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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第三章 平行線を駆け抜ける
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青春の日々

 高校一学期の学校行事は何か。それは体育祭だ。二学期の初めに行う学校も多く、明倫館などは二学期に文化祭と連続で行うのだが修導館は体育祭が5月で文化祭が10月初め。ちなみに造士館は体育祭が7月初めで文化祭が11月とかなり遅い。平民の割合が少なく、大学進学者が少ないからだそうだ。受験に被るしな。

 そして体育祭が終わるとすぐに三館合同大会の一つ、新人武闘祭が始まる。高等部一年生だけが参加する。優勝候補筆頭は俺らしい。そらそうよ。おーん。

 なんか明倫館にも結構やばいのがいるっぽいね。明倫館の一年の中で序列が一番高いのが結構二三年の強豪と決闘して勝っている。というか無敗だ。少し調べてみると陰陽術使いらしい。勝ったな。

 俺が一体どれだけあの彼岸一危険な魔女に襲撃されたと思ってるんだ。最近は訓練で芦屋と立ち会うからさらに陰陽術に対しても強くなっていると思う。

 昨年の新人戦を調べてみると源進九郎が初戦不戦敗だった。なんでも試合開始直前に腹を下したらしい。草。

 そら初陣でも引っ張り出されるわ。情けなさすぎる。さすがぼんくらーズのリーダーだ。

 閑話休題。俺たちのクラスも迫る文化祭に向けて体育の授業で競技の練習をしていた。


「はい!」


 俺は走り出しつつ拓也から渡されるバトンを目視することなく受け取って全力疾走に入る。

 クラス対抗全員リレーのバトンリレーの練習だ。ちなみに人数が少ないので俺は先頭とアンカーに二度走る。神通力で鍛えられた肉体は普通科の二倍ぐらい早いのでただのズルのようなものだ。

 修導館はどのコースも四の倍数の分クラスがある。新設コースでも初めから四クラス用意される。馬鹿だと思う。

 体育祭などでは順番に赤、青、黄、緑の四団に分かれる。俺達は華族科一組なので赤団に属する。

 クラス対抗にすると絶対に普通科や専門科は華族科に勝てない。体育科ならともかく華族の高い身体能力に勝てるわけがないのだ。

 その中でもブッチギリで一番早い俺が二度走るのは当然の戦略だ。

 小学校中学校6年間同じバトンパスを毎年しているのでもう水ともタイミングがばっちり合う。


「すごい滑らかなバトンパスですね!」


 少し休憩に日陰に休みに来ると雪乃と千沙希が待っていた。

 熱に浮かれたのかテンションの高い雪乃が褒めてくれる。素直に嬉しい。拓也も同じ気持ちのようで少し恥ずかしそうだ。


「まあもうこれで10年目だからね」

「ずっと一緒なんでしたっけ、すごいですね。羨ましいです」


 高校に入って良く分かった。雪乃はとにかく純粋だ。千沙希がずっと共に行動しているから守られているが多分政治的な人の悪意にものすごい弱い。まあ有美が教えられるわけないわな。


「コツとかってあるんですか?」

「コツ?コツかぁ…まあ当然の事なんだけど、渡す側は全力で走って来て余裕が無いから受け取る側がちゃんとタイミングを合わせてあげることと、受け取ってから全力疾走に入る前にしっかりと走る体勢を整えることだ。特に競っている時にはバトンパスの場所がぐちゃぐちゃになるから無理な体勢で走らないことかな」

「なるほど…ありがとうございます!」


 眩しい笑顔と共に頭を下げ、そしてバトンパスをする千沙希を引きずって練習場所に引きずっていく。ちなみに女子の中で一番早いのは千沙希ではなく雪乃だ。

 神通力使いとしてかなり足が速いのだが雪乃はそれ以上だった。当然本番では妖気や神通力や陰陽術の使用は全面禁止なのだがそれでも神通力使いと半妖という元のスペックが高い分体力測定でもほとんどの項目で二人は上位だった。

 だから男子ともマッチアップすることの多い終盤に彼女たちの出番があった。


「ふう、疲れた」

「お疲れ」


 神通力でそよ風を吹かせて少し汗をかいている文香を涼しませてあげる。


「風、ありがと」

「なんのこと?」


 あまり周囲にバレたくは無いのでわかりやすくとぼける、文香は少し笑っている。


「どうせアタシたちがどれだけ負けてもアンタが一人で逆転するんでしょ」

「いやいやそれはどうかな」


 全員リレーは一周400mのトラックを四分割で一人100m走る。だが先頭は200m走り、アンカーは400m走る。つまり俺は6倍走る。体力的にも400mぐらいなら全然問題ないからズルだと思う。こないだ地下道の捕り物で10分ぐらい全力疾走し続けたし。いやアレ妖気と神通力でガッチガチに強化してたわ。参考にならんわ。


