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マホロバのモノノフ   作者: しふぞー
第一章 一縷の希望
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大人たちの思惑

 哉人と千沙希がメディアや様々な勢力が事後処理にいそしむ中隠れるように現場を立ち去っていくのを上空から見下ろす二人。

 箒に跨って浮遊する山階都とその後ろに乗る在原凌雲。本来は不干渉の約定のため此岸に介入出来ないが彼岸からの密航者や彼岸に関連する捜査の場合にのみ自己判断で介入することが出来る。そのためデイダラボッチが召喚された瞬間に此岸に突入し、千沙希を救出したのだ。


「哉人のこと助けるのは今回だけなんだからね!」


 都は小枝のような杖で雨雲を操って局地的な大雨を発生させ、二人がこれ以上面倒ごとに巻き込まれないように隠し、大通り沿いのビルで発生している火災の消火を手助けする。


「全く、恐ろしいわ。まさか弟子一人を送り込むのと一度面倒を見た女の子を助けただけで自分の思い通りに事態を動かすだなんて」

「…まあデイダラボッチは俺が倒すつもりだったんだがな。手間が省けてよかった」


 彼はいつでも刀を抜けるように唐紅のを両手で持っていた。

 この一連の事件において哉人も千沙希も密輸カルテルでさえ盤上の駒に過ぎなかった。ゲームプレイヤーはあくまで在原凌雲と伏見瑛士の二人だった。このゲームは彼岸で大きな影響力を持つ二人が、此岸に影響力を持つために駒を奪い合うゲーム。この勝負は序盤に御影哉人という大駒を切ったものの未だ手元にあった密輸カルテルとデイダラボッチを哉人を使わせて食わせ、千沙希という玉を逃がして哉人を回収。最後に哉人を使って詰め切った。

 凌雲は懐から『醉象』と書かれた駒を取り出す。じっと見つめてからコイントスの要領で投げて空中で握りしめる。そこから取り出してかたひっくり返すとそこには『太子』と書かれていた。


「玉将を取っていい気になるのはいいが、まだゲームは続いているんだ…」


 都は消防隊が火災を鎮火していくのを見届けてから凌雲が作り出した門を通って彼岸へと帰っていく。

 



 哉人を見送った平正春は黒服たちを自分の郎党たちに拘束さえ、自分は橘千沙希が立ち入りに入ったビルを調査していた。

 水の妖術が得意な正春は証拠に影響が出ないように細心の注意を払いながら消火し、一人で調査を続けていた。

 そして倉庫で密輸品が押し込められているのを発見した。


「見つけた。あったあった」


 そこにあったのは星の瞳と呼ばれる宝石。

 その原材料は星の子、マホロバでは神通力使いと呼ばれるものたちの生きた眼球そのもの。神通力使いは死の時に肉体が自身の神通力によって光粒となって消える。そのため生きている神通力使いからしか採取することが出来ないのだ。

 その美しさは神通力使いの力量に比例する。哉人の瞳はここにあるどの瞳よりも美しかったが、ここにある瞳だけでも小国の国家予算並みの金額に相当するだろう。

 この宝石が合法な国はマホロバとその友好国の中のどこにもない。

 将春はデバイスからとある道具を取り出し、その道具に星の瞳を入れていく。すると星の瞳は光粒となって消える。

 弔いながら、消滅させていく。この石の存在は此岸では認められてない。だから証拠になるものの消滅させていく。しかしこの介入そのものが平家が密輸カルテルを全面的に潰すという決意そのものなので関係が無い。

 何せ摂家の意思は政府の意思を上回るのだから。

 全て処理し終えた将春は他の全ての証拠を検察に引き渡して帰還した。




 源家、本家。


「進九郎、義照。俺が言いたいことはわかるな」

「はい…」

「はーい」


 二人の前のモニターに写っているのは今回の二人の手柄。義照がそこそこ頑張っているのに対し、進九郎はわずか数体分しかない。


「平将重の背中に隠れて逃げ回っていただけだというのがよくわかるな」

「すみません。父上」

「まぁまぁまぁ初陣だし?少しぐらい多めに見てもいいじゃないですか!なぁこれからばったばったとなぎ倒すもんな!」

「そうだといいのだがな」


 義照に茶化されながら慰められ、義臣はため息をついている。進九郎は針の筵だった。

 千沙希と大きく違う点として進九郎の能力は義照とは比べ物にならないほど高い。そして実はやる気自体も高い。どうしても現場に着くとメンタルがとてつもなく後ろ向きになってしまうのだ。

 義臣は有望なんだか不甲斐ないんだかよくわからない息子の養育に苦心していた。



 伏見瑛士は捜査本部の自分の席で被害を受けた企業の代表者に片っ端から連絡しているが通話するたびに疑問が重なっていく。

 

『いやーすみませんなぁ』

「どうして!?」

『もう先にお誘い頂いていまして』

「それはまさか…」

『はい、橘右京様です』


 伏見瑛士は自ら会盟を開いて復興を取り仕切ろうとしていたがどこも橘に先手を取られていた。

 元から根回ししていた大手ゼネコンや資材建材会社に連絡してもおことわりの言葉しか帰ってこない。

 

「(何故!?橘右京はこんなすぐに手回しが早い男ではなかったはずだ!誰か吹き込んだ奴がいるか!?)」


 伏見が自分の記憶の中にいる故事・『会盟』を知る者を呼び出す。

 在原家、伏見家、その他四摂家、そして


「(哉人か…!!!)」


 この時脳内に電撃が走る様に様々な事象がつながっていく。

「(俺が打った手は全て()()()()()()()()()!凌雲に!)」



 平将重は会盟の参加者兼立会人としての招待の連絡と将春からの連絡を同時に広げて満足そうに笑う。


「ハッハッハ!伏見の若造め、此岸の経済が羨ましくなって利権欲しさに密輸カルテルをつついて暴発させたはいいが全部飼い犬と思っていた野犬に噛まれて全て失ってしまったようだな!愉快愉快!」


 利権を作り独占しようとした伏見と利権を作らせず経済を開こうとした橘。あくまで自己責任、自由を求める商人たちがどちらを頼るのかは自明の理。

 何より気に入っている御影少年がどちらについたかはもう確認するまでもない。


「今夜はみーんなあの流星に心を奪われてしまったようだな!」


 平正重は夜が更けていく中、一人酒を煽りながら高笑いを続けていた。

 翌日喉が枯れた。



 そして一人とぼとぼと洛都を去る者が一人。なんと奇跡的に検察の追求から逃れて首謀者たちの中で逃げ切ったぬらりひょんはこれからのことを考えながら裏道を進む。

 彼岸の在原凌雲から逃げ切ったはいいがまさか伏見瑛士が在原の弟子を連れてまで追ってくるとは思いもしなかった。

 今は身一つでも無事でいられたことに感謝しながら陰の道を進む。

 

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