モノノフ・プロローグ
能舞台の上で横凪に一閃、薙ぎ払う。戦場で赤い太刀を横凪に一閃、薙ぎ払う。
違う場所にいる二人が完全に一致した動きで剣を振り抜く。一人は弟子、未だ一人前とは言えず刀も訓練用のもの。もう一人は師、血のように紅い太刀、朱刀・唐紅を力強く振り抜き、その太刀筋はまるで剣舞のようで見る者を魅了し、そして立ちはだかる敵を全て切り捨てる。
師が縦に切り下ろせば弟子も切り下ろす。弟子が居合の構えをとれば師もまた居合の構えをとる。師が敵の攻撃を躱せば弟子も見えぬ敵の攻撃を躱す。
「秘刀・絶影」
師の一撃は天まで届きそうな巨躯を妖魔を一刀で切り伏せる。
しかし弟子の一撃は何も切ることは出来ない、
二人の動きは完全に一致していた。しかしその中身はとてつもない差があった。師は死地に向かったが弟子は未だ半人前ゆえに同行を許されなかった。
あの英雄は誰よりも輝く星だった。俺はあの星を目指そうと思った。俺たちは大地に立つだけだが、翼を手に入れたらあの星まで飛んでいけるのだろうか。かつて試した人がいるらしい、結果は誰も知らない。
多分、遥か彼方にあって。とてもとても遠いんだ。
今は遥か遠くとも、いつかは辿り着いて見せよう。
弟子はそう誓い未だ見ぬ敵を切るために修練を積むのであった。
物語はその誓いの時から2年の時が経ってから始まる。
かつて星を目指した鳥がいなくなってから十数年が経ってから始まる。