「でもまあ、みんなの頑張りを無駄にはしないよ」

「ふーん、そう」

「少しは期待してくれてもいいんだぜ?」

「いや、しないけど」


 心に傷を負った。今すぐに話題を変えよう。


「そういえば今日本当についてくるつもりか?」

「ちゃんと話すって言ったでしょ」

「わかったよ」


 そしていつも通り決闘を10戦程してから俺は菓子折りを道の途中で買って、中心街に向かう。

 洛都中央医療センター。真秀の最高峰の医療が受けられる大病院である。元は橘家の治療院。

 妖魔病の最先端の研究もおこなわれており、天文台の支援を受けている。

 その特別室。VIP中にVIPの部屋に俺は入る。


「久しぶり、母さん」

「失礼します」


 続いて入って来た文香に母さんは驚く。


「まあまあまあ、上杉さんね。来てくれたの、嬉しいわ」

「その…お久しぶりです」


 中学の時にイベントとかで二人は何度か顔を合わせており、見知った仲だ。


「はいこれ」

「もう、わざわざ持ってこなくていいって言ったのに」


 俺は菓子折り(ゼリー)を母さんに渡す。


「ま、偶にはね。最近晋士来れてないんだってね」

「ええ、最近忙しくしているみたいね。哉人も忙しいんじゃないの?」

「最近は部下が仕事に慣れてきて俺が出向かなくて良くなってきたんだよ」


 芦屋を隠密の中でも一人だけ戦闘能力が高いので学文路に指揮を取らせて芦屋を中心に戦わせると結構安定して妖魔を倒せている。この調子ならしばらくは学業に集中できそうだ。

 完全に文香が置いてきぼりになっていた。呆然としてぽかんとしている。


「あ、悪い。完全に忘れてた。母さんは俺が中一の夏まではクリーナー(妖魔痕跡を処理して妖魔病の防止をする職業。下級華族が多い華族の非戦闘職)をしてたんだけど、衰弱型の妖魔病になってしまって、入院したんだ。そのあと一度退院できたんだけど、去年の夏にまた体調を崩しちゃったんだ」


