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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第二章 降り積もる罪と責
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新年早々大捕物

 年明けですぐの一月五日。政府議会の開会式が一月六日なので地方議員はこの日には必ず洛都ないの拠点にいる。今回のターゲットは中心街のホテルに数日泊まる予定になっていたのでそこを狙うのだ。

 学文路修は検察と警官と共にその一室の前に立っていた。

 華族という特権階級とは本来相容れないはずの司法機関。司法機関が何を掴もうとも特権という盾を突破することはできない。司法機関の構成員を特権階級だけで確保することができない以上そうではない市民からも人材を集めることになる。

 権力には明確な限界が定められている。だから本来協力することは敵わないはずなのだ。

 だが真秀という国は結局どこまで行っても潰戦を集結させた華族の国だ。政府を樹立したのは市民のまとめ役と、華族の分家たち。明確に華族と政府がこの時に分裂した。

 古来より暴力によって打ち立てられた国家は暴力装置が大抵国軍になり、そして指導部も軍部の影響を受けるようになる。軍部出身の政治家がその後主流になるのもよくある話である。

 しかし真秀の暴力は内部に向けられ華族という特権になり、対外的な暴力である国防軍は政府に改めて用意された。

 その結果、建国当初は警察機関と司法機関さえ保持していた華族との仲は最悪であった。

 この二頭体制は華族が政府内に華族閥を形成し、間接的な影響力を得たことで大幅に譲歩する余地が出来た。華族はこの時に政府と協定を結んだ。華族が本当に譲りたくないものを絶対的な聖域化させ、それ以外に削れるものを大きく譲歩する。けっか警察組織と司法機関が政府組織として樹立された。

 引き換えに得たのは、天文台と彼岸への不干渉。そしてその副産物こそ妖魔と関わる全て。華族の特権はその体制の維持のために他ならない。

 そして華族は特権階級になった。警察や司法の制限を受けない、そして対外的な有事には軍部の指揮下に入って参戦するという盟約のもと華族と軍部は強固な協力関係を築くことが出来た。

 学文路家も本来は市民側の家系だった。藤原の分家と交わって、藤原の配下になった。だが下級華族は基本的に分家を作れない。分家側は一段格が下がる。下のない格だと一から始めるしかないのだ。

 学文路修は明倫館を卒業したが母親が難病になってしまった。彼は優秀だったが母を治療できるのは橘家の病院だけだった。そのため彼は橘氏に仕官した。だが橘は没落していき、彼にも新規PMCのスカウトが来た。母の為にはその引き抜きに従うしかなかった。

 そんな苦労人が橘に戻った時に注目したのは哉人だった。同じような境遇にある彼を一番最初に部下にすると決めた。

 今の彼はもう恐れることは無い。だからこそこの任務でもっとも危険な場所に自ら志願した。


「検察だ、いるんだろう?開けろ!」


 そう布告するもどうやら居留守を使う気らしい。もとより決められていた予定通り警察がホテルのマスターキーで開けて突入する。

 中にいた議員を警察と検察が確保に動き、学文路が周囲を警戒する。

 議員を警察と検察が両方から挟んで捕らえた瞬間、窓ガラスに亀裂が走った。


「伏せろ!」


 学文路が抜刀し3人の前に出ると硝子が完全に割れて飛び散り、その中を一人の黒影が駆け抜ける。

 細剣を刀で受け止め、ガラスの破片は風の妖術を細かく操って回避する。


「チッ!」


 芦屋影尋が突入してきていたのだ。そしてその背後から何人もの隠密が現れて部屋の中に侵入してくる。


「学文路隊長!」

「お前らは議員を護送しろ!」


 ガラス破片が刺さり、身動きが取れない警察と検察も部下が回収し、代わりに吉良の部隊が突入してくる。だが学文路は既に囲まれてしまった。


「まずはお前からだ」


 鉄鞭を大きく振って叩きつけてくる。刀で受ければ刀も危ないと見て学文路は姿勢を低くして回避する。

 芦屋はそのまま一回転して学文路の顔面を蹴り上げようとする。が、それは叶わなかった。


「やっとこさ出てきたなぁ!芦屋影尋ォ!」


 左フックで芦屋の顔面にクリティカルヒットを決めつつ哉人が突然現れてそのまま芦屋と共に窓から転落する。


「親分がなんて言おうとお前が動いちまった以上スポンサー様には逆らえねぇもんなぁ!」

短距離転移(ショートワープ)!この神通力!貴様が空亡か!」


 芦屋はワイヤーを向かいのビルに引っかけて空中で体勢を立て直すが哉人は空中を蹴ってワイヤーを切り落とす。


「チッ!」


 懐から取り出した呪符で空中に結界を張って足場を作る。


「テメェ陰陽師かよう!」


 哉人が先に落下していくのを見ながら芦屋は一度退却して部下を救出に向かおうと踵を返して飛び上がった瞬間だった。

 目の前に巨大な氷柱が現れてゆく道を塞いでくる。方向転換をして逃走ルートを変更するも氷塊次々成長してゆく手を阻んでいく。


「逃がしませんよ、兄弟子」


 見上げれば上からその氷を操っていたのは雪乃だった。雪乃は芦屋の打てる手を知り尽くしていたため掌で転がすように逃がさない。


「お前は俺の敵だと言ったはずだ」

「ええ。ですから逃がしません」

「お前はすぐに逃げるからな、だから罠にはめることにしたのさ」


 背後に現れた哉人が妖力を込めた一撃と共に現れると右利きの芦屋は咄嗟に右手の細剣で受けようとするが一般的な刀とは違い、鋭さと固さを両立する玄刀・黒曜と真っ向からぶつかればただでは済まない。

