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第3話 君の往く末に、ありったけの不幸を

「いい加減わかったかな。一緒に逃げるとか、私、そもそもそういうの望んでないんだよね。そんなわけで、創とのお遊びは今日で終わり。今までご苦労様でした。今後は二度と私に近づかないでね。婚約者に元カレと会ってるとか誤解されて捨てられたら嫌だし」


「............本気で、言ってる、のか......?」


「当たり前でしょ。わかったらもう終わりでいいかな。私、帰っていいかな。本当ならCHAIN(チェイン)で別れましょうって伝えて終わりにするつもりだったのに、創がどうしてもっていうから仕方なくきてあげただけなのよ。今日も婚約者が寝室で待ってるから早く帰らなきゃなんだよね」


「......っ」



 昨晩、彼女からCHAINで送られてきたメッセージは、『婚約者ができたので別れましょう』という一言だった。


 彼女の家が結構な名家であり、彼女の立場も決して良くないことも知っていたから、そのメッセージを見たときに、絶対に彼女の家に強制されてるんだと思った。

 だから今日、ここに来て、今この話をされるまでは、彼女にとって不本意な婚約なんだと信じて疑ってなかった。


 そんな俺の想定とは全く違って、俺の心を抉るだけ抉って、碌な説明もないまま最後のお別れを催促される意味不明な状況。

 予想とのギャップが大きすぎて、脳の処理が追いついていないのがわかる。


「はぁ。それじゃあ、私はもう行くから。連絡先も適当に消しておいて。写真とかも、あんまり撮ってないとは思うけど、リベンジポルノとかしないでよね。もし私に何かしたら、端月の力で潰すから」


「......そんなのしないから」



 わけもわからないまま、最愛だと思ってた相手に捨てられ、しかも最後に脅されて復讐しないよう釘をさされた。


 言われなくても復讐なんてしないけど。意味はわからないけど、ムカつくけど、泣きそうなくらい悔しいけど。

 どっちかと言えば心が凪いでるって感覚が強いし。


 いや、それは完全に強がったわ。

 まじで泣きそうだし、フツフツと怒りが湧いてきてるし、ぶっ転がしたい気持ちまである。

 一切凪いでないし、むしろ心の中は嵐の真っ只中だわ。


 かといって、怒りに身を任せて女性に手をあげるようなクズにまでは成り下がれない。


 むしろ、こんな最低な女のためにクズに成り下がるなんてイヤだ。

 そんなふうに思えるくらいには、まだ俺は冷静でいられてるのかもな。


 となると、俺にできることは、彼女が去るまでほんの僅かな強がりを返すことくらいか。


「......そ? それならいいけど。創もさっさと相性のいい相手みつけて、幸せになりなさいよね」


「............うるさい。あんたに言われる筋合いなんてねぇよ」


 何が『幸せになりなさい』だよ、白々しい。

 さっきまで愛しく宝石のように感じていたはずの彼女の一挙手一投足が気持ちの悪いゴミにしか見えなくなって、一言一句が全部が不快な騒音にしか聞こえなくなっていた。



「............ま、そうだよね。それじゃあ、永遠に、さようなら。私と関係ないところで............幸せになってね、お願いだから」



 中途半端な激励の言葉のせいで、我慢しようと思ってた苛つきがピークに達したのか、俺の口は意識とは無関係に言葉を紡いでいた。


「だからうるせーんだって、このクソビッチ。俺の貴重な時間を奪いやがって、あんたみたいな女、こっちから願い下げだよ」


「はは......そっか、そうだよね。うん、それじゃあね」


「二度と顔みせんな!」



 俺の下宿先の近くの人の少ない静かなカフェの、さらに人気の少ない、というか俺たち以外誰も居ない2階で繰り広げられた修羅場は、俺の言葉を最後まで聞くことなく踵を返して妃涼さんが立ち去っていったことで幕を下ろした。


 俺からの最後の別れの言葉は、今まで彼女に投げかけたこともない汚い憎まれ口。


 彼女は、その本心はわからないとはいえ『幸せになって』とポジティブな言葉をかけて去っていったけど、俺からはとてもじゃないけど背中を押すような言葉をかける気にはなれなかった。


 立ち去っていく彼女の後ろ姿を睨みつけていると、彼女はそっと自分のカーディガンの袖で目元を拭うような仕草をした。

 珍しい俺の罵詈雑言に涙でもでたんだろうか。


 一瞬たじろいでしまったけど、すぐに、仕方なかった、当然の結果だと切り替える。


 そりゃそうだ。悪いのは100%あの女で、俺は悪くない。

 心変わりして、筋も通さないで浮気して、俺を捨てた彼女が一方的に悪いんだ。俺が彼女を応援するような言葉をかける義理なんてないんだから。

 あんたに泣く権利なんてないんだよ。








 むしろ、願わくば、どうか神様。彼女、端月妃涼(はしづきひすず)の往く末に、ありったけの不幸があらんことを。

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