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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第三章 平行線を駆け抜ける
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才能の差

「はい、妖魔病感染はしていないようだね」


 俺は文香の右手首から腕輪型簡易検査装置を外す。検査するために強く圧迫するので手首に違和感が残ったようで右手首をさすっている。

 俺は学文路さんに合図して封鎖を解除させる。任務が完全に完了した。


「アンタ、いつ仕官したの?」

「去年の夏。機密保持に抵触することは話せないぞ」

「…家出した時ってことね」

「そうだ」


 俺が先導して車を待たせている出口に向かう。避難していた店員が先に戻り、再開店準備をしていく。


「修導館の特待生も?」

「ああ、仕官してしばらくしてからだがな」


 学生の時点で仕官する華族は決して多くはないが他にもいる。身内だからというのもあるが鞍馬党がいい例だろう。


「アンタ、昔っから強かったもんね。私が必死に受験勉強してる間もこうやって仕事してたんだ」

「うん。まあ、そうだね」


 卒業旅行の時に任務の事はぼかしてある。雪乃の事も、託されただけとしか言っていないし、俺が苦しんでいたことも身の回りの急激な状況変化としか言っていない。

 千沙希の事も、預かったとしか言っていない。拓也が特に疑わなかったから右に倣えでずっと黙っていてくれていた。

 拓也の方はどこかで気づいていたようだが。


「決闘はどうしたの?」

「今日も全部勝ったよ」


 最初の方は文香も面白そうに見ていたがしばらくした後は飽きたのか途中で帰るようになり、最近はそもそも見もせずに帰るようになった。

 まあ拓也も千沙希も帰って残ってくれているのは雪乃だけなんだが。


「すごいね…」

「…ありがとうとだけ言っておくよ」


 10人倒した時間は足しても10秒には到底届かないだろう。

 俺にとっては大したことではないが一般的な下級華族である文香からすれば理解できない話なのだろう。

 出口から外に出る。もう管理権限は業者に戻されている。

 俺たちは後を気にすることもなく外に出る。


「家まで送るよ」

「いいわよ、もう安全なんでしょ?一人で帰れるわよ」

「そっか、じゃあな」

「ええ、さようなら」


 普段ならじゃあねって言っていたはずだ。まるで何かと決別するかのようで気味が悪い。なんだかこのまま別れてはいけないような気がする。

 文香の心も重く苦しそうだ。

 俺は背を向けて去っていく彼女に一言声をかけた。


「明日からの大型連休!どこか遊びに行かないか!?」

「…アタシは暇じゃないんだけど?」

「決闘で行けなくなっちゃったけれど、みんなで行こうと誘おうと思ってたんだ!」

「他のみんなも?」

「そう!一緒に!」


 少しだけ文香は考えてから答えを出した。


「いいわよ、後で連絡しなさい」

「…!ありがとう!」


 再び去っていく背中に手を振って、俺も帰路につく。

 俺は心が読めても、真実に繋げられる経験が足りなかったんだ。

 失敗の経験が。




モミジ:君の人生の歯車は大いに狂ってしまったらしいな

ぶぎょー:進んでいる道は正しいはずなのに

ぶぎょー:俺が望んでいた景色とは常に真逆だよ

モミジ:分岐点をどちらに進もうとあまり変わらなかったようだな

ぶぎょー:本当に運命が憎いよ

モミジ:君は他人の願望だけは的確に叶えているようだな

ぶぎょー:良いのか悪いのか

ぶぎょー:狙ってやっているわけじゃないんだよ


 家に帰ってから俺はいつも通り三人で夕食を食べた後、俺はモミジと二人でゲームをしつつ情報交換をしていた。最近は忙しくて一緒に遊べなかった。だいたいひと月ぶりぐらいだ。


モミジ:そういえばアニムスの件、どうなった?

ぶぎょー:うちの天文台は国家に根付いてしまったからな

ぶぎょー:参戦しなくとも

ぶぎょー:何の問題もない


 天文台はそもそも天帝が自らが赴くべき天災を観測するために各ネビュラや重要な拠点に設置している。だが五千年前、ギャラクシーと共に総司令官たる宰相も最高指導者たる天帝も失われてしまった。頭を失った天文台はそれぞれが残った人工知能「キリエ」と共に在り方を模索してきた。

