の諸君。残念ながら俺の期待していた水準には達していないがこれで戦うしかない。マジで頼むよ拓也。

 そして戦いの開始を告げる大銅鑼が鳴り響いた。

 基本的な作戦はまず残る棒倒しすべてで勝ち抜かないと優勝できない黄団を攻める。

 総合順位は今生徒会長率いる緑団が一位なのだがそれを追う我らが赤団との得点差はこの棒倒し三戦で勝ち越せば簡単に逆転できる差でしかない。

 ここで俺がすべきことはただ一つ。ヘイトが完全に赤団に集中しないようにしつつ黄団と青団を蹴落として緑団との一騎打ちに持ち込むこと。それができれば後は先輩方の政治力次第だ。黄団と青団をどれだけ味方に付けられるかの勝負になる。

 さあ、みんなはどうなるかな。

 四団が同時に攻撃防御を行う棒倒しということは、まず最初に誰もが考える作戦がある。

 青団、緑団、黄団の攻撃部隊が一斉にこちらに向かって来る。

 デスヨネー。シッテタヨ。ウン。

 ただでさえ俺に対する風当たりは強い。みんな憧れのお姫様にかしずかれ、そしてそれを気にも留めるばかりかむしろ甘え、さらにはクラスの人気者(マスコット)(雪乃)にもずっと頼られ、そして極め付きに決闘無敗という理不尽なまでの強さまで兼ね備える。

 そしてとどめのリレーでの大逆転である。

 今、俺に対するヘイトは最高潮だ。

 俺はこれを想定していたので直前で作戦をみんなに伝えていた。


「距離があるうちにぶつかって勢いを削げ!」


 三団がそれぞれスクラムを組んで突撃してくる。そこへ外側の防御部隊が少数でぶつかっていく。

 当然そのまま押されるのだがそれでも足元で棒を支える部隊にまでは影響が及ばない。

 だが橋頭保を確保され、その後ろから三色の生徒たちがよじ登ってくる。


「登れ登れ!」

「御影を引きずり落とせ!」

「殺せ!」


 おーう。殺意たけーなオイ。

 俺こんなに殺意向けられる理由あったかな。心当たりしかないな。うん。


「ま、そんな簡単にはやられてはあげないよ」


 俺は棒を支えにしつつ上という立場をフルに活かしてはじき返す。

 基本は蹴りで落とし、人の背や肩を足場にして立ち上げる奴が出てくる。そういうのは腕で軽く回して投げる。

 さらに何人も登ってくるが全て一人ではじく。他の団は結構上に何人も乗せているがはっきり言って邪魔だ。俺が一人で対応したほうが強い。足場になる棒を支えるサークル部隊の負担も軽減できるし。

 ということで最後まで一人で上を支配しなくてはならないのだがいつまでも持つわけじゃない。

 拓也はもうすでに少人数で黄団の棒に取りついて傾けている。ナイス!がんばれ!


「後ろの防衛部隊!正面のスクラムを登らせるな!外側部隊!棒から離れすぎるな!戻ってこい!サークル!揺らすな!」


 俺は矢継ぎ早に指揮を飛ばす。まるで海外のゾンビ映画のように必死に這い上がってくる者たちを潰すように蹴落とすのはあまり気分がよろしくない。

 だが状況が大きく変わった。


『黄団の棒が倒れました!』


 実況で一際大きな声でそうアナウンスされて黄団部隊の足が止まる。


「黄団を引き剥がせ!」


 すかさずそう指示して優勝の目が消えた黄団を剥がしていく。これで青団と緑団に集中できるようになった。

 拓也は次に青団に狙いを定めて襲い掛かっている。

 

「さあ、どう出る?」


 修導館の棒倒しは四団同時の戦い。そして最大の特徴は()()()()()()()()()()

 支えるべき棒を失った黄団が全ての人員を一度集めて部隊を再編成する。

 そして残る三つの棒に対して襲い掛かってくる。

 

「来たぞ!亡霊共が!」


 棒倒しは棒が一本になるまで終わらない。棒を失った団はその全ての人員を攻撃に振り分けるのだ。

 得点は入らない。けれど希望を最後につなぐために、そしてそれぞれの失った矜持の代わりに棒を倒して気を晴らすために。

 人数を増した黄団の多くは青団に襲い掛かる。ここで青団を潰せばまだ青団と逆転が望める。そのあとはどうなるかもうわからないがここが踏ん張りどころだ。


「青を潰せ!青を落とせ!」


 俺は黄団に正面を向けて蹴落とし続ける。だがもう指揮の意味は無くなっていた。防衛部隊が覆いつくされるようになり、全方位から敵が飛び込んで防御を引き剥がしにかかる。


「そうはさせん」


 俺は飛び掛かるものを蹴り上げ、さらにサーカスのような大ジャンプで棒へ直接飛んでくる生徒を掴んで投げ返す。

 そして時間もかからずに青団の棒も倒れる。一本棒が倒れると連鎖して倒れるのだ。


「あとは緑との一騎打ちだ!気張れや赤団!」


 俺は最後に一度、気合を注入する。青団防衛部隊の半分がこちらに来たことでスクラムが増え、防衛部隊事棒が間接的に押されて少し傾く。

 攻撃しに来る部隊も防衛部隊も赤団の方が人数が多い。そのためもみくちゃになり、俺は棒を上って掴まれないようにしつつ耐える。

 拓也はもう緑団の棒にしがみついている。上乗りが引き剥がそうとしてさらに揺れる。

 頑張れ!あと一息だ!

 だがこちらの手も足りなくなってくる。

 もう完全に攻撃側が防御部隊を覆いつくし、100人を超える高校生が棒に群がり、全方位から攻撃されることで最早支えられる有様だ。

 最後まで上に取りつかれなければ勝てる。

 視界の端で黄団の亡霊が緑団の棒の頂点に手をかけて大きく揺さぶっている。

 

「あっ!掴むなコラ!」


 だが俺の足首を緑団の生徒がついに捕まえ、動きが止まり、引きずられる。そして空いた棒にゾンビたちがついに掴みかかる。

 だがもう遅い。

 緑団の棒が、完全に倒れていく。



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