表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/83

第77話 某所、教会にて

  初夏を迎えた六月。常盤市某所にある教会。

 日本最大の湖のほとりに位置し、厳重な柵によって内と外が仕切られていた。柵の中には内部を守るように大きな樹木が取り囲むように植えられ、さらに内部には広大な庭園が広がっていた。まるでフランスやイタリアの庭園のようで、中央には噴水、周囲にはまるで迷路のように同心円状に生垣が張り巡らされ、高所から見ると左右対称に見える。

 そして、中央にはまるで教会のような高さ二十メートルはある建造物があった。その隣には、教会を利用する人向けの小さな喫茶店があった。

 木の板と柱を基調とした、落ち着いた室内に、スーツ姿の男女が二人入店した。男は黒い帽子をかぶり、サングラスを着用。金髪が帽子から少し見えている。女は赤いフレームの眼鏡をかけて、栗色の髪を後ろでくくっていた。

 二人はオーダーを頼むと、仕事の打ち合わせをするかのごとく、窓辺の丸テーブルを挟んで席に着いた。


「まさかと思ったわ。本当にすぐ近くにいたとはね」


 女はビジネスバッグから取り出したタブレットの画面を覗きながらつぶやく。


「これって……」

「ええ。パーチメントとミルクから送られてきた写真よ。あの子たち、探偵になってわたくしたちに探りを入れているみたいね」


 女の言葉を男は冷静に聞いていた。

 その先には白い半袖と茶色いズボンに身を包んだ、二十代半ばとみられる明るい茶髪の男、そして、同じく半袖ブラウスに裾に赤いラインが入った、薄茶色のタイトスカートを履いている、肩まで伸びる滑らかな黒髪の女。

 昨年の秋以降、常盤市周辺でたびたび見られていた探偵である。


「アイボリー、この男って東京で売り込んだときに薬を買ったサラリーマンですよね」


 男が写真を覗き見る。

 アイボリーと呼ばれた女は頷く。


「ええ。でも、なんで東京にいた子が、こんなところにいるのかしらね。ベージュ、わかる?」

「おいおい、いきなり難問ですか」


 ベージュと呼ばれた男は半分笑いながらも困惑しているようだ。

 アイボリーはコーヒーを一口すすると、


「答えを先に言うと、隣の女の子、この子が探偵なのよ。この子が何らかの形で男の子を探偵にしたのでしょうね」

「なぜ探偵にして、探りを入れてるんですかね」


 アイボリーは目を閉じるが、すぐに確信めいたようにその透明な灰色の瞳を開眼させた。

 ベージュは一瞬目を細めた。


「この前、写真の二人がわたくしたちの前に現れたでしょう。三月の初め、その時は財閥関係者という名目で参加したけれど」

「……この前の梔子(くちなし)家当主夫人の、誕生会の時ですね」

「ええ。誕生会の時はこの写真の服とは別のものを着ていたけど、顔つきからして、この二人も参加していた。そして、あの幼いプリティガールもいたの」

「プリティガール?」


 アイボリーが放った謎の単語。彼女は時折特定の人物を「クールボーイ」とか「ビューティフルガール」といった言葉で呼ぶことがある。

 女はさらにタブレットの別の写真を選択すると、それを拡大させた。

 薄茶色のショートヘアの少女。少女用の礼服に身を包んでいるが、顔がどこかあの女子高生に見える。


「ベージュ、この子、小さなプリティガールに会ったはずよ。貴方が営業した女子高生よ」

「本当だ……。なんで、東京のサラリーマンや探偵と一緒にいるんでしょうか。まさか、この女の子も女の探偵が……?」


 アイボリーの指摘にベージュは目を丸くさせ、画面にくぎ付けになっている。

 あまり驚きの表情を見せない相棒が見せる意外な態度に、アイボリーは少々戸惑ったが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。


「普通考えたらそうなるわね」

「まさか、僕らの機密事項を暴こうとしているのか」

「さあ? そこまでは教えてくれなかったけど」


 両手を上げて何事でもないとでも言わんばかりの顔をするアイボリー。

 パーチメントとミルクは隠密を専門とする諜報部員であり、実働部隊。表向き営業や勧誘を行うベージュやアイボリーとは異なっており、こちらには回ってこない情報もある。

 しかし、このアイボリーという女も秘密主義者なのだ。ベージュはたまにパートナーのこの女の考えていることがわからなくなる。


「……ボスに報告はされたんですか?」

「ええ。だけど……ボスは、今は泳がせておけとの指示があったわ」


 涼しげな返事をするアイボリーに対し、グレーは怪訝な顔をする。


「こちらからは手を出すなと……。主上の考えなさることはよくわからない」

「きっと何か考えがあるのよ。あの人のことだから」


 やはり何かを知っているかのように、涼し気な表情をするアイボリー。


「アイボリー、何か口止めされていることはありませんか?」


 直球に聞いてみる。


「そう見えるかしら? だけど、わたくしが知っているのはこれだけよ」

「あなた自身、ボスのお気に入りじゃないですか」

「へえ、そんなこと知ってるんだ」


 アイボリーの表情は相変わらず涼しいままだ。


「まあ、時が来たら教えてあげる。でも、あの三人がわたくしたちの組織にとって、重要な役割を持っていることはあらかじめ伝えておくわね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