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最終話 ペネロペside 二人きりの昼下がりの個室

「なぁ、ペネロペ。いい加減諦めて俺のところに嫁いでこいって」


 私──王宮仕えの女官、ペネロペ・キャンベルは、昼下がりの個室に入るや否やドアを閉められ、待ち構えていた男に顔を寄せられて結婚を迫られている。


 私を囲むように壁についた腕は、昔よりも太く逞しくて、頼もしい。


「いやよ。誰が貧乏子爵家の次男に嫁ぐもんですか! それにジェレミーは私が王太子妃付きの女官になる応援をしてくれるんじゃなかったの?」


 騎士として王室に仕えているジェレミーは王族警護をする第一師団……通称近衛騎士団で第二連隊の副長をしている。

 

 私も女官として王室に仕えている。


 王太子殿下が成人するや否や王宮や貴族院で働く役人や貴族達による癒着や腐敗の問題に大鉈を振るい、お父様は引退勧告を受け、兄が跡を継いだ領地で隠居生活を送っている。

 その頃女官として王宮に登用されたばかりの私はお父様の作ったコネはもちろん使えるだけ使って辣腕を振るい職務に邁進した。女官としての私は重用されていると自負している。

 それなのに今年も王太子妃殿下付きの専属女官になるために受けた試験に通らなかった。

 ジェレミーは慰めようとしてくれているんだろうけど、今の状態で結婚したら私は夢を諦めることになる。


 いつもなら『私の応援をするんでしょ?』と言えばすぐ引くはずのジェレミーが、なんだかぶつぶつ言いながら目線を逸らしたと思ったら、喉が鳴るのが聞こえた。


「俺さ……今度、連隊長に任命される……そうしたら男爵(貴族様)だ」

「……! ジェレミー! 結婚してあげるわ!」

「……」


 結婚を承諾した私にジェレミーが胡乱な眼差しを向ける。


「あら。嬉しくないの? 結婚してあげるって言ってるのに」

「今までずっと断っていたくせに急になんだよ……」

「だって結婚して男爵夫人になれば王太子妃殿下やお子様達の侍女になれるわ」


 身の回りの世話をする侍女は王太子御一家のプライベートに携わる。

 国王陛下や王太子殿下に近づく機会も沢山あるので、未婚の女性たちをそばに置くとお手つきになった時に世継ぎ問題に発展したりする事から、昔から女性王族や王族子息の侍女や乳母は貴族夫人に限定されている。


 いままで王太子妃殿下に近づくには、王太子妃殿下付きの女官になるための難関試験を突破するしかなかったけど、男爵になるジェレミーと結婚すれば侍女や乳母になる選択肢が増える。


「任せて、ジェレミー。侍女になれたら王太子妃殿下に取り入ってジェレミーの事引き立てて佐官にしてもらうように頼んであげる。王太子妃殿下は紅茶がお好きなんですって。頭脳明晰、容姿端麗な私が楽しい話題と美味しい紅茶のティータイムを提供すれば、きっと王太子妃殿下は私の事を贔屓して下さるわ」

「……はぁ?」

「ジェレミーいい? 連隊長になって男爵位を賜っても大尉止まりだと一代限りなのよ? 結婚して子供が生まれてもその子が貴族でいるためにはやっぱり実力で爵位を賜らないといけなくなって大変じゃない。でも佐官になれれば領地も頂けるし、一代限りの貴族じゃないわ! そうすれば私たちの子供も安泰よ!」

「……相変わらずだな」


 私の興奮はちっともジェレミーには伝わらないらしくて、呆れた顔で私を見つめている。


「何呆れてるのよ?」

「呆れてないさ。相変わらず、ずれた策略に一生懸命頑張るペネロペは最高だなって思ってるだけだ!」


 そう言ってジェレミーは私を強く抱きしめた。


~完~

お読みいただきありがとうございます!

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クロスオーバーとかハイパーリンクとかカメオ出演とか大好きなので、同一世界を舞台にした作品が中心です。

全ての物語が他の話を読まなくても支障ない独立した話ですが、どこかで話が絡まったり絡まなかったりします。

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