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第82話 〈殺し屋X〉

 白い服の奴ら――すぐに思い浮かぶのは「ホワイトリップル研究所」と名乗る白装束の一味だ。まさか、奴らが盗聴器を仕掛けているのか……?

 だが、白装束が脅迫状を出すような証拠が残ることをこれまでにしたことがあったのか?

 その時、ドアの郵便受けに何かが淹れられた音がした。


「郵便物……まさか……!」


 泰子ちゃんが小走りで玄関ドアに向かっていく。

 十数秒後、泰子ちゃんが封筒を持って部屋に戻ってきた。


「……まさ兄ちゃん、これ」


 まさ兄ちゃんと呼ばれた朝永さんが、おびえた声で手を震わせる泰子ちゃんから封筒を受け取った。

 開封して現れた便箋を確認してみると、朝永さんの目が大きく見開かれた。


「た……探偵さん……これは……」


 椿は朝永さんからその紙を受け取った。俺も確認するために、椿にその紙を見せてもらった。


――お前たちの行動はすべてお見通しだ。逃げ場はないと思え。必ず、狩りに行くからな  殺し屋X


 紛れもなく、殺害予告……しかも送り主は、以前朝永さんたちに脅迫してきた≪殺し屋X≫であった。

 俺は椿と相談した。

 盗聴器や脅迫状が届いている以上、ここに居続けるのは危険すぎる。


「すぐに別の場所に移動したほうがよさそうだな」

「そうね。依頼人の安全を確保しつつ、脅迫している人間を割り出さないと」

「ああ。盗聴対策も万全にしないと」


 俺たちはすぐに車に乗り込むと、常盤駅の方向に向かった。ファミリーレストランで今後の計画を立てる。

 テーブルに座り、店員にオーダーをした後、早速椿が話を切り出す。俺と椿は事前にどうするか、車の中で話し合っていた。


「とりあえず、しばらくはホテルで寝泊まりをお願いします。私たちも朝永さんたちの近くに宿泊いたしますので、もし何かあったら、すぐに連絡を」

「わかりました。でも、なぜホテルなんですか?」


 朝永さんの質問に対して椿に目で促され、俺はメモを片手に説明を始めた。メモには話す内容の概要が箇条書きされている。これは椿から俺の説明力を鍛えるためという目的も含まれている。


「それは……盗聴器を仕掛けにくいからです。いろんな人が出入りするホテルだと、ある程度犯人の動きを躊躇させることもできます。ただ、長居すると、感づかれるかもしれない」


 椿が俺の説明に付け加える。


「その間、私たちは脅迫している犯人を見つけ出すため、全力を尽くします。それで、朝永さんには、警察に通報してもらいたいのですが」


 しかし椿の提案に朝永さんは首を振った。


「警察はダメです。何度か相談に行ったんですが、全然取り合ってくれなくて……。誰かのいたずらだとか言って、門前払いされるんです」

「そんな……」

「警察署に行っても受付まで警官が来て、来るなっていう始末で……」


 警察が取り合わない。まるで例の薬のような対応である。

 依頼人にとっては藁にもすがる思いで助けを求めただろう。しかし、そんな手を警察は払いのけたのだ。

 警察にも信頼できる人はいるが、朝永さんたちの力になれるのは俺たちしかいない。


「宿泊先はどうしましょうか。セキュリティが万全なところがいいですよね」


 椿が尋ねると、朝永さんがスマホの地図アプリをこちらに向けてきた。


大炊山(おおいやま)ホテルとかどうですか? 比較的料金も安いですし、セキュリティも万全らしいですよ」

「へえ……ここから近いんですね」


 場所は悪くないように思える。俺たちは朝永さんの提案を受け入れることにした。

 俺たちはファミレスでの打ち合わせを終えると、さっそくホテルに向かった。


 俺と椿はホテルのスタッフに協力をお願いしたうえで、ホテルを隅々までチェックした。

 盗聴器やレコーダーのような不審なものは設置されていないようだ。


「私たちは隣の部屋にいますから、違和感を感じたらすぐに連絡をお願いします」


 そういうと、椿は朝永さんに俺たちの事務所用の携帯番号を教えた。


「ありがとうございます。神原さん、よろしくお願いします」


 安堵の表情を浮かべつつも、朝永さんは頭を下げた。泰子ちゃんも少々おどおどしながらも、頭を下げる。

 俺たちも隣の部屋に泊まり、事件の情報を収集することになった。


 情報の収集、まずは依頼人の周囲で怪しげな人物がいなかったか確認する必要がある。

 ただ、脅迫状と盗聴以外で、朝永さんたちの周りで怪しい動きをした者は確認できなかった。もちろん、これは朝永さんから聞き取った内容である。

 そして、俺たちはもう一度朝永さんのアパートに戻り、周辺の住民から聞き取りを行った。さらに以前住んでいた借家周辺の住民にもできる限り聞き込み調査を進めていった。

 しかし、住民たちはここ最近怪しい挙動の人物は見ていない、と口をそろえて話していた。


 とはいえ、まったく手掛かりがないわけではなかった。


「怪しい人間……というわけではないけど、最近保険屋さんがよくチラシを配りに来るわね」


 話していたのは以前朝永さんが暮らしていた借家の隣に住む主婦だった。生命保険の周知と勧誘で借家の周りを歩いていたという。


「保険の勧誘か……」

「何かおかしいの? 保険屋さんの勧誘なんて、あなたもやったことあるんだから珍しいことじゃないでしょ?」


 椿が言うように、これだけの情報なら、事件と全く関係ないと考えてしまう。

 しかし、この情報はほかの朝永さんたちが住んでいたアパートや借家、マンションでも同じような話を聞いていたのだ。そして、訪問に来ていたのも同じ人間で、男女二名……。


「同じ人間が、まるで朝永さんを追いかけるように、狙ったように勧誘に来るなんて、ありえるか?」

「そうだけど……。たとえば、集合住宅に住む人をターゲットにしてるとか」


 しかし、その男女二名の容姿が気になった。モデルのようなすらっとした体形で長い茶髪の女と、外国人のような金髪と面長で端正に整った高身長の男――

 思いつく人間といえば、あいつらしかいない。


「まさか、奴らが脅迫してるのかな。白装束の連中が」


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