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第67話 <光の勇者>

 ここは別館のある部屋。俺と椿、紅葉ちゃんの三人は堂宮刑事と越川刑事と対面していた。

 俺は堂宮刑事にあることをお願いしていた。


「皆さんをここに集めていただけませんか。犯人が誰だか、わかりました」


 その場にいた俺以外の四人の視線が俺に向けられた。

 一瞬ドキッとしてしまうが、すぐに推理モードに戻る。

 堂宮刑事が右手で左手の拳をくるみ、それを顎につけながら俺を見た。


「金谷君、本当なのかい?」


 俺は首を縦に振り、しっかりと答えた。


「はい。ただ、物的な証拠がまだ見つかっていません。シンクやナイフの柄の部分から指紋が出れば、証拠になるかもしれませんが、いくらでも言い逃れができるでしょう」

「何をもって犯人を告発するんだい?」

「証拠を持った犯人を、白日の下にさらさせます。悪魔を討ったとほくそ笑んでいる、<光の勇者>の正体をね」

「……君はまだ、犯人が物的証拠を持っていると」

「はい。桐原さんが殺害されてから時間はさほど経過していませんし、返り血が付いたものはまだ犯人が身に着けていると思います」

「なるほど」


 俺の中には確信に近いものが出来上がっていた。俺の推理が正しければ、みんなの前で犯人を白日の下にさらすことで、犯人の逃げ場を奪いながら告発できると考えていた。

 しかし、難易度がかなり高い。主に精神的なハードルが。初めて俺は警察や容疑者を前に推理を披露することになるのだ。母さんの推理小説ではよくある光景だが、リアルですることになるとは思わなかった。

 そして、これには周りの人々の協力が不可欠だった。特に、犯人から証拠を引きずり出すには――


「椿にも協力してほしいことがある」

「なんなの?」


 椿が首をかしげた。

 俺がその内容を話すと、椿は快く顔を縦に振った。


「任せて。さすがにあなたにはできないからね」

「ははは。頼むよ」


 説明が終わり、みんなを玄関ホールに集めるということで、警察関係者が部屋を出始めた。

 俺はため息をついて、その場にへたり込んだ。推理モードで蓋をしていた疲れがどっと出てくる。


「ああああ……」

「素が出てるよ、リツさん」


 紅葉ちゃんの声がすぐ耳元に聞こえる。

 さらに姉の椿の声もした。やれやれと言わんばかりの発言だが、どこか感心しているようにも聞こえる。


「リツ、推理モードになるとホント人が変わるわよね。必死で元の人格を押さえながら推理してるの、ある意味才能だと思う」

「才能、ね」


 なぜか苦笑いしてしまった。

 しかし、不安が消えたわけじゃない。


「正直、犯人はあの人で間違いないけど、もし間違っていたらと思うとな……」

「何今更弱気になってんのよ。あなたの推理ミスなんて、これまでなかったじゃない」


 俺は首を振った。

 ミスはないかもしれないが、今回の事件で物証が掴めたわけではない。だが、チャンスはこの時しかないのも事実。今ここで犯人を告発しなければ、証拠を隠滅されるリスクが跳ね上がってしまう


「この際言ってしまうけど、イチかバチかの賭けなんだよ。もし推理が間違ってたりしたら、全部終わりだ」

「もう告発すると決めたんだから、元には戻れないよね? じゃあ、進むしかないんじゃない?」


 横目で椿を見ると、椿はにっこりとほほ笑んでいた。


「椿……」

「あなたには才能があるんだから。私はそれを買ってあなたを雇ったの。所長の目を侮ってもらっては困るわ」


 椿の声が優しく響いていた。

 それに呼応するかのように、紅葉ちゃんも口角を上げて話し始めた。


「お姉ちゃんが言うんだから、間違いないよ。わたしが保証する」

「紅葉ちゃん……」


 俺は改めて息を深く吸った。そして、胸に手を当てる。


「ああ。行くしかないよな」


 ついに、すべての謎が明らかになる。

 しかし、“梔子の国に巣食う魔女”を討ち取るという<光の勇者>。犯人が受けた仕打ちはとても過酷で陰鬱なものだったことを、俺たちはまだ知らなかった。


***


 別館、玄関ホール。そこには俺たち【ときわ探偵事務所】のメンバーのほか、常盤署の堂宮刑事と越川刑事と警官数名がいる。そして、テーブルを介して反対側に梔子家の当主、梔子喜之助氏、そして喜之助氏の子供たちである長男梔子隼人、次男梔子清介、長女梔子綾乃の四人が並んで立っている。


「今度は何ですか。犯人が分かったんですか?」


 喜之助氏が一家を代表として口を開いた。子供たちも不満や不安の色を浮かべている。


「はい。事件のことを探偵事務所の金谷さんから説明すると」


 堂宮刑事が答えると、梔子一家四人の視線が俺に向けられた。

 一瞬、空気が凍り付いた気がした。

 口を開いたのは梔子家の次男、清介だった。


「あんた、本当に犯人が分かったんだよな。警察ならわかるが、あんたそもそも一般人だろ? これから何をしようとしてるのか、わかってるんだよな」


 俺は目を閉じていた。

 そういわれると、自信がなくなるのは嘘ではない。しかし、俺としてはここで犯人を白日の下にさらす以外、告発する術はなかった。もし、犯人が間違っていたら、俺は間違いなく終わる。椿も、紅葉ちゃんもだ。

 だが、俺は確信に近い考えも持っている。そして、ここで告発しないと依頼人が浮かばれない。「お客様あっての探偵業」という、椿の言葉がこだましていた。

 決意は固まった。


「はい。犯人は誰か、ここで明らかにしてみましょう」


 あたりがざわめく。

 声を上げたのは当主の喜之助氏。


「探偵さん、この中に犯人がいるというのですか」

「僕はそう考えています。まずは、事件の経緯とその裏での犯人の行動について説明します。あの時何があったか、明らかにしましょう」



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