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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第二章 降り積もる罪と責
14/46

次代を担う者たち

 妖魔の現れた現場には一番乗りではなかった。


「空亡!」

「おっ、ぼんくらーズじゃん」

「「「「「違う!」」」」」


 今は待機状態なのかおとなしくしている妖魔の前でチキっている5人衆。


「いや、その、彼らはあくまで俺の郎党なんだよ」

 

 ぼんくらーズ1号、源進九郎。百鬼夜行で初陣を飾って以来度々現場で顔を合わせている仲だ。なんでもあの源義臣の三男らしく素質自体はかなりのものだが引っ込み思案な性格が災いして手柄があんまり手柄をあげられていない。

 稀に義臣本人がいると毎回ため息つかれてる。


「ぼんくらーズじゃない!鞍馬党だ!」


 ぼんくらーズ2号、久我義照。久我家は源氏きっての名家で本家を食うぐらいの規模がある家だけど、進九郎の郎党になるために下宿してまで飛び出したらしい。なんか親近感湧くね。

 性格がムードメーカーの盛り上げ役、すなわちタテノリである。お前本当に名家の本家出身か?


「ぼんくらなどと…呼ぶな…!」


 ぼんくらーズ3号、武田義清。分家の出身で家格が低いがそんなことは気にせず自己研鑽に邁進する硬派な人。

 めっちゃ険しい顔で睨んでくる。顔怖い。

 見た目がチンピラとかヤンキーとかそんな感じ。しかもコミュニケーション能力が低いいわゆるコミュ障と言われるタイプ。友達が欲しくて郎党入りしたらしい。

 顔が怖い。


「心外ですねぇ、進九郎はともかく僕らまでぼんくら呼ばわりは心外です」


 ぼんくらーズ4号、山名氏波(うじなみ)。カメラいつも構えているぽっちゃり系。気弱だがお調子者でいわゆるキモオタと罵られているタイプだが緊急事態には誰よりも早く動き出して人を助けるために自らを賭して頑張るので個人的には好意的に感じていた。

 千沙希に色目を向けるまでは。


「僕を一緒にしないでもらいたい!」


 ぼんくら―ズ5号、足利直士(ただし)。最近入ったらしく会うのは2度目だ。なんでも文化祭で進九郎に助けられたらしい。この5人組のブレーン役で実力も進九郎と張り合える文武両道の優等生。

 でも男子高校生ノリにしっかり乗っかっていくあたりすでに染まってる。


「あーわかったから早よ妖魔倒すぞ!それと空亡と呼ぶな。義臣の顔に泥を塗っているとわからんのか」


 わざわざ黙ってくれてるのに完全に台無しにしてるしこのぐらい言わせてくれ。


「あれ、そんなに強くないんだからお前らだけでも倒せただろ」


 玄刀・黒曜を手にしながらぼんくらーズを見ると4人が進九郎を指さす。

 また駄々こねたのか。


「いや、一応ちゃんと情報を集めて不測の事態とか発生させないようにしようって思って…」


 と御託唱え始めたのでとりあえず気配を消して離れてから妖魔の寝込みを襲って一瞬で片付ける。

 そしてグダグダぼんくらーズにいつまでも付きあってられないのでそのまま離脱して離れる。

 なんか断末魔みたいな叫び声とかも聞こえたような気がするけどほっとこ。


 

 帰り道は緊急事態じゃないので普通に地上を移動して帰らなきゃいけないから大変だ。ついでに渋滞に巻き込まれて車を回すと時間かかるらしいからじぶんで歩いて帰ることにした。

