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第78話 疑惑

 端整な顔立ちで、秘書の役割をこなし、さらに営業や勧誘もバリバリとこなすまさに“仕事ができる女”。一方で近寄りがたい秘密を身にまとい、めったに姿を見せないボスの愛人。二つの顔を持つビジネスパートナー、アイボリー。

 彼女がいたるところで暗躍しているのは公然の秘密であった。


 ベージュは今日も表のビジネスと裏の勧誘でこの女と行動を共にしている。

 車内で製品資料を確認していると、車を運転していたアイボリーが話しかけてきた。


「そういえばグレーの遺体が発見されたさみたいね。だいぶ前から行方不明だったみたいだけど、何があったのかしらね」

「……今朝の新聞記事にありましたね。彼は顧客に渡す薬を取り違えたか何かで、上層部に呼ばれたそうですが、それから音沙汰がなかった」

「まあね、やってはいけないやらかしだったから。こっぴどく叱られたんでしょうね」


 グレーは売るべき薬を間違えて渡した。そして、それが殺人事件に使われてしまったのだ。


「しかも、売るはずだった薬もまた別の目的に使ったそうじゃない。つくづく馬鹿よね、あの子も」


 ベージュはアイボリーのどこかよそよそしい態度が不思議でならなかった。ともにボスの理想となる世界に共感した、仲間ではなかったのか。

 この組織はある意味では秘密結社である。場合によっては外部に存在する危険因子を物理的に抹殺することもあるが――ボスは内部のメンバーには優しく、ミスを犯した者を簡単に排除したりはしない。“人生をやり直せる”という理念から逸脱してしまうからだ。普通は別の部署や組織に異動となり、場合によってはこの結社に戻ってくることもある。

 だが、グレーは叱責の後、他のメンバーの前には現れなかった。それどころか、変わり果てた姿となって発見された。

 噂によると、教会の地下で銃声がして、それを何人かの職員が聞いたという。

 明らかに殺人だ。


「アイボリー、何か事情を知っているのですか」

「……さあ。ただの事故に理由なんかあるわけないじゃない。不注意が生んだ偶然の不幸よ」

「……銃で撃たれたそうですが」

「それ本当なの?」


 アイボリーは一瞬目を丸くする。


「憶測ですけどね」


 アイボリーは半分怪訝な顔をして返事をした。


「あなたの秘密主義なところ、僕は苦手ですねえ」

「そう? 誰だって秘密にしたいことの一つや二つ、あると思うけど?」

「そうじゃありませんよ。僕たちは仲間じゃないですか」


 ベージュが言った言葉に、アイボリーは人差し指を立ててウィンクした。


「女は秘密をまとって美しくなる……貴方知らない?」


 謎な言葉ではぐらかされた。


「またそれですか……。誰かの受け売りですか」


 おそらく、この女は何かを知っている。この女はボスとともに長年組織に関わっているから、ベージュのような中堅クラスの幹部には知りえないことも知っているだろう。

 秘書のように表と裏の仕事をそつなくこなし、内外からの評価も高い女――アイボリー。彼女のおかげでベージュの仕事はボスにも評価されていた。

 年齢は二十代後半で自分と同じくらいに見えるが……実際はよくわからない。時折、年齢不相応な発言をする。

 ベージュはこの女を尊敬はするが、同時に警戒心は日ごとに高くなっていた。


「それはそうと、ボスから指令が出たわ。営業部門の人員も一緒に、組織に関わろうとしているネズミを確保し、“楽園”へ送れとのことよ」

「は」


 ベージュはひとまずボスの指令を受け取ると、書類をすべて鞄にしまい込んだ。ひとまず、この女への言及は棚上げだ。


「教会に戻り次第、ボスから具体的な指示があるから、戻ったら準備しておいてね」

「かしこまりました」


 ボスからの指示は絶対。気持ちを入れ替え、任務を遂行する。

 だが、この女への警戒は怠ってはならない。いったい、何を考えているのか。


 そういえば、この女の周辺で失踪したメンバーの話を聞いたことがある。そいつは、アイボリーに呼ばれて消えたらしい。

 まさか……グレーも……。


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