第76話 目立つ服装の男
夏のある日、常盤市にある日本最大の湖の岸辺にある公園、水鳥公園。四季折々の水鳥が季節によって北から南から飛来するため、バードウォッチングや市民の憩いの場として整備されている。
そして、猛暑が予想されたこの夏、まだ涼しい朝方はランニングや犬の散歩で公園を訪れる人もいた。今日も平和な一日が始まる……はずだった。
上下ともに運動着姿の中年男性が公園の池周りをジョギングしていた。男性は吹き出る汗を首に巻いたタオルで拭きながら、まだ霧が立ち込める公園内を走っていた。
公園内を走ること数分、桟橋に差し掛かる。
男性は休憩がてら走るのをやめ、歩きながら桟橋を渡り始めた。
小鳥のさえずりが響く中、男性は違和感を覚えた。
池の方でカラスが数羽群がっている。この公園にカラスが飛来することはないが、なぜこんなところに……。
カラスが群がる先に何か見える――人の姿に見えるが……。
その瞬間、男性は悲鳴を上げた。
驚いて、桟橋に尻もちをついてしまう。
彼が見たもの。それは、生きていた人間のなれの果ての姿であった。
その白骨化した遺体は衣服を身に付けておらず、骨のところどころにひび割れがみられた。
水鳥公園はすぐに封鎖され、パトカーが数台駆け付けた。そして、すぐさま警察の捜査が始まった。捜査は常盤署の捜査一課、姉川班が担当していた。
姉川班の班長、姉川警部が遺体を見つけた男性から事情を聞いていた。
「あんたが目撃者かね。ランニングをしていたら、あの遺体を見つけたと」
「はい……もう骨だけになっていまして……」
男性から事情を聞いていると、部下の刑事が走ってきた。刑事は手袋の上にガーゼを敷き、泥が混じった弾丸を乗せていた。
「姉川警部、殺害に使われたと思われる拳銃の弾丸が見つかりました。池の底に落ちていました」
「わかった。鑑識に……」
姉川警部の目が留まった。その弾丸は……まさか……。
警部は手袋をはめると、刑事に断った。
「すまんが、この弾丸を見せてくれないか」
「あ、はい」
姉川警部は弾丸をよく観察する。汚れを軽くこすって拭き取ると、その刻印されたマークが明らかになった。
――こ、これは……!
姉川警部は開いた口が塞がらず、後ずさりした。
部下の刑事は突如豹変した警部に一瞬驚いたのか、目を瞬かせる。
「あ、姉川警部、どうされましたか?」
「……今から現場にいる刑事や鑑識たちを呼んできてほしい。この案件は、わしらが関わっちゃいけないものだ」
警部の鶴の一声で、現場にいた警官たちが呼び出された。刑事の何人かはその話を聞いて、顔を青ざめていた。
この事件が表沙汰になれば常盤署は、いや県警は、さらには日本という国は破滅する。
しかし、市民に対してこの事件を闇に葬るのは簡単なことではない。
警官たちは早々に捜査を切り上げ、警察署に撤収していった。現場は非常線が張られ、立ち入り禁止となった。
その日の夕方。
別の班の警官たちが現れた。
「これは……」
三十路近くの刑事はその悲惨な光景に息をのんだ。引継ぎを受けたとき、遺体の写真を見ていたが、これは警察……特に姉川班が関わりたくない事件だ、ということが一発で分かった。
――間違いなく、奴らが関わっている
刑事は状況を警察手帳に書き留めていく。自分が協力している探偵と情報を共有するためだ。
しかし、不安げに見つめる若い女性警官がいた。淡い茶色のショートヘア、そして赤い眼鏡の知的な感じのする女性。彼女はこの刑事の部下であり、ともに捜査をすることが多いバディでもある。
「堂宮さん、どうですか? やはり、白装束が……」
「ああ。弾丸に刻印されている紋章が奴らのトレードマークだよ。特注の弾丸で殺されてる。それに、遺体の服も奴らが身に着けている制服だ」
「そんな……。内部で何かあったんでしょうか」
「これだけじゃわからない。でも、最近奴らの動きが活発化していると、足立警部が言っていただろ。とりあえず、一度署に戻って、警部に報告しよう」
刑事は過去に起きたある事件を思い出していた。刑事の上司であった人物の事件――
あの時も犯行現場は似たような状況だったが、犯行の目的がまるで違う。だが、刑事にはそれがデジャブにしか見えなかった。




