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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第一章 一縷の希望
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家出少年の夏休み

 俺、御影哉人は中学3年の夏、家出した。

 母が入院し、弟は家に帰らない親父が引き取った。俺は父の元には行きたくなかった。人として扱われないとわかっていたからだ。弟は優秀だし真面目だし親父好みの性格なので何かあっても親父が守るだろうが俺はどうも性に合わないので飛び出してきたのだ。

 何より駆け込む先があったのも大きい。


「昨日の残りの夏野菜カレーだ」

「「いただきまーす!」」


 駆け込み先の主、在原凌雲が用意した昼食を3人で畳の上に置かれた食卓を囲んで食べる。


「哉人が来るのは聞いていたが都、お前が来るのは聞いてないぞ」


 俺の左隣で凌雲の正面に座る少女、山階都(やましなみやこ)は目線を凌雲に向けたままかわいらしい笑顔で篭絡を試みる。だが当代最高の傑物と称される凌雲には通用せず彼はため息をついて彼女の分の昼食も給仕する。


「わぁ~い!いっただっきま~す!」

「まったく…ここはいつから保育所になったんだ?」

「ここが保育所になったのではなく君が保育士になっただけの話だよ」


 凌雲が青筋を立てながら振り返るとそこには柱に寄りかかりながらいい笑顔で手を振る男が立っていた。


「瑛士、俺は今昼食の時間なんだ後にしてくれないか?」


 伏見瑛士。一応凌雲が住んでいるこの家の家主ではあるがそのことを一切持ち出すことのない懐の深い御仁である。凌雲のおかげで盤石の立場を得て圧倒的権勢を揮っているのだから当たりまえかもしれないが。

 そんな彼が俺の傍に座り込み、肩に手をかける。


「いやぁ今日はこっちさ」

「俺っすか?」

「お前もいつまでもこのままってわけにはいかないだろう?」

「まー…そりゃ…」


 俺たちが住む世界は二つある。一つは此岸、俺が本来暮らしていた世界で帰るべき場所であり、人口の大半がこちらに住んでいる。もう一つは彼岸、今俺たちがいる世界で人口はわずかしかいない。彼岸の住民は皆此岸のことを知っているが此岸の住民の大半は彼岸の存在を知らない。俺は別に彼岸で暮らしていってもいいのだが自分の人生をこんな形で完全に定めてしまうのは少し違う気がする。


「でもまあこれまで通りの暮らしは出来ないってのもわかるぜ。何せ居場所がなくなっちまったからな。だからな、新しい居場所を作らないか?」


 伏見さんが俺に満面の笑みでこちらに向く。


「居場所…?」

「お前、ソルジャーになりたいって言ってたよな」

「まあ先生みたいにはなりたいですよね」

「俺がいつかやりてぇことがあったんだが、どうにもこいつ(凌雲)が手伝ってくれなくてな、諦めようかとしてたんだが…コイツ以上に適任な人物をみつけちまったのさ」


 俺が…適任?我ながら単純だなとも思うが俺は適任という言葉に強く惹かれてしまったのだ。


「ああ、今現在どこの勢力に所属してるわけじゃない」


 居候させてもらってるだけで伏見家にも在原家にも従属してわけではないね。一応山階家にも。そして何よりも父の家にも。


「だけど華族の血族で」


 そう、特権階級『華族』。様々な特権が認められる代わりに命を懸ける義務が生じる。父はその華族であり、俺もまたその血を継いでいたことで血族としての力がある、というか血族の中でも指折りの強さだと自負している。


「その中で稀有な能力を持ち、そして何よりもソルジャー足りうる創造性あふれる頭脳を持つ」


 まー悪知恵ならだれにも負ける気はしないんだけれども、とそう話してるうちにカレーを食べ終わってしまった。


「ここまでは凌雲と同じだが、最後に一つ違う点がある。君は自分が自分である為に全てをかけて戦えるんだよ」

「よくわかんないけど能力は凌雲とおんなじぐらいだけど自分勝手ってこと?」


 都コイツ伏見さんが濁したの無意味しやがったな。これだからお子様は…と思ったが家出してる自分もお子様か、とほほ。


「いや、まあそういう見方もできなくはないが、俺的には自分を大切に出来ないやつは他人を大切に出来ないし、自分のこと守ろうとしないやつは人を守らない。お前、守りたいものがあるんだろう?」