 それこそが目的だと気づいた芦屋は細剣を回避させ、そして自分自身も回避に動いたが逃げ切れずに結局細剣を戻してしまった。

 中途半端な位置で受け太刀した結果、鈍い金属音を奏でながら細剣がかなり根本の方で折れ飛ぶ。

 芦屋は一歩下がって間合いを取る。哉人は切っ先を芦屋に向けて笑みを浮かべる。


「余裕がなくなって来たな。誰を敵に回したのか、ようやく理解したらしい」

「空…亡…ッ!」

「いい表情をするじゃないか!さあ、敵を前に武器を手に下ならやることは一つだ!」

「キサマァ…ッ!」


 芦屋は鉄鞭を両手で持ち、叩きつける。哉人もそれにこたえるように両手で上段切りを合わせ、鍔迫り合いに持ち込む。


「さあ、どうする?影の名を継ぐ者よ」



 

 学文路は刀で二度受け太刀し、はじいてから左手で顔面を掴んで床に叩きつける。背後を狙う隠密から視線を外さないまま体を大きくひねって回避、無茶な体勢になったので妖術で飛び上がって天井に足をついて三角跳び、落下の重力加速を活かして下突きを繰り出す。着地してすぐに横に飛んで他の隠密の攻撃を回避して背中を合わせる。

 背後にいるのは吉良だ。


「大分数を減らしてきたな、吉良」

「こっちも大分やられましたけどね」


 向こうは彼岸の隠密。下っ端でもこちらの精鋭と互角に張り合える。全体的にはこちらが押されており、戦闘不能に陥った数はこちらの方が多い。

 さらに隠密の半分近くが既に離脱して逃走している。数を自ら減らしてなお勝てないでいた。


「ふむ、大分苦戦しているようですな」


 カツカツカツと革靴の音を鳴らしながら一人の男がさらに参戦する。

 現れたのは執事服のままの千沙希の執事、楠木正則。


「正則殿…」


 正則の冷たい雰囲気に恐怖を抱いたか隠密は一歩ずつ下がる。

 楠木正則が刀を抜き、剣気を放つ。その場の者は皆気圧されて動きが止まる。


「斬捨て御免」


 一刀で隠密だけを的確に斬っていく。圧倒的な力の前に学文路と吉良はどっと疲労が出たようにそれぞれがお互いの背中にもたれかかる。


「まだだぁ!」

「寄らば斬る」


 一人外から現れた隠密も斬捨て、楠木正則は一人でその場を制圧する。


「寄る年波には勝てませんな。これでは御影殿の足元にも及ばない」

「デタラメであってくれ」

「見る眼も衰えてくれないと困りますね」


 そんなことを言ってのける正則を前に学文路と吉良は自信を喪失するのであった。




 外で周囲を封鎖しているのは義臣率いる源氏部隊だ。何人か逃げ出した隠密を補足して逃さない。一人に対して数人で襲い掛かる。


「こないだの雪辱を果たさせてもらう!」


 そして鞍馬党も一人の隠密を囲んでいた。まず距離を詰めるのはいつだって久我だ。槍を片手に一番最初に突撃して一番最初に吹き飛ばされる。


「少しは学習しろよお前!」

「へへへっ!やっぱだめかぁ…」


 足利がキレながら久我を回収して自分も遠巻きに動いて退路を潰す。

 代わりに武田が距離を詰めて徒手空拳の間合いに一気に持ち込む。

 隠密の得物は小太刀。おそらく戦闘はあまり得手な方ではなかったようだ。メインに使うのは暗器のようで右手は常に背に隠している。

 武田は片手の籠手で小太刀を受け止めながらもう一方の手で隠密を殴り飛ばす。


「うおー!武田先輩強ぇー!」 


 接近戦では隠密とも真っ向から渡り合えるが残念ながら機動力が無い。

 隠密が距離を取って間合いを遠く取るとまったく追いつけなくなる。


「やっぱバレるとダメだァ!」

「進九郎!行くぞ!」


 丁度挟み撃ちの場所にいた足利と進九郎がそれぞれの刀を抜きながら挟み撃ちをする。隠密は同時に相手するのは無理だと悟って一歩引いて挟み撃ちの角度を狭めようとするが背後から山名が接近して奇襲する。


「よぉーし行くぞ!」


 が、残念ながら背中の見せたまま足で蹴られてあえなく撃沈。進九郎と足利の二人も完璧に受けきられてしまう。だが体勢を立て直した久我が背後に回って今度こそ完璧に連携が決まる。


「チッ!」


 背後を切りつけられた隠密は動きが一瞬止まる。そこへ武田が追いついて脳を揺らす一撃を与える。


「よっしゃあ!決まったぜ!」

「はしゃぐな久我」


 足利にどつかれた久我が頭を抱えているのは皆放置して隠密を縛り上げていく。


「なんとか一人か…」


 周囲を見れば既に隠密は粗方捕らえられているようだ。


「御影ならこのくらい片手間に倒せるんだろうな」


 進九郎も久我も武田も足利も造士館では指折りの実力者だ。だが学生の中で強い程度では戦場で戦い続けるプロには敵わない。

 あの高層ビルの摩天楼から頭を出す巨大な妖魔を一刀で切り伏せたあの少年は大人の中に混じってなお一際目立っている。


「御影は突入組に回っているんだろう?よくやるよな」

「もっと強い奴と戦うことになるってことですね。とんでもないバケモノだ」


 久我と山名がもう諦観の境地に至っている。そもそも御影はまだ中学生だ。まだ成長の余地が自分達よりも多いとなれば諦めたくもなるというもの。

 しかし彼らの主は違っていた。


「俺達も強くならねば…」


 進九郎は拳を握りしめ前向きに空を見上げている。久我と山名はにこやかに見ることしかできなかった。

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