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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第二章 降り積もる罪と責
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止まらぬ刃

 学文路と吉良は追手を弾き続けていた。二人の戦闘スタイルは刀を片手と両手を適宜に使い分け、妖術は基本自己強化につぎ込んで牽制か片手で刀を持つときに差し込む程度でしか射程のある攻撃はしない。

 一般的な華族の戦闘スタイルである。これはかつて華族が「侍」と呼ばれていた時代。真秀国が「真秀帝國」と号していた時代の後期。侍同士の暗闘が市内市街問わず行われていた。閉所で、入り組んだ街路で、空中で、地下で、水中で、部屋の中で、いつでもどこでも一定の効果が上がる武器は刀だけだった。

 やがて妖魔の隆盛によって大型化こそすれその形状は大きく変化したりはしなかった。

 彼らには今も流れているのだ。人と人とで殺しあう、武人の血が色濃く。

 ここに追いかけてきた隠密は10人。ただでさえ減った有美党の、最後の半分を投入して追いかけてきた。

 だが残る半分で源氏部隊を抑えるのは不可能だ。

 義臣は同じく半数を連れて追いかけてきた。閉所での戦闘では同士討ちの危険性が付きまとうが流石は摂家の精鋭部隊。全員傷一つ追うことなく制圧してのけた。

 そしてそんな源氏を率いる男が二人の前に立っている。


「君たち、聞こえなかったのか?」

「聞こえていますよ。それでもだめなんです」


 とても味方に向けているとは思えないほどのプレッシャーを放たれて、学文路と吉良は思わず一歩下がってしまう。


「誰も通すな。主の言葉です」


 吉良がそう啖呵を切るも絶対に敵わない相手であることは自分が一番わかっていると言わんばかりに得物は決して向けられてはいなかった。

 

「チッ…」


 義臣は珍しく舌打ちをする。




 俺は全ての妖気を全力で機動力に回す。刀を振る腕力は鍛えた肉体だけで行う。一度捕まったらそれで終わり。源義臣もそうだった。

 有美は隠密、対人戦は原則一撃必殺。

 神通力をフルに使って空中で急激な方向変換と急加速を繰り返す。

 そして常に首を狙い続け、雪乃を狙う隙を与えない。

 戦いは未だ序盤、有美はまだ忍刀で受けるだけだが周囲で隙を伺う雪乃から意識を外さない。


「君の力はそれだけか?」


 それが次のステージへ進む、合図だった。

 空間そのものに押し出されて、距離を離される。この隙を突いて雪乃に暗器をいくつか放つ。


「させるか!空送(からおくり)!」


 こちらも同じ原理で空間を押し出して真空の壁で暗器を防ぐ。

 これは紛れもなく、神通力。有美も神通力使いなんだ。


「俺から目を逸らすなぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 お互いの神通力を乗せた剣がぶつかる。全身の骨と筋肉に衝撃が走る。