 今回の現場は洛都東部の郊外の手前だったので家までは割と距離がある。なので鉄道に乗って帰ることにした。

 郊外と土岐を結ぶ私鉄に乗って土岐まで移動、土岐からは復興がかなり進んだ通りを歩いて帰る。


「それにしても大分復興進んだなぁ」


 そうしみじみと戦火の後がところどころ残る街をみながら帰ると色んな発見があった。意外とテナントを出ていった企業は少なかった。

 出ていった企業の大半は密輸に関わっているかPMCだったのでまあ会盟景気で儲けられると考えてみんな残ってくれたのだ。ありがたいね。

 そんなことを考えながら歩いているとビルとビルの間で暗闘が行われているのが見えた。

 対立する華族の隠密部隊同士が街中で暗闘するのは割と多い。9割方平氏対源氏だけど。

 音も光もなく気配も限界まで抑えて戦っている。これはかなりの手練れ同士の戦い。神通力での感知でなんとか感じられる程度なので俺以外は誰も気づいていない。

 俺は路地に入ってからデバイスから装備を呼び出しつつ垂直に上昇し、ビルの屋上に上る。そして目の前で暗闘を繰り広げる二人の間に割って入り、戦いを止める。


「人の庭で喧嘩とは、いただけないな」


 一人は着物に似た装備で呪符の仕込まれた扇を両手に持つ少女と細剣と鉄鞭の異種二刀流の青年がそれぞれ距離を取って止まる。


「邪魔をするならお前も始末するぞ」


 青年の方がそう脅してくる。神通力で心が読み取れないのでおそらく強力ではないが神通力の素養があるらしい。かなりの実力者だ。ここでがっぷり四つに組むとせっかく復興の進むこの街に被害が出てしまう。それは避けたい。

 とりあえず強めの剣気で返すと俺の神通力と妖力の高さを警戒してかさらに一歩距離を取る。

 

「死にたくはないから、全力で抵抗するけど。どうする?」

「橘と事を構える気はない。だがその女は我が敵、それをゆめゆめ忘れるなよ」


 青年の方はそう言ってビルとビルの間から降りて姿を消す。すぐに気配が完全に消えて追跡は不可能となった。

 良くはないけど今はこれでいい。

 そして俺はもう一人の不届きものの方を向く。

 

「さて、君には彼のことも含めて話を聞きたいんだけれど、ご同行願えるかな?」


 にっこりと笑顔でそう言ってみたけど少女は警戒を強めただけだった。こっちの実力はそこまで高くなさそうなので捕らえて話を聞こう。


「断る」


 ダメか。


「じゃあ逃げる?彼みたいに」

「私は逃げはしないわ」


 おや?風向きが変わったぞ。これは想定にない展開だ。

 特に重要ではない場面では勝てそうなら強気に行き、勝てると言いきれないなら腰を低くして逃げるのが鉄則だ。

 どうや真っ当な武人というわけではないらしい。


「そうか、ならば戦うしかないか」


 黒曜を抜き、中段に構える。少女も扇を構えて応戦する気のようだ。

 とりあえず初手は突きから入ろう。そう考えて踏み切った瞬間、妖気の流れを感じて回避行動を予めとる。


「何!?」


 吹雪が俺がいた場所を駆け抜けていく。まさか回避されるとは思わなかったのか少女が驚いている。

 まあ隙だらけだったから咎めたくなるよね。わざと、だとしても。

 どうやら妖術を得意とするタイプらしい。氷以外の妖術も使える可能性を念頭に置きつつ今度は本気で距離を詰める。脇をすり抜けて背後に回り、首を狙う。流石に露骨過ぎたか右手の扇で受けられ、そのさらに右に回した左手の扇から氷柱を飛ばして上手くカウンターしてくるがそれは神通力を使える俺には悪手だ。

 俺は神通力で氷柱を掴み、逆再生されるように扇に向かって投げ返す。


「えっ!?キャッ!」


 可愛い悲鳴と共に怯んだところを逃さず空いている左手で少女の後頭部を掴んで神通力で意識を奪う。


「うっ…ぐっ…すぅ…」

「やれやれ、とんだ拾い物だな」


 意識を失い力なく倒れた少女を抱えて一応隠密系の妖術で姿を隠して再び空を駆ける。



「で、妖力封じを施してお持ち帰り、したんですね」

「言い方ァ…」


 家に帰って捕まえた少女を千沙希に預けようとすると中々受け答えしにくい言葉を使われた。

 おかしいな…最近は洛都の景気が良かったり京介さんがメディアで取り上げられたりして機嫌が良かったんだけどなぁ。造士館とか修導館とかの文化祭に一緒に行ったりして楽しそうにしてたんだけど。


「わかりました。とりあえずこの子は私が様子を見ておくので父に連絡してきてください」


 それだけ言ってバタンとドアが閉められた。

 もしかして独占欲強いタイプだったのかな…最近なんか神通力で心に壁を作る技を覚えたらしくてなかなか見せてくれなくなっちゃったんだよなぁ。

 神通力を使えるようになって心の声を感じ取れるようになって、他人の気持ちを考える必要が無くなってきてちょっと鈍感になってきているのかも。とりあえずしばらくはいつもより優しくしたりしよう。

 根本的解決にはならないだろうけどね。

 とりあえず報告だけはすぐにしよう。


『わかった。ならばその者は二人に任せる。だがこちらは隠密の者に対する備えが万全とは言えない。今までは源平の協力があってこそ』()()()()()()()()()()からこそ誰も本腰で探りには来なかったが全面衝突も厭わないとすればむしろこちらが不利だ』


