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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第二章 降り積もる罪と責
17/46

部分点の回答

 結局朝帰りになったわ。ネットワーク型だったせいで一匹でも逃せばそいつから分裂してやり直しになるからマジで終わらなくて大変だった。幸い分裂してぬるぬるするだけだったからシャッターを下ろすと簡単に封じることが出来たのだが危惧していた地下鉄への逃走を止められずに結局神通力を限界近くまで使って何とか仕留めきることに成功した。

 被害総額は意外と馬鹿にならねぇからもっと早く仕留める方法を何か考えておいた方がいいな。

 なお入り組んだ上シャッターを常に開閉し続けたことで常に道が変わり続ける迷宮となった地下街でゴリラゲリラたちは決して迷うことなく獲物を追い詰めていった。俺の仕事はほとんど観測レーダーだった。

 寝袋で仮眠をとったまま家に届けられ、目を覚ました時には正午目前だった。



 それから昼食をとって音羽さんを連れて再び外に出る。

 昨日の時点で吉良さんに朝一で管理局に行ってもらうことを通告しておいたので昼食を食べ終わる頃には調査結果が届いていた。

 二人で向かったのはその調査結果で示された座標。ではなく。


「君が一昨日降り立ったのはここだね」


 昨日買ってあげた赤いセーターの上にコートを着込んで警察が立ち入り禁止の封鎖をしている公園の入り口からその座標を見る。


「ええ、そうよ」

「三途渡りに使ったのはこれと同じ術符、で間違いないな」

「ええ」


 俺が懐から取り出したのは三途(彼岸と此岸の間の空間)の門を開ける術符。基本的に天文台の関係者にしか使用が許可されていない。製造、配布も天文台でしかしていない。一応四摂家の長者には配られているが彼らでは狙って開くことは出来ない。それに門を開いた際には天文台で観測されるからそれもないという裏付けも取れている。

 残る可能性はほとんど一つ。一度海外に渡ってからネビュラ間移動をした可能性だ。

 彼岸、海外ではネビュラと呼ばれているが、一般的にネビュラと此岸間の移動が管理されている場所は少ない。マホロバの他イ・ラプセル、エルシオン、ティル・ナ・ノーグなどの強大な勢力や国家が統治している地域に限られている。隣国のホウライや程遠くないテンジクなどは数多あるネビュラの中でも往来が容易かつ観測されない道がある。

 そしてネビュラ間の移動を完全に管理し切るのは不可能だ。監視がされていないわけではないが潜り抜けるのは慣れていれば容易だ。


「これは出資者から受け取った。で、相違ないな」

「ええ。出資者本人には会っていないけど。私は師匠から盗んでけど、師匠をもってしても暗号は解読出来なかった」

「術符の暗号は古代文明ギャラクシーの遺産そのものだ。今のマホロバの文明じゃあ解読は出来んよ」


 とりあえず有美と出資者の接触までの流れは絞り込めた。

 二人で次の座標へと移動する。

 次の座標はもう一か所の密航現場。


「君がこちらに来た日の深夜、日付が変わる直前にもう一軒密航記録があった。おそらくは君が離反したことで師匠が拘束しに来るのを恐れて残った有美党全員で移動してきたのだろう」


 周囲は見渡しが悪い。目撃情報は期待できなさそうだ。

 場所は源氏の統治する地域。彼岸の有美党の本拠地と同じ座標。どうやら急いで渡って来たらしい。余程師匠が怖かったのか。

 いやよくよく考えてみると有美影俊は学生時代に音羽飛鳥にコテンパンに負け続けていたらしい。その音羽飛鳥の弟子にして齢13で既に師匠から1本取れる実力があり、今や師匠の全盛期など赤子扱いできるだろう在原凌雲を恐れるのは当然のことだ。

 俺もいまやって一本取れるだろうか。元々の神通力の才は師匠の方が上だが今なら多分いい勝負ができるはず。

 それにしてもよりによって源氏のところに忍び込むとは。源氏領内は内ゲバが激しく、身内同士の争いのついでに妖魔を滅しているとまで言われているのだ。そこに逃げ込む勢力は一つや二つではない。なお高確率で源氏同士の争いに巻き込まれるようだが。


