黒は白に消えず
中心街に現れた巨大妖魔、がしゃどくろが大通りへ大量の骨を落としていく。その上に視線を送れば飛び交う骨を飛び移って剣閃を光らせている者たち。
スクランブルによって付近にいた華族が招集され、その指揮を取っているのは哉人だ。特に非番だった哉人や退魔局の精鋭と警邏部隊たちによって構成された急造部隊が避難が進んでいない中でがしゃどくろと交戦していた。
土岐の目抜き通りのビル群から頭を出していたデイダラボッチより多少見劣りはするものの軽く50mほどはある高さのがしゃどくろは自身を構成している骨をボロボロと落としながら一歩一歩歩みを進めており、落とした部分の骨は再び再生しているようだ。
「避難は進んだのか!?」
『現在付近2km圏内のビルの中にいる人はほぼ全員退避したようですがまだ地上部分と地下区域にはかなりの人数が残ってしまっています。さらには群衆事故を避けるために時間をかけて誘導しているためと道が塞がれて輸送車が通れず増援部隊の到着は送れる模様です』
既に発生直後からその場にいた警邏部隊が初期対応したことで直接死傷者は出ずに済んでいるがそれはがしゃどくろが発生の過程で実体化するのに時間がかかっていたからだ。
なにせこの巨体は全て本物の骨同様の成分で作られているようだ。こんだけカルシウムを吐き出せばそりゃあ怒りっぽくなるというもの。
哉人が到着すると当時に暴れ始めた。幸い華族が集結しつつあり避難誘導なども警察や消防が手分けして行ったことで割と最初はスムーズに進んでいた。
しかしここは洛都の中でも多くの企業の本社が連ねる経済中心地。今日のこの騒動だけで被害総額は凄まじい金額に上るだろう。
これが外資が入りにくく経済的にも鎖国的になる理由である。リスクなんてレベルではない。
「避難誘導を最優先にしろ!物的損失をいくら出しても人的被害は出すなよ!」
俺は本部に詰めている吉良さんにそう命じる。衛士局の局員は基本的に西土岐にある我が家が本部なので土岐エリア周辺で生活が完結する。学文路以下主力部隊は衛士局本部で態勢を整えてから出動して渋滞に巻き込まれた。飛んで来い。
そんなこんなで今現場にいるのは中心街でデート中だったらしい吉良さんと社会勉強の一環で中心街を散歩していた芦屋一党だけであとは洛都各地に分散している警邏部隊と非番だった楠木正貴の部下である退魔局員たちが中心である。
警邏は避難誘導と足止めの為の工作に回し、退魔局は避難民を護衛させて吉良には現場指令所を取りまとめて外部との通信や指揮を一任した。頑強に抵抗したが他に人員がいなさすぎるので押し切った。あなたは橘氏の次期幹部候補なんです。そのくらい頑張ってください。
というわけで避難誘導と動員が進んでいる中で俺と隠密部隊ががしゃどくろの注意を引いて誘導したり急所を探っている。
成果はまだない。というかまだ肋骨部分で足止めを食らっている。
「チッ、うっとおしい!」
骨を踏むたびに骨が罅割れ中から骨髄が溢れ、触れると焼けるような痛みと共に肌が爛れる。さらに装備も溶かすのでとにかく立ち止まっていられない。
落下した骨にそのような現象は見られないのでそちらは退魔にまかせてとにかく怨念を纏ってて明らかに弱点っぽい頭蓋骨の部分まで全然登れない。
糸を指しても残念ながら骨髄が溢れてさらに糸を伝ってくるので大分困ることになる。既に三人落ちた。
がしゃどくろが大きく手を伸ばしてビルの角を掴んでまた一歩進む。再び肋骨が何本かガラガラと砕けて落ちる。幸い骨髄は一瞬で空気に消えていくので落下してくる骨を回避さえすればそこまで…なはずなのだがまた二人落ちた。もうこれで残るは俺と芦屋を含めて6人。
そろそろまずくなってきた。何か作戦を変えなければ。
肋骨を駆け巡りながらより上を目指して飛び上がる。背骨は矢鱈うねうねしており、しょっちゅう勝手に骨髄が溢れているので危なくてしょうがない。だから肋骨を往復しながら登りながら妖術で風の刃を送って注意を引く。偶に肋骨を自ら胸を叩くようにして壊すのでその度に大きく飛んで回避しつつ大きく登る。
「よっしゃ、なんとか鎖骨まできたぜ!」
ついに肋骨部分を抜けて強烈なビル風が吹いているふきっ晒しの中頭蓋骨に向けて走る。
芦屋達後続達ももうすぐ到着するようだ。
「待ってらんないから一人で行くぜ!」
俺は神通力で大きく飛び上がって顔の前に回り込む。一瞬だけ周囲を見て状況を確認すると避難誘導はかなり進んでおり、ちょっと手荒なことをしても被害はでなさそうだ。
「よお、どんな気分だ?」
俺はついに黒曜を抜き放って空中を蹴って怨念が作り出す眼球へ斬撃を飛ばしてついに攻撃を開始する。左目が潰れて怨念が溢れる。
