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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第二章 降り積もる罪と責
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最後の戦い

 哉人と義臣は上から目的地を見下ろしていた。


「見るからに崖ごと海に落として証拠隠滅しようとか自爆しようとか考えてそうな立地ですね」

「ああ。突入は電撃的に行わなくてはならない」

「自爆に巻き込まれのは御免です」

「御影、お前は1小隊だけ率いて突入組に入っていたがいいのか?」

「何がです?」

「橘の嬢ちゃんだよ」


 哉人が源氏側に提出した部隊配備図。ほぼ全ての部隊を周囲の封鎖に回し、哉人、学文路、吉良、そして雪乃だけが突入部隊になっていた。

 千沙希は楠木正貴と逆の位置で全体指揮を執る手筈になっていたのだ。


「ええ。敵は彼岸の隠密。それも洛都で捉えた連中よりも何年も前から有美党にいる古参の手練れ達。千沙希では足手まといになります。そちらも鞍馬党を洛都に置いてきているではありませんか」

「ああ、こちらも半人前を守る余裕は無いからな」


 この作戦はリスクを伴う。限界まで不安要素は排除する必要があった。


「人員は用意した。装備も整えた。できることはやった。後は、奴を倒すだけだ。君も作戦開始までしばし時間がある。休んでおくといい」

「そうさせてもらおう」


 哉人は踵を返してその場を離れ、遠めに見ていた千沙希と共に陣地で向かって行く。

 義臣はその背中が見えなくなるまでずっと目を離さないでいた。



 15年前。白峯の乱の日。

 右京と共に部隊を率いて鎮圧に向かった義臣はすぐにその乱戦の中に呑まれていった。しかし鎮圧部隊全員が日中にも関わらず夜戦用の漆黒の装備に身を包んでいたことで同士討ちが無くなった結果戦場は鎮圧部隊にすぐに制圧されていった。

 義臣はその先頭で乱の中心へと敵を斬りながら向かっていた。

 その中心で戦っていたのは実弟である源為臣と盟友、音羽飛鳥。周囲の敵を巻き込みながら異次元の殺陣を繰り広げる二人の頭上で、もう一つの激戦が繰り広げられていた。

 それは有美影俊とまだ13歳の在原凌雲だった。超高速機動で有美の全てを振り切って戦況を優位に進めていたのは凌雲の方だった。

 義臣の到着で四人は戦闘を停止していたがあのままどちらかが命を失うまで戦っていたらどちらが勝っていただろうか。



 だが今は凌雲の代わりに哉人がいる。その実力は当時の凌雲を遥かに上回っている。


「いや、御影もまだこれからだ。いざとなれば」


 突入部隊の指揮を取らなくてはならない義臣と小隊で遊撃する哉人だと後者の方が最奥で待っているだろう有美と交戦する可能性が高い。

 実力もどちらも今は相違ない。むしろ百鬼夜行の時のような力を発揮したならば、間違いなく哉人が勝つだろう。

 その才能に、学生時代以来の嫉妬を覚える。奇しくも、当時それを感じた相手は二人。それもどちらも今の哉人に繋がっている。


「人は、何もかも犠牲にしても構わないほどに欲したものほど、得難いものだな」


 義臣の周囲には才能豊かな者たちが多くいた。保身の鬼である実父の為朝、全自動殺戮マシーン源為臣、そして政治感覚に優れる長男の頼臣。

 義臣は実績こそずば抜けており源氏で一番名が知れているが家の中での評価はさほど高くない。

 今でも為臣を当主とすべきという声もあり、とても一枚岩だとは言えない。

 もしも自分にもっと戦闘力があったなら、クーデターに頼らず実験を奪い取る政治力があったのなら。

 そもそも雨月・白峯は起こらなかっただろうに。義臣がこの件に介入し始めたのはその責任を感じていたからだ。

 その責任を今日、果たす。その覚悟を胸に秘め、義臣も休息をとるために陣へと向かった。



 日が沈み、夜の帳が下りる。俺は準備を全て整えた状態で珍しくフードを被って作戦の開始を待つ。小隊のメンバーもそれぞれの装備を装着して待機している。


「まもなく作戦開始ですね」

「ああ。源氏が突入してからこちらも突入する」


 それぞれの葛藤は既に準備で終えてきた。今は四人とも気負うことなく作戦の開始を待っている。


「源氏部隊が突入を開始しました」

「なら、俺達も追って突入するぞ」

「「「了解!」」」


 四つの影が夜影に隠れながら駆け抜ける。そして企業の保養所という建前の建物に侵入する。そしてすぐに地下へと潜る。元々密輸の拠点として使おうとしていたものだ。だから表は完全にダミー目的。