 モミジの天文台は俗世には関わらず、他天文台との折衝と本懐たる対災の任だけを愚直に行ってきた。

 マホロバの天文台もまた俗世には関わらず、モノノフを常に輩出し続けるために此岸と彼岸を分け、様々な協定を分け、そして国防の要になってしまっている。

 だが約束は約束、モノノフを招集するか否かは向こうの自由、とだけ回答した。凌雲さんは大分乗り気のようだが。


ぶぎょー:けど次代が揃えば

ぶぎょー:積極的に出るかもな

ぶぎょー:真秀としてもアクエスやラプラスとの同盟があるしな

モミジ:ウチは乗らねぇ

モミジ:俺一人じゃどうにもならんしな

ぶぎょー:たしかに

モミジ:もうガイストマフトの前線でセントラルのヴァンガードが大分大暴れしてるらしいな

ぶぎょー:三大地獄の一角だからな

ぶぎょー:というかうちはヴィクターの勢力圏から一番遠いから危機感ゼロなんだよ

モミジ:あの演説もあんまり広まってないんだっけ

ぶぎょー:海外へ意識向かないからな

モミジ:周辺国はホウライとかメガラニカぐらいしかないもんな


 画面の中では俺の操作する兵士たちが右側からモミジの陣地を破壊していく。


モミジ:ちょっ!ストップ!

ぶぎょー:今目離してたね

モミジ:あーやらかした


 思考操作型チャットで打ち込みながらひたすら兵士を操作してお互いの陣地を攻撃しあう。大分右から攻めているところに突然モミジの操作する大部隊が現れる。


ぶぎょー:ウソだろ!?

モミジ:残念でした~

モミジ:正面から全部ぶつける

モミジ:運ゲーに頼らねーよ

ぶぎょー:ならその前に本陣を叩き潰してやんよ


 ゲーム開始時のそれぞれの本拠地は俺が南でモミジが北。だから後詰で向こうの伏兵を抑えている間に突破した右翼軍で突破すればいい。

 兵を巧みに動かして少数の部隊で相手の大部隊を抑えつつモミジの本軍を蹂躙していく。そして半分でモミジ本軍を包囲しつつ残る半分で本拠地を襲撃する。

 しかしそこは既にもぬけの殻だった。


モミジ:またひっかかってやんの

ぶぎょー:これ多い方が陽動かよ!

モミジ:ようやく気付いたか


 まずいこちらの本軍の横を突かれて敗走寸前だ。

 モミジの本拠地を先に崩すしかない。遊軍となった右翼軍の半分をそのまま伏兵が現れた方向に差し向けて向こうの伏せていた本軍を本拠地で育てていた新兵たちに遅滞戦闘させる。

 向こうの軍隊と接敵しないよう少し迂回をすることにはなるが。


ぶぎょー:こっちにあんだろ!

ぶぎょー:拠点!

モミジ:流石だ


 本拠地を発見した。本拠地の防衛部隊はほぼゼロに等しい。陽動と伏兵に兵を供出した結果防衛からもひっぱっていったようだ。


ぶぎょー:先に拠点を潰せば俺の勝ちだ!

モミジ:それは上手くいくかな


 戦術単位での用兵は俺の方が上だ。ステータスパラメータという絶対的な数値の差をひっくり返すとまではいかないが時間という相対的な差をひっくり返すには十分なはずだ!

 こちらの攻撃部隊が敵拠点を着々と制圧している間にモミジもこちらの防衛線を力押しで突破してこちらの拠点を制圧していく。

 先に始めたのはこちらだが人数がいる向こうの方が制圧するスピードが速い。


ぶぎょー:ダアア!

モミジ:あっぶねー

ぶぎょー:負けたあああああ!

モミジ:征服度95%まで傾いてた

モミジ:あっぶねー!


 スコア表を見ればゲーム評価的には序盤から最終盤まで俺の方が上回っている。逆転されたのは本当に最後の数秒だった。

 もしもモミジが一つでも操作ミスをしていれば勝っていたのは俺だった。

 その他人口資源施設そして領域の広さから人員の質に至るまで全ての項目において俺が優位に立っていた。

 戦略という記録に残らないたった一点のみ俺は敗北し、その一点の敗北がこの結果に繋がった。いや、繋げたモミジの才がげに恐ろしい。


モミジ:うーん

モミジ:もうちょっと困惑してくれるかと思ったのに

ぶぎょー:嵌められたと分かれば

ぶぎょー:疑いもするし

ぶぎょー:あんな大規模な仕掛け

ぶぎょー:リスクがあまりにも大きすぎる


 もしも逆の方向に拠点があって挟み撃ちにするつもりだったなら、人員が不足するし兵員だけ先程の通りなら最短で進軍できた。当然拠点に攻撃するのが早くなって、俺が先に崩していただろう。


モミジ:ま

モミジ:こっちも色々危なかったけどね

ぶぎょー:兵力どころか全体の人口も資源も何もかもギリギリじゃんか

ぶぎょー:これ失敗してたらどうすんの

モミジ:即時降参だが?

