7月9日(1)
7月9日
その日は、まさに、夏を代表する青空が広がっていた。
誰にも起こされず、目を覚ますと、部屋の中は、生ぬるい空気でうめつくされていた。
クーラーをつけるかつけないか迷いながら、リモコンを探す。
だが、リモコンが見つからない。
生ぬるい空気が、ジワジワと追い詰めてくるような気がした。
寝ている間は、何も思わなかったのに、気づくと不快になる。
結局、諦めて起き上がることにした。
階段を降りて、リビングへ行くと、父の姿があった。
ソファに座っている父は、表情を変えることなく、テレビの音量をあげた。
私は、父と同じように、表情を変えずに、その横を通り過ぎて、冷蔵庫に向かった。
コップに冷えた麦茶をくんで、一気に飲みほした。
「今日、松本まで行こうと思うのだけれど、どう思う?」
精一杯の言葉だった。
このどうしようもない無言の圧に耐えきれなかった私が、吐き出すように出した言葉だ。
少し、間が空いて、父はそのまま視線を変えずに言った。
「やめとけよ。人が多いだけだ。」
確かに、土曜日の松本なんて、人で溢れかえっている。
わざわざ、今日行くことなんてないのだ。
父は当たり前のことを言った。それだけだった。
でも、私の心はザワザワとしていた。
なぜなら、精一杯の言葉を否定されたような気がしたからだ。
もう一滴も残っていない、コップを握りしめて、父の背中を睨む。
そんなことしても、私の感情を父に伝えることはできない。
だが、父がこちらを見ていないからか、この心のザワザワを怒りとして父にぶつけたかったからか
私は、小さな反抗を表現した。
父は、私のことを知らない。
知ろうとしない。
普通の私が、もういないことを。
普通の道を外れた自分が、今ここにいることを。