 本来の用途で必要な空間は地下に用意してある。すなわち倉庫、及び指令施設。つまり地下には広大な空間が広がっているのだ。


「お、やってるやってる」


 内部は既に有美党の好みに作り替えられており、多層迷宮式の忍者屋敷と化していた。


「源氏部隊は虱潰しに行ってるみたいですね」

「我々も手伝いますか?」

「いや、少し待ってくれ」


 内部のある程度の構造図は滑里から手に入れている。

 俺は神通力に集中して近く範囲を拡大する。千里眼で見通せば元の構造自体は残っている。地下に作った以上崩落しないように計算しなくてはならない。

 侵入した源氏部隊60人に対し有美党は総勢28人。

 元々有美党は53人で洛都で24人捕らえて離反者(雪乃)が1人。

 ここに全員がいる。

 そして最下層、おそらくは最重要品目を隠し通すための倉庫なのだろう。入口が巧妙に隠されている。


「見つけた。最短経路で行く。俺から目を離すなよ」


 俺は鞘から黒曜を抜いて妖力を目一杯込めて床に叩きつける。近くにいた三人は何の合図もなく飛んで回避。床に叩け付けた衝撃は簡素な床兼天井を次々抜いて一気に下りる。

 このフロアはおそらく元々メイン倉庫。2、3階分ぐらいある大きなフロアを後から細かく区切った生活空間や訓練スペースに利用していたのだろう。

 三人も自分を追って降下し、一気に迷宮フロアを抜ける。元の倉庫の床面はそのまま残していたようで素材が鋼鉄だった。


「逃がすか!」

「進ませんぞ!」


 空いた穴から次々有美党の隠密が次々飛び出し襲い掛かってくる。しかしすぐに源氏の武者がそれを妨害していく。


「行け!空亡!」

「助かります!」


 源氏に背中を押してもらってさらに進む。角の壁際に手を当ててなぞるように先程探した入口を探す。


「ここだ」


 俺が壁の一部を押し、そしてすぐに下の壁を引っ張り出すとそこにレバーが現れる。

 レバーを引くと近くの床が動き、入り口が現れる。


「行くぞ!」


 俺が先頭に階段を下りていく。あまり段数は無い。しかしかなり海に近づいているはずだ。

 階段が終わるとそこには少し広めの空間と扉が一つ。錠などはついていない。すぐに開けられるだろう。


「学文路!吉良!誰も通すな!」


 俺はノータイムで扉を開けて入り、続いて雪乃が入ってすぐに扉を閉める。

 そこは畳の敷き詰められた広間。両側に襖があり、その奥にもいくらか空間が広がっているはず。正面には万年桜の掛け軸と活けられたタツナミソウ。

 その前に傍らに忍刀を置いた有美影俊が正座で待っていた。


「待っていた。と言わんばかりだな、有美影俊」

「逃げる理由はどこにもない」


 有美は端的に、そして最小限だけで答える。


「罪状を、一応読み上げようか?」

「要らぬ。全ての責は私にある」


 覚悟を決めた有美は無敵の人になっているようだ。

 雪乃、伝えたいことがあるのなら。と、念話で伝える。

 雪乃は少しだけ驚いたがすぐに一歩前に出た。


「お久しぶりです、師匠」

「壮健のようだな」

「ええ。ここにいる我が主のおかげです」

「そうか」

 