多くが俺を目指して手を伸ばすように大きく伸びてくるので空中で大きく体を捻りつつ神通力で自分の体を大きく下に引っ張って回避する。
明らかに頭蓋骨の中とそれ以外の部分で性質が違い過ぎる。どうにか砲撃などで吹き飛ばしたいところだ。
「御影君!」
背後から高速で迫るその声に手を伸ばす。俺の手を掴んだのは学文路さんだった。
「地上じゃ埒が明かないんで浮遊機で飛んできましたよ!」
「最高のタイミングだよ!」
中型浮遊機の上に学文路さんに引き上げられる。一気に高度を上げてビルの屋上まで来る。
他にも何機もの浮遊機が飛び交っており、射撃で攻撃している者もいる。どうやら学文路さんの指揮下らしい。だがまともにダメージは入っていない。
がしゃどくろの高さはビルの半分以下。屋上から降りる形で向かうとまともに着地できずに骨髄の餌食になる。これまでは下から前傾姿勢の体躯を上っていくしかなかったが浮遊機があるなら話は別だ。
「もう一度頭蓋骨に近寄ってくれるか?」
「構いませんが何か策でもあるんですか?」
「もちろんだ」
俺は剣を鞘に戻して感覚を研ぎ澄ませる。
『御影君!』
「うわぁ!なんですかいきなり!」
集中しているときにいきなり吉良さんが大声で話しかけてくるので危うく落ちかける。
『避難誘導はあらかた完了しました!ですが少々問題が…ちょっ!』
なんか遠くで千沙希さん取らないでって言っているのが聞こえる。何してるんだ?千沙希…。
しかしさらに代わったのは千沙希ではなかった。
『哉人!』
「文香!?何でそこにいるんだ!?」
『それは後!』
「ええぇ…」
隣で同じ通信を聞いている学文路さんが吹き出しそうになっている。笑ったら減給な。
『いい!?さっさとそんなやつ倒してきなさい!言伝があるから!』
「後で!後でね!今忙しいから!」
『絶対だからね!』
「分かったから!」
文香は納得してくれたのか通信相手は吉良さん…ではなく指令を引き継いだ千沙希に代わる。
『千沙希です。動員が完了、全部隊現着しました』
「了解、雪乃と退魔の妖術が得意な者たちを集めて指定座標に集結、大規模妖術を発動準備させて待機させろ!」
『了解しました』
俺は徐々に神通力を足と腕と刀に集中させる。
そして再び空路で頭蓋骨に近づく。
同時に千沙希から報告。
『準備完了しました』
「両足に向けて放て!」
俺と通信を繋げてくれていたらしく俺の号令で一斉に各々の得意な妖術を放って両足を砕いていく。一気に巨体を支えていた両足を失って一気に崩れ落ちていく。
同時に俺も浮遊機から飛び出して落下する頭蓋骨に着地、同時に頭蓋骨を足に纏わせた神通力で僅かに反発する様に浮遊、しかし距離は一定を保ち、滑るように頭蓋骨を駆け抜けて前かがみになって大きく露出した頸椎を確認する。
神通力を用いた技術、「グライド」。地下道で駆けずり回って以来練習していた新技だ。
「総員、退避!」
俺は反発力を前回にして跳躍。空中に躍り出る。
がしゃどくろの体はまだ完全に空中にある。このまま落下すれば全身から骨髄が噴き出して未曾有の被害が出る。
それを回避するにはただ一つ。
「はぁぁああああああああ!『首打ち・一撫で』!」
斜めに首を切り落とす。閻魔影心流に伝わる首打ち技の一つ。戦場で組み伏せた敵の首を取る為と打ち首や切腹の介錯の為の技である。
神通力の光が剣の軌跡を描いて頭蓋骨が落ちる。
同時に他の全ての骨は接続が切れて空中で砕けて骨髄が溢れない。
そして白い塵芥の桜吹雪と化した骨の中を落下していく。
残った力で全身を包み、そして光の呑まれて俺の体が消えていく。
俺の体は同時に頭蓋骨の頭上に現れる。短距離転移だ。
「再度妖術で総攻撃!」
俺も刀を鞘に収めてから再び剣気を込めていく。
くるり宙で一回転。訓練された華族たちはすぐに再び展開して妖術を放つ。四方からの同時攻撃を受けて顔面から落下していくのを下から救い上げるように妖術を受けて顔面がボロボロと砕け、怨念もかなり散らしていく。
核が、視認できた。
その一瞬を逃さない。
「絶影!」
神通力で拡張された斬撃が下から打ち上げるように正確にがしゃどくろの水晶状の核を二つに割って、さらに砕け、脆い内側から砕いて頭蓋を完全に二分する。
がしゃどくろの影も二分される。そしてそのすべてが白い灰となって崩れていく。道路に雪のように降り積もっていく。
俺は大通りの中央に着地してがしゃどくろが全て地に臥せることで発生する強風と灰の風を全身で受け止め…はしないでちゃんとバリアを張って防ぐ。
やがて風が収まり静寂が訪れる。その一瞬の静けさが何よりの証拠になった。
『妖魔討伐を確認!』
千沙希が宣言すると一斉に歓声が上がる。俺はその中心でフードをかぶり、剣を掲げる。
こういうパフォーマンスも、ちゃんとしないとね。