「人を守らなくて悪かったな」


 凌雲が非常に機嫌が悪そうな顔をする。割と本気で怒ってて滅茶苦茶怖い。


「…怖いくらい心に刺さりますね」

「どうする?お前、色々御託並べてるが、本当に欲しいものはもっと単純じゃねぇのか?」


 伏見さんは幼いころから俺の面倒を見てくれた。だからこそ俺のこともよくわかってて手を差し伸べてくれる。乗せられているのは分かっている。だがどうしても思い出すのだ。


 まだ俺が小学生のころ、凌雲の元で必死に剣を覚えていた頃の話。伸ばした髪をポニーテールにまとめて身に余る刀を必死に振る。道場として使っている能舞台の中心で剣舞として編纂された型を一つ一つ確かめていた時だった。

 客席にいつもいた女の子がこちらを見ている。今にも泣きそうな悲しい顔。華族としての責務に押しつぶされ、特権の代償として支払う力を持たないため八方塞がりとなっていた。

 

「伏見さん、俺。やりたいことがあるんだ。手伝ってくれる?」

「いいぜ、そもそも俺が持ち掛けた話だからな」


 俺と伏見さんが握手をする。


「居候が一人減るならなんだっていい」

「私と凌雲の二人の時間が増えるのはいいね!」

「静かにしないと追い出すぞ」


 わーつめたいなー、なんて思ったりはしない。凌雲は厭世的なので誰だろうがあまり歓迎しない。



 思ったが吉日、俺は伏見さんと一緒に悪巧みの作戦会議をすることにした。場所は当然のように凌雲邸なので4人のままだ


「俺が目を付けてるのはここ。首都洛都の南東部を管理する橘家」

「まあそうなりますよね」


 予想通りだ。一応時事ネタは絶えず仕入れるようにしているがここ最近でも大きく変化した。今は絶好の機会だ。


「橘家って摂家の大家でしょ?付け入るスキなんてあったっけ?」


 お子様都は何も知らんらしいな。まあ子供の身分で気にすることではないからしょうがないか。


「じゃあまずそこからおさらいしようか。マホロバの地に在りし我らが真秀国は主に二つの身分に分けられる。すなわち華族と平民だ。まあ特権階級の華族とそれ以外ってこったな。まあその点は詳しくは説明しなくてもいいだろう。まー華族の頂点たる摂家は今は4つあってそれぞれが洛都を4つに分けてをそれぞれナワバリみてぇーに管理してるわけだ」

「一応他の華族は地方にい散らばってそれぞれのナワバリをもってるわけだ。在原と伏見はココで一緒に並立してるがな」

「それは在原家が弱すぎるのがいけないんだよ。君たちがもっとしっかりしていれば伏見家はこんなに苦労しないで済んだのに…」


 伏見さんの心労が目に見える。が、話がそれたので伏見さんが咳ばらいをして話を戻す。


「ともかく、四摂家は行政、立法、司法に始まりメディア、公共交通機関、インフラその他諸々あらゆる業界を牛耳っている。だがその一つ、橘家はその権勢が非常に弱体化している。この没落劇の始まりは真秀に外資とかが進出してきたりしてね、今は平民の企業とかが勢力を強めてきてるんだけど、人口が一番集まるのは洛都だからね、みんなここでビジネスしたいんだけど…他の3家はちょっと権勢が強くてね、自由にさせてもらえなかったんだ。けど橘家は他の3家よりも圧力が弱かった。だから企業が集まり、経済的な発展を遂げたんだが…まぁ、制御ができなくなった。企業は伸張するが橘家は相対的に立場を失う。相対的な地位が下がれば尊重されることも減り、絶対的な勢力も縮小してしまう。そのサイクルに入ってしまったんだよ」

「ほっといたら勝手に暴れだして、あとからなんとかしようとしたけど後の祭りだったってこと?」

「正解だよ、都。だからもう独力では立ち直れない。力で何かしようとしても、企業は海外に逃げるだけだから、後に残るのは焼け野原の抜け殻になっただけの自分のナワバリだけになってしまうからね」


 事態は非常に深刻で、そしてこれほど他勢力からすれば簡単な状況はない。

 だがなぜ他の華族は手を出さないのか。伏見さんが介入を考えているのか


「だが私はこれが華族全体の地位が下がることを危惧しているのだ。何せ華族には隠し事も多い、彼岸の存在なんてその最たるものだ。情報を知る者は少ない方がいいんだ。だからできれば橘には潰れて欲しくないからね。だからそこで君には、橘家に手を貸す…というか戦力となってほしい」