 情報はとっくに掴んでいたのだろう。有美は未だ波風一つ立たない。


「一つだけ、質問してもよろしいでしょうか」

「構わぬ」

「何故、あのような妖魔の類と手を組んだのです?」


 ようやく有美がそこで反応した。瞼を強く瞑り、どこか後悔の念が感じられる、悲しい表情。


「私はかつて、皆を守る、命がけで戦う華族の為に戦うと誓った。そのために仲間を集め、私が学んだ戦う術を教えながら、戦ってきた」


 少しだけ瞼を開くと虚ろな瞳が手元へと合わぬ焦点を向けていた。

 その瞳は、濁りくすむ様な、煙水晶のようだった。


「だが、私の本当に戦う理由はそんな大義などではないと、任務をこなし、暗闘を繰り広げるうちに考えるようになった」


 心ここにあらずという目は少しずつ、本当の姿を現していく。言葉数が徐々に増え、抑揚が出て人間味が出てくる。


「私が本当に願ったのは、ただの復讐だった。裏切ってしまったことを謝ることさえできなかった、我が友を殺された恨みを晴らすために、丁度いい大義を掲げたに過ぎなかった。隠密には似合わぬ大義を掲げても、それは私には馴染まなかった。だからこそ、任務と大義の為の暗闘を繰り返すうちに感覚が麻痺していった」

「だから、外道を頼った」

「左様。そしてお主にその判断を諫言されたとき、脳に電撃が走った可能ような衝撃を受けた。私はいつの間にか、掲げた大義さえ裏切っていたのだ」


 瞳に燃ゆる黒い炎。復讐鬼の目だ。


「そして大義は最早何の正義でも無くなっていたと妖魔にさえ諭されて私のこれまでの人生がガラガラと崩れていくような気分になった。残ったのは、復讐の炎だけ」

「…復讐が、無意味だとは思わない」


 この二人の対峙には一歩下がっているつもりだったが思わず俺の足は雪乃の前まで進んでいた。


「だが、それを考えたのはお前だけだったと思うか?」


 俺は懐から六花の雪結晶を模したペンダントを取り出す。


「これは俺が在原凌雲と橘右京から受け取ったものだ」

「それは…!」


 有美の目が見開かれていく。そう、このペンダントの本来の持ち主は、


「音羽飛鳥が、それぞれに配ったものだ。ここに、二人の想いも乗せられて、俺にたどり着いた」


 俺は雪乃を一歩下がらせる。


「あなたは一人彼岸にいて、四人は此岸いた。だからあなただけが一人で背負い込んだ。だがその本心に気付いたなら、全てのしがらみを解き放って一人で戦え。雪乃も、芦屋も、誰も彼も他人の復讐に付き合わせるな!」


 所詮郎党なんて言っても利害関係、恩義、様々な形はあれど他人に過ぎない。

 ましてや歪んだ復讐心を植え付けられればそれは本人さえ理解の及ばぬ怪物となる。

 その例が、天文台に過去幾度も記録されている。

 始まる、と思って雪乃に念話で、無理に戦わなくていいと伝えるも鉄扇を取り出して戦意を抑えられないと判断する。


「問答はここまでだ。少年、名は?」

「御影哉人」


 お互いに刀を抜いて構える。


「有美影俊、参る!」


 二人が一気に距離を詰めて鍔迫り合いになる。お互いに一歩も引かず、一瞬互いに動きが止まる。

ちょこっと登場人物紹介


有美影俊 「インガオホー」


ついにご対面したニンジャ。なおコミュ障かつ天然かつアホの子である。この師にしてあの弟子ありである。此岸と彼岸の情報は天文台を通らないとほぼほぼ伝わらず、任務で此岸に渡っても情報を人口比率などの情報を得る機会はそうそう無く、今回の悲劇に繋がった。

隠密としての力量は文句なしに最強格であり、果樹園でも追いきれないように情報を断ち切り、倉庫を数日で忍者屋敷に改造し、ちゃんと情報収集にも励んでいたのは素晴らしかったが性格がそっくりな弟子が敵に回してはいけない人を二人も敵に回したのが運の尽きだった。

明倫館卒業時の三館序列は5位(明倫館だけだと2位)。

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