「おっ、御影か。こんなところでなにしてるんだ?」

「ぼんくら一号か」

「進九郎な。一応俺年上なんだけどなぁ…」


 後ろから声をかけてきたのはチャリに乗ったぼんくら一号こと源進九郎。どうやらどっか出かけてきた帰りらしい。


「ああ、ちょっとした賊徒の捜索だよ。とりあえずなんか変わったことは無いか?一昨日のあれ以来でいいから」

「あれ以来?ああ、あの妖魔戦の時な。特に何もないな。と言っても俺たちは期末試験の勉強でここ最近は一昨日しか任務出てないし」


 そういえば期末試験の季節か。中学3年の2学期期末は受験前の負担を軽減するために滅茶苦茶難易度が下げられている。普段の授業をある程度復習するだけで及第点は取れる。だから受験のない俺はただただ余裕がある。


「そうか、賊徒はそっちの方に逃げ込んだ可能性が高い。気を付けてくれ」

「気を付けるって言っても多分身内の方が危険だからなあ…。まあこっちでも調べられることは調べておくよ」

「助かる」

「じゃあな~」


 特に音羽さんには気にすることがなく去っていく。前に学文路さんや吉良さんと一緒の時に部下が出来たと伝えてあるから部下か何かと誤解したのだろう。まあ特に不都合が無いので放っておく。


「とりあえず周囲を調べてみようか」

「ええ」


 だが広い洛都をたった二人で探ると言ってもたかが知れている。集団で潜伏できる場所は源氏に協力を依頼するとして物資補給のできる場所、水などを確保できる場所を探ってみるがあまり成果は無かった。


 家に帰って夕食を取った後とりあえず成果を報告して明日の予定を考え、配下に指示もしてやることが終わったのでしばらく気晴らしにゲームをした。モミジと二人でイベントストーリーを進めてかなり気持ちは切り替えられたような気がした。

 暖簾に腕押しして苦悩していたが暖簾を認識しておいてこれは押しても意味がないと納得しただけに過ぎないのだがそれでもメンタルを整えておかないと神通力の精度に直結する。

 ストーリーが完結したところでお開きにし、少し早めに寝ようかと思った時、ドアをノックする音が聞こえた。


「千沙希?どうした?」


 消去法でノックしてくるのは千沙希で確定なので開けるとそこには驚きの後継が待っていた。


「それ!どうして!」

「昨日の続き、しませんか?」


 千沙希はウエディングドレスのコスプレをしてそこに立っていた。


「ふふ、昨日の復讐です」


 俺は千沙希に押し込められるようにベッドに座らされる。今度は俺が赤面して混乱する番だ。


「あなたの傍にいつまでもいますから、ね」


 蠱惑的に、魅了してくる姿に見とれてしまい開いた口が閉まらなくなる。千沙希はその姿を微笑みながら人差し指を立ててしぃーと言いながら塞ぐ。

 参ったなこりゃ。

 ここで自分の心の壁が半ば崩れていることに気付いた。

 

「…その…」


 千沙希はあまり神通力の使い方には慣れていない。心の壁を突破する技量も、そもそも作用力も少ないので強固に固められては尚更ない。

 だが今のように精神的に揺さぶられている間は心が読み放題になってしまう。

 だから今の申し訳なさという個々の奥に隠した感情を読まれてしまう。


「どうして…?」

「…もっと、準備が整うまで、黙っておきたかったんだけどなぁ」


 冷静になって心の壁を築きなおす。なぜ師匠が神通力の使い方をまともに教えてくれなかったのかわかったような気がした。

 常人を超越した身体能力、手の届かない場所さえ好き放題に振り回す力。何よりも人の心さえ弄ぶ力は普通の人間には持て余す力だ。

 

「いつかは、もしかしたら今すぐにも、こんなことは出来なくなるかもしれないから…すまないな…」


 千沙希はいつかのように自分の胸に額を当てる。


「私は強くないから、何もわかりません。あなたが本来戦う相手がどれほどの強さなのか、どれだけ危険なのか。でも、それでも傍にいたいんです」

「幻滅してるかと思ったりもしたけど、意外だね」

「それはそうでしょうね。何せ私はずっと本心を隠してきましたから」


 恥ずかしそうに顔を上げると上目遣いで哉人の宝石のような目に視線を合わせる。

 哉人に無茶苦茶な栄達をさせる原因になったのは千沙希のわがままが原因だ。その責任を感じているのだろうか。


「君は自由だよ」

「その自由であなたの傍にいたいのです」

「わかったよ、お互いにわがままで行こうか」

「ええ」


 哉人は昨夜のように千沙希の顔を揉んで撫でて愛でていく。

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