 ゴリラじゃ隠密には相性が悪い。逃げればそれで力は無力化だからな。


『ましてや彼女を敵視しているのが藤原なら…わかっているな』


 今の藤原には源平橘で組んでも勝てない。今は4つに分裂しているようなものだがその一つ一つが源平橘と同等の力を持つ。

 だから絶対に勝てない。彼女を差し出すか…俺の最後の切り札を切るしかない。だが切り札を切ったが最後、俺のこれまでの人生と将来の自由を失うことになる。

 果たして彼女がそれに値するだけの人間なのか、それ次第だな。

 うーん、参ったな。こういう時は一人で悩んでもしょうがないし相談するに限る。

 というわけでネッ友とのチャットを開く。


ぶぎょー:今ヒマ?

ぶぎょー:ちょいと相談したいことがあるんだけど

モミジ:今授業中だぞ


 あ、やべ。時差あるからこっちは夕方だけど向こうは昼前なんだった。


モミジ:今授業終わった

モミジ:昼飯食べながらでいいなら

ぶぎょー:たのんます

モミジ:はよ投下してけ

ぶぎょー:いやさ

ぶぎょー:今日さ

ぶぎょー:面倒事拾ってきちまったんだけどさ

ぶぎょー:ワンチャン人生を左右するかもしれない分岐点かもしれないんだけどさ

モミジ:君は夏から急に人生濃くなったな

ぶぎょー:自分の運命を信じる?

モミジ:信じない

モミジ:俺は自分の手で切り拓く

モミジ:自分以外のことなんて信じられるわけないだろ

ぶぎょー:まあ

ぶぎょー:しゃーないわなそりゃ

モミジ:だから

モミジ:自分の使える力を使うことをためらうな

ぶぎょー:自分の使える力か

モミジ:武力はもちろん

モミジ:権力などの政治力

モミジ:人脈もだ

ぶぎょー:結局力か

モミジ:力で解決できない問題なんて

モミジ:人類が解決できたことないだろ

ぶぎょー:ありがとう

ぶぎょー:吹っ切れたよ

モミジ:うむ

モミジ:がんばれ


 コンコンとドアをノックする音が聞こえた。千沙希だ。きっと少女が目を覚ましたのだろう。


ぶぎょー:じゃあまた今度

モミジ:おけ

モミジ:今度はイベントすっぽかすなよー

ぶぎょー:わかってるって


 俺はチャットを閉じて立ち上げる。勇気が湧いてきた。


「はいはい」


 やはり少女が目を覚ましたようだ。

 先程は装束でわからなかったが少女は切りそろえられた青みの強い銀髪。原則黒髪黒目が大多数の真秀ではあまり見られないから彼岸の出自かもしれない。

 客間に敷かれた布団から体だけ起こしてお茶を飲んで落ち着いているようだ。


「おはよう。俺は橘家麾下の御影哉人。ここは俺の家だ。君を拘束してここに運ばせてもらった。色々聞いてもいいかな?」

「私を…どうするつもりですか?」

「さあ?まあ君がちゃんと質問に答えるなら悪いようにはしないよ」


 まだ大分こちらを警戒しているようだ。キョロキョロとしながら周囲の情報を収集している。逃げ道もちゃんと確認しているな。かなり訓練されてる。


「私を追手に突き出さないとお約束していただけるならお答えしましょう」

「君追手には突き出さないけど犯罪者は公僕には突き出すよ」


 一応私闘は犯罪に当たるんだけど今回は防衛行動かもしれないのでね。

 少女も頷いた。尋問開始だ。


「とりあえず君の名前と年齢は?」

音羽雪乃(おとわゆきの)。14歳、早生まれ」


 じゃあ年は同じか。音羽という名前にはちょっと心当たりがあるが今は


「君はデバイスを使っていたが、どこの家の所属なんだ?」

「特にどこかの華族家の所属というわけではありません」

「では君はどこに所属しているんだ?」

「有美党、有美影俊の郎党です」

「では君を追っていたのは誰かわかるかな?」

「芦屋影尋。私の兄弟子で彼も有美党の郎党です」


 おや?まさかの同門対決とな。


「一体どうしてそんな事態になったんだ?」

「話せば長くなります」

「大丈夫、時間はあるから話を聞かせて」


 音羽さんは少し悩んでいたが千沙希がさらに3人分のお茶を淹れなおしたことで観念したのか少しづつぽつぽつと話し始めた。


 この真秀は120年前の潰戦(かいせん)という大きな戦いで一度文明が大きく後退した。この戦いで活躍したのが華族であり、今に至るまでの特権の始まりとなった。

 しかし戦乱が終わり、平和になったと同時に発足した政府がこの国を統治する体制が築かれた。初めは多くが華族出身だったが徐々に平民が勢力を伸ばすようになった。

 結果、現代まで華族と政府の二重権力状態が続いている。政府は国防を担う国防軍や治安を維持する警察部隊を設立し、国家としての体制を整えていったが、同じ権限が華族にも認められている。