 文香は家出のタイミングだと気づいたようだ。


「でももう退院の目途ついたんだっけ?」

「ええ、でも半年後だけどね」


 妖魔病は薬理的に解決することもあれば時間が解決することもある。母さんの場合は伝染こそしないが一度症状が落ち着いてもまたぶり返すことがあるというのが問題なのだ。

 窓辺に二輪の花が生けられているのを見つけた。

 左右に開いて下がる藤。


「母さん、これは?」

「ああ、それはね、病室に入れてもらえないからって、送られてきたの」

「…チッ、これからは俺が花も買って来るよ」

「もう…」


 俺は沸々と湧き上がる怒りを隠しきれずに舌打ちをもらしてしまう。

 母さんの手前、どうも文香の存在が空気になりがちのようだ。


「哉人…?」

「いや、なんでもない」


 俺の怒気に気おされたのか全て話すとは言ったがここでは引き下がった。

 その時にコンコンとノックする音が聞こえる。


「「どうぞ」」

「「失礼しまーす」」


 担当医師の人と看護師が入ってくる。真秀では医師の需要が多いので結構医師が多く、担当が定期的に回ってくる。


「お、今日は哉人君が来てくれているんだね、丁度いいや、ちょっと来てくれるかな?」

「ん?あっはい」



 俺は医師に連れられて途中の屋外ラウンジに連れて来られる。

 そこで最近来れていなかった間の治療の経過を教えてもらっていた。


「じゃあ一応経過は順調なんですね」

「今のところは…ね。でも、半年は様子を見ないといけない。退院か、ずっと治療が必要になるかは、時間をかけないとわからない」


 退院の目途という話はこういうことだったのか…。目途というよりラストチャンスのようなものだ。


「母をよろしくお願いします」

「ああ、任せてくれ。君も、無理はしないようにな」

「ええ、俺にも守らなくてはならないものがありますから」


 医師は先に戻っていった。俺は少し風に揺れたくて一人残っていた。


「坊主、悩んでいるようじゃの」


 気配を隠して近くのベンチに杖を片手に座っていた老人がその期を見計らって話しかけてくる。

 兼隆とかいう名前のじいさんで、大分長いこと入院しているらしい。

 俺と顔を合わせる度話しかけてくる面倒なじじいだ。


「アンタには関係ない話だ」

「そうにべもなく突き放していても何も解決せんと思うがのう…」


 このじいさんは人に話を聞いておいて嘲笑う、話を聞くだけ無駄だ。

 飄々としているがボケてはおらず、その身に宿す妖気の静謐さ、そして手入れの行き届いた仕込み杖。

 見える者が見ればすぐに気付く。この老人は引退した華族だ。それも現役時は相当の実力者だったことが伺える。


「お前さんここに始めてきたときはまだ中一だったか?今は高校1年生なんじゃろ?学校生活は楽しいか?」


 俺がいくら突き離そうとこうして実ににこやかに話しかけてくる。実に鬱陶しい。


「さあな」

「一緒に来ていた女の子は偉い別嬪さんじゃったが恋人かの?」


 このじじいは一体どこで見ていたのか。そもそもいつからここにいるのか。

 なんとなく理由は分かるが理解したくない。自身の感情が許さない。

 食えぬじじいとこれ以上一緒に居たくなくて俺はその場を離れる。爺は一度だけ気配を表して忠告してくる。


「お主は感情に任せて理解を拒む。悪い癖ぞ」

「余計なお世話だ」


 ただでさえ揺らいだ感情がさらに混沌と渦巻きながら俺は母さんの病室に戻った。

 中では文香と母さんが二人で話しているらしい。


「それでね、哉人はこう言ったの。『生活費も治療費も全部俺が稼ぐ。だから二度と俺の家に近付くな』って」

「中…学生…?」

「私びっくりしちゃった。入院費も兄弟で全部払ったって聞いて、いつの間にかこんなに大人になってたんだなって」

「お金どっから出したんですか?」

「多分色んな人から貰ったお小遣いを自分たちのために一切使ってなかったのだと思うわ。お年玉とかも全部」

「ゲームとかには使ってなかったんですか?」

「ゲームはね、全部哉人がくじ引きや懸賞で当てたものなのよ。パソコンとか家電も全部そうよ。元々私の稼ぎが少なくてどうしても買ってあげられなかったんだけど、哉人は『ならお金のかからない方法を選べばいい』ってね。あの子、昔から人に頼むとかほとんど無かったから、今でも全部一人で抱え込んでいるのかもしれないわね。ごめんね~頼りないお母さんで」


 俺は病室の中に入れず、ドアのそばで壁に寄り掛かったまま二人の話しを盗み聞きしていた。


「晋士もそう。私敬語なんてそんなに教えた覚えなんて無いのに、どこで学んだのかしらね」

「華族としての道場ではないのですか?」

「うーん。あの子の先生はそういうことに熱心な人ではなかったから、多分自分で勉強したのだと思うわ。私の知る限り、教えてくれる人なんて居なかったもの」


 その通りだ。俺が天文台で勉強している間、隣でずっと礼儀作法について勉強していた。資料は在原家の書庫から許可を取って持ち出していたのだ。

 それが晋士の自立の第一歩だった。

 端末にスクランブルの警告が着信する。最近は学校でなっても迷惑なのでマナーモードにしているのだ。

 俺は文香に事情をメールで送り、母さんにもそのまま家に帰るとことわりを入れて屋外ラウンジから外に飛び出す。

 荷物は後で部下に届けてもらおう。病院に詰めている部下に連絡して俺は空を翔ける。




 メールが届くと同時に、窓の向こうへ飛んでいく哉人を見送る二人。


「うーん、盗み聞きされてたのかも」


 もう隠した気配を探ることさえ出来ない程に衰えた事を自覚して静流は少し暗い顔をする。

 だが文香はクラスメイトがクラスメイトになる前の言葉を思い出していた。


「あの!お母さん!私も行ってきます!」


 文香は跳ね跳ぶように立ち上がり、急いで椅子を片付けて自分と哉人の荷物を抱えて急いで部屋を出ようとする。


「失礼しました!」

「文香ちゃん」

「はい?なんでしょうか」


 ドアを出るギリギリで静流に呼び止められた文香は振り返る。


「あの子を頼むわね。それと…」


 静流は言伝を頼む。


「はい!それでは!」


 元気よく飛び出していく姿を見送って、静流は窓に視線を送る。

 窓辺には二輪の下り藤。


「あの頃を思い出すわね」

ちょこっと登場人物解説


兼隆じいさん「諸悪の根源」


現役時代は古風で堅物な人物だったが子供離れ過ぎた哉人の姿を見て時代の変化を思い知らされ、今の柔らかな胡散臭い性格になった。かつて高校時代には功名心でリレーのアンカーを務め、足に自身があったのでより目立つために親の七光りでルールを改悪した張本人。さらに反省の色無く様々な特権を振りかざして暴走、当時二重権力問題全盛期でこの時に辛酸をなめさせられた官僚組が政治家に転身し、そしてのちの密輸カルテルの中心メンバーになったどころか反二重権力勢力になっている。つまり哉人のこれまでの敵を作った。果樹園経由で知っているので哉人は常にブチギレている。

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