「なるほど、華族としての原点から立て直していくということですか。他家はそれで黙っていますかね」

「完全にないとは言いきれないが少なくとも妨害のようなことは入らないだろうよ。ま、なんかあってもこっちに話が来るだろうしお前は気にせず目の前の敵を倒せばいいさ。お前が鍛えた剣を見せつけてやればいいよ」


 ちらりと凌雲の方をみると胡散臭そうに伏見さんの方を見ている。

 気分は分かるよー、詐欺とか得意そうだもんね。


「はぁ、お前はどうなんだ?」

「んー、そうですね。まあこれでも華族の端くれとして手を貸すのはやぶさかではないんですが…その…装備がですね…言っちゃあなんだが装備がですね…」


 ため息をついた凌雲がこちらをを試すように見る。

 俺は壁に立てかけた俺の得物を指さす。


「心もとないんですよねー」

「わかった。ちょっとついてこい」


 凌雲に連れられて4人で凌雲邸の裏手から出て半分ほどに下に埋まった建物に入る。

 ここはマホロバ天文台。伏見さんと凌雲の職場にして基地、その地下の倉庫に向かう。そこには数々の武具が収められていた。


「お前ももう一人前になった。お前のその刀はもうお前の力には耐えられまい。ゆえにお前は心もとないと思っているんだろう」

「そうかもしれないですね。まあ思い入れもなくは無いんですけど」

「だからお前の新しい得物を選べ。自分の心に従え、掴むものは武器だけはないぞ」


 倉庫には古今東西の収められているようで文献に乗っているような魔剣、妖刀、名槍、宝具の数々が並んでいるがやはり先生から習った刀かそれに類する得物が良いだろうな。槍とか弓とか使いこなせる気がしないし。

 ぼんやりとしながら4人でバラバラに見物して回るうちに一つ気になる気配を見つけた。その一本の刀を手に取ると自分の力が試されているかのような気分になる。

 黒い太陽も模した刀。伝統的な形ではないが刀の基本だけはおさえている。訓練通りには使えるだろうが…。


「それは玄刀・黒曜。非常に強力な刀だが少々気難しい性格ゆえ手にできた者はいなかった。まだ完全に従えているとは言えないようだがまあしばらくはそれで十分だろう」

「ありがとうございます!先生!」

「装備類は伏見に調達してもらえ。俺が手を貸すのはここまでだ。免許皆伝ってところだな」

「先生!ありがとうございました!」


 俺は去っていく先生に深く深くお辞儀をする。

ちょこっと登場人物解説


御影哉人 「家出少年」


この作品の主人公。AGIとLUKに全振りしたクリティカル特化アタッカー兼回避盾。父親から誑しの性格と戦闘センスを、母親から大雑把な性格と神通力を受け継いでおり、界隈では有名だった父親よりキャラが濃いので本人は隠してるつもりだが父親の知人にはだいたい一発でバレてる。

モデルにしたのは光源氏…だったはずだが知らぬ間に豊臣秀吉とか足利尊氏みたいな感じに…。


在原凌雲 「当代のモノノフ」


作品のタイトルであるマホロバのモノノフとは彼のことを指している。過去に巻き込まれた事件から厭世家になり、今では愛弟子と過去の文芸作品だけを愛するヒキニートと化している。仕事しろ。

モデルは某貧乏神社の巫女。


伏見瑛士 「アニキ(末っ子)」


幼少期から凌雲と比較されて育てられたので野心と反骨精神の塊のような性格に育った一応これでも凌雲の上司に当たる人。一応面倒見が良く、哉人を始め彼岸の若手の面倒をよく見ているので兄貴分として慕われているが末っ子。

色々努力して手を回しても詰めが甘いので最終的に凌雲に持っていかれる残念なイケメン。かわいそう枠その一。


山階都 「マジカル☆マジック☆ガール」


真秀では非常に珍しい魔法使い。三角帽子をかぶり、ゴスロリに身を包み、箒で空を飛ぶコッテコテの魔法少女。隙あらば凌雲のもとにいるが、これほど自由にふるまえるのも優秀な兄弟に恵まれている為である。彼岸では政略結婚は少ないので他意はないと思われる。多分。

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