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第94話 命がけの脱出

 俺は椿の盾になるため、背を椿に向けて白装束の奴らを注視した。

 同時に、頭の中で横山池周辺の地形を経験と勘、そして推理力をフル動員して組み立てていく。

 奴らは拳銃を持っているが、怯えてとどまっているわけにはいかない。警察に通報するにしても、白装束と分かれば駆け付けてはくれないだろう。

 今一刻も早くしなければならないのは、ここから脱出することだけだ。


「椿、あそこの木の隙間に入ってくれ。そして、すぐに左、数秒後右の順番で曲がる。あとは一直線だから、一気に距離を引き離せるはず」

「わかった」

「一直線の道に出たらまた指示するから、運転頼む」

「オッケー!」


 椿はアクセルを全開にして車を発進させた。

 同時に俺は後ろにいる紅葉ちゃんと依頼人である朝永さんと泰子ちゃんに、絶対に顔を上げないでくれと呼びかけた。

 奴らは撃ってくるはずだ。


***


「くそっ! 逃がすか!」


 ミルクはライフルの銃口を走り去る車に向ける。


「ミルク、待ちなさい! 深追いをしてはいけません」


 アイボリーが大声で叫ぶ。

 ミルクは盛大に舌打ちして、アイボリーを睨みつけた。


「何言ってんだよ! せっかくの獲物が台無しじゃねえか! お前、ボスの命令を反故にする気か!?」

「一度退散よ。深追いして警察に姿をさらしたらどうするの」

「……」


 ミルクはライフルをケースにしまった。

 そして、盛大な舌打ち。


「はいはいわかりましたよ、アイボリー様」

「ふふっ、やっぱり素直ねえ」


 涼しい顔をするアイボリー。

 様子を見ていたベージュが不思議そうにアイボリーに問いかける。


「ボスにはどう報告するんですか?」

「作戦変更よ。あの子たちの行動を先読みするの。みんな、協力してくれるかしら」


***


 車は一気に木々の合間をすり抜ける。

 発砲音が後方から数発聞こえたが、威嚇射撃だったらしく、弾丸が飛んでくることはなかった。


 低い草や細い木をなぎ倒して、車はついに広い道に出た。ここからはしばらく道なりとなる。

 車内はまだ空気が張り詰めた状態だ。

 ここを出たらすぐに警察に通報し、保護を求める必要がある。もちろん、俺たちのことをわかってくれる堂宮刑事や越川刑事に依頼するしかない。


「椿、ここを出たすぐのコンビニで警察を呼ぼう」

「わかった」


 それだけ言うと、椿は運転に集中する。

 次のルートはどうだったか、頭を伏せてスマホの地図アプリを確認した。その瞬間だった。


バン‼


 どこからか銃声がし、その刹那、リアガラスとフロントガラスが割れた。


「な、なんなの⁉ 追っ手」

「構わず運転しろ!」


一瞬椿が動揺し、ブレーキを掛けかけるが、俺は声を上げて椿を制した。


キュン!


 もう一発、今度は真後ろで何かが高速で通り過ぎたような、甲高い音。


「うっ……っ!」

「正兄ちゃん⁉ どうしたの⁉」

「……う」

「き……きゃあああああああっ‼」


 紅葉ちゃんの悲鳴が車を震わせた。


 とっさに振り向くと、うずくまるように朝永さんが肩に手を当てて苦しんでいた。彼は持ち込んだクッションに肩を強く当て、苦しんでいた。

 肩から鮮血が流れている。

 泰子ちゃんは必死になって呼び掛けていた。


「朝永さん‼」

「リツ、何があったの⁉」

「朝永さんが撃たれた!」

「え⁉」


 目の前で依頼人が銃撃を受けた。その事実が信じられなかった。

 くそ、あいつら、後をつけていたのか!


 だが、俺はその衝撃を一瞬で振り払った。

 もう、どうこうしている暇はない。依頼人の命が掛かっているのだ。


「椿! 構わずスピードを上げてくれ! もうすぐコンビニだ」

「……わかった!」


 俺は椿に道をまっすぐ進んで、森を出たらすぐに左折するように伝えた。


 スマホを取り出し、俺は救急車を呼び、警察に通報した。

 

 椿の車はコンビニの広い駐車場に停められた。椿の車は銃撃を受けて、ボディのあちこちに凹凸が生じ、車窓ガラスは割れている。

 そして、車内では朝永さんが横に寝かされていた。


「正兄ちゃん! しっかりして! 正兄ちゃん‼」


 泰子ちゃんの声がこだまする。

 俺は椿の指示で朝永さんに応急処置を施そうとした。車の荷台に入っていた救急箱を取り出すと、俺は朝永さんに呼びかけた。


「早く止血しないと。動かないでください」

「……いや、大丈夫です。傷は深くありませんから」

「どうして⁉ 撃たれたんですよね! じっとしててください!」


 俺は叫ぶと、鮮血が滴る肩にハンカチを強く押し当て、止血を試みた。幸い、肩をかすめた程度だったようで、ハンカチでも十分に止血が間に合いそうだ。


「……ごめんなさい」


 申し訳なさそうな声を出す朝永さんに目もくれず、俺は懸命に応急手当てをした。

 椿は飛散したガラスで負傷した依頼人や紅葉ちゃんの傷を拭き取り、消毒を行った。


――依頼人を絶対に守る


 過去の事件で学んだ、俺たちの教訓だ。


 俺たちの様子は周りからも目立ったようで、周囲には野次馬も現れ始めていた。

 俺と椿は街路樹の木陰に依頼人と紅葉ちゃんを移動させると、特に傷が深かった朝永さんを安静にさせた。

警察と救急車が来たのは通報から十分後。

 重傷を負っていた朝永さんは泰子ちゃんとともに救急車で搬送され、顔にけがを負っていた俺たち探偵事務所のメンバーは警察車両に乗せられ、ともに常盤市で一番大きな病院に向かうことになった。



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