第92話 狩り
――ネズミを捕まえて“楽園”に送れ
それがアイボリーから告げられたボスからの指示であった。
ベージュは系列企業が開発した白装束専用の拳銃を手に取ると、アイボリーとともに白いベンツに乗り込んだ。
動員を求められたのはアイボリーとベージュのほかに、パーチメントとミルクというコードネームを持つ諜報班のメンバー。彼らはアイボリーの提案で横山池周辺の森で落ち合うことになった。
横山池は常盤市南東の血原野公園の近くにある池で、昔、今の福平に城を構えた武将と、天下統一を狙う武将が一騎打ちを果たした場所とされている。
確実に捕らえて、ボスのもとへ送り届けなければならない。なぜなら、“ネズミ”と呼ばれる探偵たちはボスのお気に入りだから。
そんなことをアイボリーは話していた。
ベージュは助手席でスマホの地図画面を見ながら、運転するアイボリーに声をかけた。
「アイボリー、横山池で集合するのはなぜなんです? 奴らの動きを察知したんですか?」
「いや、連絡が入ったのよ。迷える子羊ちゃんから」
「迷える子羊? またお得意の比喩ですか。仲間ならもったいぶらないで、わかりやすい言葉で話してくださいよ」
「あらごめんなさい。でも、とても有益な情報よ? ボスにとっての宝物を献上できるんですから」
ベージュは怪訝そうな顔をした。
「でも、東京にいたときに確保できなかったのは俺たちの失態じゃないんですか」
アイボリーは涼しい顔を崩さない。
「失態? でも、結果的にはよかったじゃない。自分たちからわたくしたちの元に来てくれたんだから。いずれにせよ、ボスは泳がせておけって言ってたんだから」
「そうですが……」
そうなら早く捕縛すべきなのだ。
しかし、今はボスからの指示を忠実に実行するだけ。懸念はあっても、この同僚とともに事を進めるだけだ。
そして待ち合わせ場所の横山池。
池の近くに車を目立たないように駐車する。
車の外にはすでに白いサングラスとマスクを身に着けた二人組の男女がいた。
「遅いじゃないかい、アイボリー」
赤く髪を染めた女がライフルの入ったケースを持ってやってきた。
「パーチメントは早く獲物を仕留めたいってよ」
隣にいる細身で長身の男は首をわずかに縦に振った。
「あら、ミルク。わたくしたちはネズミを捕獲に来ただけではなくて? 生きてボスに献上するのが目標ですわよ」
「ちっ」
ミルクと呼ばれた短髪の女は舌打ちとともに唾を吐き捨てた。彼女は腕を組んで、ため息をつく。
「まあボスの命令だからいいけどよ。たまにはぱあっとドンパチやってみたいんだけどな」
そして、ミルクの赤い目はアイボリーを睨みつけた。
「しかしなあ、アイボリー。お前こそ物騒なこと考えてるだろ」
「物騒な事って?」
「この前の射殺命令。立案はアイボリーだったそうじゃないか。ちゃんとボスとか執行部に話を通したのか?」
アイボリーは不敵そうに笑った。
彼女はミルクの問いかけに応えなかった。
「ボスのためになることを実行して、何が悪いのかしら」
「あのなあ、あたいら活動しているのは“組織”のためだろ。秘密主義なのも大概にしろ」
間を取り持つように、ベージュが二人の間に入る。
「……まあ、今は指令を実行しよう」
「ああ、そうだな」
ミルクは唾を吐き捨てると、アイボリーに向けていた矛先を収めた。
アイボリーはふっと笑うと、三人に作戦のことを話し始めた。
白装束の「狩り」が始まる。