 神通力の出力自体は負けてないはずなのに、押し負けてる。剣の当て方はそこまで差異はない。

 差があるとすれば、神通力の方向性。

 俺は千里眼や念話といった内側への力に長けており、有美は刀に神通力を乗せるのが俺よりも長けている。


「私をお忘れなく!」


 雪乃が吹雪の術を放ってそれを嫌った有美が自ら距離を取る。


「お前はまだこの舞台に上がる資格はない」

「えっ!?きゃっ!」


 有美は雪乃の足元の畳を持ち上げて足元を崩す。

 そんな畳返しありなのか。遠くのものを動かす技術は俺にはない。


「させんぞ!」


 雪乃の前に出てそのまま背負って離脱。距離を十分にとってから追ってくる有美を迎撃する。

 何度も繰り返し舞って、練習して、鍛えて、訓練してきた型。単純な突き。

 だがそれほどに滑らかに、速く、貫く。

 はずだった。


「何!?」


 目の前にあったのは丸太。変わり身の術だ。

 身代わりに刺さってしまって刀に重さが重なる。バランスを崩して体勢も引きずられていく。


「そこ!」


 自分の失態をカバーする様に雪乃が吹雪を放って有美を近づけさせない。

 なんで躱された?見て反応できる速さではなかったはずだ。

 違う、知っていたんだ。

 俺の剣は師匠から学んだ剣。師匠と同じ剣。

 師匠の剣は飛鳥さんから学んだ剣。飛鳥さんと同じ剣。

 学生時代、何度も有美は見てきたんだ。俺と同じ剣を。

 馬鹿か俺は。俺のルーツは飛鳥さんなんだ。教わってきたものは全部知られてる。きっと絶影も見切られる。他の秘伝の剣もきっと知られている。

 基本的な身体能力も、剣技も、妖術も、神通力も上回られている。使える手札は、有美が知らない、俺のオリジナルの技だけ。

 ならば、今は一つしかない。


「雪乃、お前は前に出てくるべきじゃない」


 雪乃が身を挺して守ってくれている。妖術をレジストできずに自傷さえしている。それでも氷の壁を作って、吹雪を起こして、有美から俺を守っている。

 だがそれでもだめなんだ。

 有美は鋼糸で氷の壁を解体して、暗器を糸と神通力で操って雪乃を全方向から狙う。同時に正面からまっすぐに忍刀で突進してくる。

 全てを回避するのは不可能だ。

 俺は膝が畳についてすぐに全身を神通力で動かした。

 

「俺に、従えッ!」


 普段俺に従ってくれる神通力は8割。2割の妨害では雪乃を守れない。

 全部、従わせて、それで自分の限界まで動かしてそれで間に合うかどうか。

 心の底から全身の意思を統一させていく。最後に残った心の奥の底、魂に秘められたソイツを無理やり動かす。

 ソイツは抵抗しなかった。まるで待っていたかのように力を際限なく預けれくれる。


『しょうがないな、腕だけだぞ』


 そんな声が、聞こえたような気がした。

 突風が吹き荒れて、襖のいくつかは吹きとんで、暗器も糸も、畳も何もかもその星の進みを止めることは出来ない。


「君を守るって約束、したでしょ」


 俺は雪乃を抱えたまま最初の扉の前まで戻ってきていた。

 だが俺はあの時のように、再び空間ごと支配して全てに命令する。

 もう一度、純化し、腕には羽衣の袖だけが纏われていた。


「ごめんね、俺が守ってもらっちゃってて」

「いえ、大丈夫です。わたしこそ、ありがとう」

「ちょっとこれ借りるね」


 俺は雪乃の鉄扇をひょいと拾い上げると神通力を込めて、畳に突き刺す。

 そして雪乃を覆うように神通力の障壁を展開する。


「ここで待ってて、後は俺一人で決着をつけるから」


 さっきは勝てるかどうか、わからずに緊張した状態で入って来た。けれども今はまるでリラックスしているかのように力が抜けていた。


「いこう、白曜。君も、待っていたんだろう?この戦いを」


 純白になった愛刀を撫でてから構える。


「仕切り直しだ、有美影俊」

「よかろう。こちらも最早背水の陣だ」


 俺はまっすぐに空を滑るように駆け抜ける。当然暗器が飛んできて鋼糸が阻み、しっかりとカウンターを構える。

 暗器は神通力で叩き落とし、鋼糸も外側に押し広げてカウンターに剣を合わせ…ない。


「何!?」


 有美の背後に短距離瞬間移動(ショートワープ)で回り込んで背中を斜めに斬る。ざっくりと入った気がした。しかし着込んでいた鎖帷子が抵抗し、妖気を背にかき集めてなんとか防ぎ切ったというところか。