 建国当初より華族の本拠地の多くはその華族が統治しているが、華族が断絶したり自ら手を引いたことで地方自治体が発足し、政府に統治が少しづつ移行している。七代とかもしばらくは海軍の元になった華族の領地だったが近隣諸国との友好関係が強まったことで政府に移管した過去がある。

 多くの地方は地方自治が推し進められていった。しかしその流れに反する場所がある。

 完全に政府の手が届かない彼岸と四摂家が幅を利かせる洛都である。真秀の首都であり、妖魔災害の頻発する洛都は洛都府と四摂家が完全に同等の立場にある完全二重権力状態であり、権力のゼロサムゲームが続けられてきた。

 長年妖魔に対抗するために四摂家が強い権勢を振るってきたが、修導館が平民を多く受け入れるようになり、官僚への登竜門となったことで政府は平民側に肩入れするようになり、近年は四摂家に対しても積極的に綱引きをするようになってきている。

 しかしその裏では政府は腐敗し、汚職が横行。一方の華族は妖魔災害に対抗するため結束力を増している為対立は少しづつ激しくなりそれに無辜の市民が巻き込まれ始めている。

 真秀は民主政治体制が整っておらず民衆に力は無い。だからこの無益な争いを止めるために政府の平民閥へ有美影俊は攻撃を企てた。

 

「私はどちらが正しいかはわかりません。しかしまず第一に武力でもって当たるというのは誤りであるはずです。そのために師匠を止めようとしたのですが」

「兄弟子に阻止された…というわけか」


 他人事ではなかった。元々の非は沽券の為に権力を平民に安売りした橘にある。それ自体の功罪を冬問う気は無いが。

 何か話に裏があるようには思うが放りだすわけにはいかないな。

 

「分かった。取りあえずはここで大人しくしていてくれ。俺は上に報告してくる。多分色良い返事をくれるだろうさ」

「お願いします」

 

 しっかりと三指揃えたお辞儀。礼儀正しい良い子だ。



 哉人からの報告を受けた橘右京は窓から月を見上げていた。


「有美め、今更復讐か…」


 哉人に全てを託すのも運命とすら感じて、酒を一気に煽る。


「俺も今更、運命が憎い」

ちょこっと登場人物紹介


音羽雪乃 「実は寒がり」


妖怪雪女として雪国で大暴れ(ただの猛吹雪)したり子供をたぶらかし(子供たちと雪遊び)たりありとあらゆるものを氷漬けにする(作物などを冷凍保存しているだけ)などしていたため度々退治されていた先祖を持つ。

妖術は生まれつき使える珍しいタイプ。


武田義清 「人は考える筋肉である」


普段はタンクトップ姿で勝手に設置したサンドバッグでスパークリングしている脳筋。ただ筋肉に思考能力がある為座学成績は非常に良い。現在はぼんくらーズのエース。


山名氏波 「動けないメタボはただのデブだ」


華族として誰かを守るために自らの危険を省みず突撃するメタボ。写真を撮るのが趣味でいつもカメラを持ち歩いており、フラッシュでの目つぶしが得意技。


足利直士


久我と並ぶ源氏の本家より権威のある名家の出自。造士館中等部では生徒会長を務め、高等部に上がってからも一年の時から副会長になり、来年度会長選に出馬予定。

なおぼんくらーズはそれぞれ名前と全く関係ない元ネタがある。


モミジ 「当然の突然変異」


哉人と同い年にして既に天文台所長(なお総員2名+見習い1名)の鬼才。既に凌雲より強く、純化哉人でも多分勝てないぐらい強い。

亜人排斥の風潮が強い都市国家で魔法使える(父親由来)星の子(母親由来)とかいう役満状態なのでシャレにならないぐらい迫害を受けている。故郷ではもう彼を抑える方法が既に存在しないという不穏さも抱えている苦学生。

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