ぶぎょー:馬鹿だろ

モミジ:やりたいことを優先しただけさ

モミジ:ロマンと言ってくれ


 だがそのロマンを綱渡りとは言え完遂し切るその鬼謀、胆力。

ついでに戦闘力も高いらしい。恐ろしいね。

 でも彼が味方なら頼もしいことこの上ないな。


ぶぎょー:頼むから敵に回らないでくれよ

モミジ:そうだね

モミジ:それは

モミジ:我らが天の帝次第だね


 俺はゲームを終了する。モミジも落としたらしい。気づけば日付が変わりそうだ。ちょっとやりすぎたかな。


ぶぎょー:そろそろ落ちるぜ

モミジ:俺も夕食だわ

モミジ:おつー

ぶぎょー:おつー


 俺はチャットも閉じて思考操作ヘッドギアを外し、机の上に置く。

 そして上を見上げ、ふーっと大きく息を吐く。


「お疲れ様です」


 そのまま背後に目を向けるとそこにはお茶を淹れてきたくれた千沙希が立っていた。


「んー千沙希?どうしたの?」

「お茶を持ってきた。ゲームは終わったの?」

「まあね。ありがとう」


 千沙希が湯呑みを渡してくれる。飲みやすい温度に調節されていてすっと喉を通っていく。

 限界まで巡らせた脳が少しづつ冷えていく。

 千沙希は普段は敬語を崩すことは無いが家の中で、雪乃が寝た後(結局寝る時間はそのまま変わっていない)、二人でいる時間だけ敬語を外して話す。神通力のリソースを全部心の壁に振り切ってる割りにどうも好意はダイレクトに伝えようとしてくれる。


「モミジさん、だっけ?」

「そう」

「対戦型ゲームのようだったけど、勝てた?」

「負けた。惜しかったけど、たぶん最初から負けてた。悔しい」

「負けること、あるのね」


 千沙希は隣に席を持ってきて座る。そして自分の分の飲み物を飲む。どうやらゆっくりと話を聞くつもりらしい。


「そりゃあ、俺だって無敵じゃない。負けることぐらいいくらでもあるさ」


 師匠には一度も勝てたことは無いし、渋谷さんにも勝率は3割、香澄さんにも勝率は4割もいかない。香澄さんは手加減してるだろうけど。


「まあ、君と出会ってから一回も負けてないね。そういえば」

「まだ妖術も風属性以外使えないんでしたっけ」

「そうだね」


 妖術は人によって得意不得意がある。得意属性は良く扱え、苦手属性は使いこなすのは難しく、自ら受けるのも難しい。とにかく苦手なんだ。

 ちなみに僕は風が得意、雷と水もある程度得意だけど土だけはどうも苦手なようだ。


「妖気もまだ扱えていないんでしたっけ」

「そうだね」


 基本的に華族は妖気で身体能力を強化し、得物も強化して戦う。基本的に妖気は自分自身の周囲までにしか影響を及ぼせない。妖術も手元で発動して移動させているに過ぎない。

 神通力もそうだ。「(パス)」が無ければ力は送れない。熱、電気、振動など全てのエネルギーは何か媒体が無ければ力を送ることは出来ない。

 神通力の念力は遠距離で操作しているように見えるがあれは神通力が使い手にしか見えないという性質による為(パス)が延びていることに気付かないだけなのだ。


「決闘だと神通力も使ってないんでしたっけ」

「そうだね。素の動体視力と身体能力だけだね」


 妖気や神通力を適切に使えれば動体視力も身体能力も大幅に強化できる。

 けれど訓練までそれに頼っていると剣の冴えがなくなり力任せに振るばかりになってしまう。

 まさに今の自分だ。それを防ぐために一般的に高校生になるまで妖力の操作は暴走しない程度に制御することだけを身に付け、基礎的な技術だけを鍛え上げる。

 俺の場合は神通力があったので勝手に神通力の作用で力が鍛えられ身体能力が通常よりも引き上げられた状態なので師匠から徹底的に鍛えられているがそれでも技のキレなどの完成度はあまり高くない。

 だから高校の決闘では純粋な身体能力だけで戦うことにした。相手は妖気を込めて戦うが、残念ながらそれでもこの有様だ。

 当然だが対戦相手の生徒の基準はみんな学生レベルなのだが俺の基準はプロどころか洛都最高峰。負けるわけがない。


「羨ましいわ。私も神通力を使いこなせるようになればあなたのようになれるかな」

「無理だね。才能が違う…そう…才能が…」


 俺は昔から渋谷さんにも渡り合いこの国で最高の魔女から襲撃を受け続けている。それでもモミジには勝てない。

 俺が今大人の中に入っても頭脳でも大きく劣っているわけでもなければ失策もない。それでもモミジには敵わない。

 俺が才能の差を感じるように、みんなも才能の差を感じていたんだ。

 一緒に過ごした時間が長いほど。

 

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