 だがすぐに横殴りに有美は押し出されて襖をぶち抜いて隣の部屋まで吹き飛ぶ。

 だが流石にこの程度ではまだ戦闘は続行できるようで扉の方に走り出す。


「逃がすか!」


 俺もすぐに襖を挟んで追う。途中で姿が消える。おそらく襖の影で反転して背後を取るつもりだ。

 俺は神通力で光の手刀を作り、受け太刀する。だがそこに会ったのは忍刀だけだった。逆の襖を破って有美が手裏剣で斬りかかる。次は右手の刀で受けて流しつつ斬る。

 手裏剣の間合いは刀よりはるかに短い。俺と有美では腕の長さが違うがそれでも俺の方が少し、長い。

 だが有美は再び変わり身の術で丸太を身代わりにする。


「それはもう見た」


 俺は峰打ちで丸太を弾き返し、そして返す刃で今度こそ有美を捉える。


「俺の前じゃあもう忍術も手品だぜ」


 手品と断じられて有美の額に青筋が走った。弟子が弟子なら師も師だ。

 毒霧を焚いて、撒菱をばらまく。だけれど有美は少し心の平静を欠いて完全に失念しているようだ。

 俺は神通力で毒霧を自分の周囲から遠ざけ、そして撒菱を念力で全て一か所に集めて圧壊させる。

 霧で視界を塞いだのが敗着の一手となったな。

 俺は神通力の操作権を全て掌握して神通力で探知できないようにして、一気に間合いを詰めて腕に全ての力を込めて刀を振る。一度振り抜いてもすぐに返してもう一度斬る。さらに返して斬る。背後に回って、上に飛んで、地を這って、同時に常に連撃を加える。


純化・過剰乱舞じゅんか・かじょうらんぶ!」


 そして最後の一撃に全ての力を込めて大振りの突きを繰り出す。

 最早有美にその見え見えの一撃を回避することは出来なかった。

 走馬灯が走り、懐かしい思い出がいくつも甦る。長らく思い出すことのなかった。青い春。ずっと暗く、荒んだ人生を歩んできた。だけれども確かに、色鮮やかな記憶があったのだ。

 どうして大切にしてこなかったのだろう。どうして忘れてしまったのだろう。

 だが過ぎてしまった時は帰ってこないのだ。何をしても消えることは無い。消えるときは、世界もろともになってしまう。

 だから未来に進むしかないのだ。彼がこれまで何度も後悔して、苦労して、それでも前に進んで来たのだろう。

 だが、積み上げてしまった罪が最早新しくやり直すことを許してはくれない。

 断罪の一撃がゆっくりと、しかし確かに。腹部に少しずつ純白の刃が入っていく。

 根本まで入ってから、時間の進みがいつも通りに戻った。

 全ての感情が、記憶が全て流れ込んでくる。神通力を通して流れてくる。

 俺は白曜を引き抜いて血を掃ってから鞘にしまう。

 有美影俊は全身から血を流し、腹部には大きな穴が開いているがまだ応急処置をすればまだ助かる。

 まだ助かるはずなんだ。

 その時だった。

 有美が残る力を振り絞って後ろに飛んで行く。


「待て!」


 有美が掛け軸の裏にあるレバーを引いた。直後、爆発音が聞こえ、焦げ臭い匂いがする。


「自爆か!させるか!」

「待って!哉人!」


 駆けだそうとした俺の足は動かなかった。膝から崩れ落ちて、手を立てたが肘が耐えられない。


「な…んで…」


 畳が変色している。さっきの毒霧の残滓か。乱舞で巻き上がって回避し切れずに吸い込んでいたのか。

 同時に神通力の操作もままならなくなり純化が解け、雪乃が鉄扇を手に駆け寄ってくる。


「哉人!大丈夫!?」

「痺れてる。けど多分効果はすぐに切れる。それよりも、有美を…」


 目の前に天井が焼け落ちてきた。周囲を見れば既に火の手が回っている。もう助けに行けない。


「そんな…やめろ!有美!」

「悪いな、御影君。詫びにもならんが、これを君に託そう」


 有美が掛け軸の裏に隠していた小さな巾着袋を投げてくる。

 手にしてすぐに中を開くとデータメモリーと六花の欠片。


「雪乃。お前には免許皆伝を与えよう」

「師匠…いえ、お父さん!」

「…ふっふっふ…意外と悪くないものだな…」

「何照れてんだ!アンタも逃げるんだ!」

「違うよ御影君。私はもう逃げないと決めたのだ。自分の思い出からも、罪からも」


 有美は腹を露出させ、三文字(もんじ)に腹を斬る。


「全て、託したぞ。マホロバのモノノフよ」


 限界と見て雪乃は扉まで走る。少し押したところで学文路と吉良が開けて、義臣と共に俺を抱えて脱出する。

 有美党の隠密達も、源氏部隊も、持てる物を片っ端から搬出しながら、有美影俊以外の全ての人員を脱出させる。

 全員が外に出て、全ての運べるものも全て遠く離して。そして丘の上の見下ろせる場所にある橘家の陣地の目の前で、大きな火柱と共に崩れ落ちていく保養所が見えた。


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