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第4話 ペネロペside 秘密の小部屋

 お父様に連れられて歩く王宮の回廊は中庭に咲く梔子(クチナシ)の甘い香りで満たされていた。


 お父様に王宮へ呼び出された私は、迎えにきていただくまで、中庭で時間潰しに花を眺めていた。


 梔子(クチナシ)の白に百日紅(サルスベリ)の桃色の花、百合に、紫陽花(ハイドランジア)、紫色のアイリス。沢山の花が咲く中庭をまだ見学していたかったけど、そんな状況ではなさそうね……


 後ろ髪を引かれながらお父様の後ろを歩く王宮の中は、お茶会やパーティーで来た時と違って役人達がウロウロしていたり、近衛騎士がウロウロしていていつもの華やかな雰囲気はどこにもない。


 今日の曇天と同じくらい重苦しい雰囲気に気後れしちゃうわ……


「お父様。今日は何があるんですの?」

「お前は何も知る必要はない。お前は用意した部屋で待っているだけでいいんだ」


 お父様は最近イライラしていらっしゃる。


 使用人達の噂話だと、隣国のイスファーンと取引をするための会議に国王陛下ではなくて殿下が参加することになって、その補佐にお父様でなく政敵の秘書官が選ばれたとかなんとか……

 私には(まつりごと)の駆け引きは、なんだかよくわからないけど、とにかく今日もお父様はイライラしていて、私が何のために登城することになったのかも教えてくださらない。


 連れてこられた王宮の奥には役人達が政務をこなす部屋がたくさん並んでいる。

 

 役人達が私を見る眼差しも訝しげで居心地が悪い。


 部屋の前でお父様は急に立ち止まると、ドアを開き私を招き入れる。

 お父様の執務室かと思ったら、ソファやテーブルが置かれた応接間のような部屋だった。


「このお部屋は?」

「いいか。お前はここで私が戻ってくるのを待っているだけでいい。わかったな」


 お父様はそう言ってそそくさと部屋を出てしまわれた。

 置き去りにされた私は、ポスっとソファに座って辺りを見回す。


 質実剛健な家具だけど、磨き込まれた胡桃の木(ウォールナット)で統一されていて、高級な品であることは私にだってわかる。装飾が少ない家具の中で、ソファやクッションに使われている瑠璃色の絹糸で織られた布が部屋のアクセントになっていた。


 真っ白な陶器に繊細な花々を絵付けをされた花瓶に、金色の額縁に飾られた風景画……


 我が家だってそれなりに裕福な貴族だもの、高級な物は見慣れているつもりだけど、ここにある調度品は目を見張るものばかり。


 ここは来賓を待たせる部屋なのかしら?

 そんな部屋に私がいて大丈夫?


 じっと座っていると緊張してしまうので、窓の外を眺めるために立ち上がる。


 あら? 続き間になっているわ。


 先ほど座ったソファの背側にドアがあった。


 待っていろとは言われたけれど、部屋の中を動き回るななんて言われてないものね。

 なんて、自分に都合のいい解釈をして興味本位でドアを開ける。

 覗き込むと続き間の奥は今いる部屋より小さくて、ベッドと小さなテーブルと椅子が置いてあるだけ。


 一体この部屋はなんなのかしら。


 私が考え込んでいるとドアを開ける音と一緒に男性の声が聞こえる。


 この声は……


 慌てて振り返ると、お父様と殿下がいらっしゃった。

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