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第30話 コガネムシは金持ち

 十二月上旬、常磐市某所にあるレストラン。

 二人組のカップルが、夕食を共にしていた。周りは家族連れや恋人、友人通しで楽しげな中、二人の間には険悪なムードが漂っていた。

 黒い髪を短く切りそろえ、男は真剣なまなざしで女を眺める。

 しかし、対面する女は肩にかかる赤茶色の髪の先端をカールにまとめ、耳には高価なピアスを刺していた。爪に赤いマニキュアを塗り、その手でブローチを見せつけつつ、濃い口紅と、つけまつ毛に目が大きく見えるように塗ったアイシャドウでしかめて男を睨みつけていた。首には海外ブランド物のネックレスが妖しく輝いている。


――へえ、アンタ、アタシが本気でアンタのこと気に入ってるって思ってたんだ

――な、なんだよ、急に。付き合おうって言ったのそっちからじゃねえか

――ちょっとお金持ってるから付き合っただけ! アンタ、趣味ダサいしキモいし、性格もちょっと褒めたら、すぐイキるからなんか気持ち悪いんだよね

――……

――言い返せないんだー。貢げないんじゃもうアンタに付き合う義理はないわ。別れましょ?

――ちょっと、いきなり

――こっち来ないでー? キモいー

――貢がせたもの返せよ!

――これはアタシの物なのー。返す義理なんてないわ

――はあ?

――手を上げる気―? 令和の今になって暴力とかモラハラサイコパスなんですけど


 その女は一方的に席を立つと、そそくさと出て行った。

 男はその女の食事代も払わされることになった。

 財布の中から金という金はなくなり、一文無しになってしまった。

 彼はとぼとぼと初冬の夜に出て行った。

 あの女に惚れてしまい、貢がされ続けて、困窮に喘ぐことになった。仕事はあるし、ボロアパートに引っ越したから衣食住自体は問題ない。だが、それ以上に失ったものが多すぎたのだ。


 鞄からあるものを取り出し、スマホに取り付ける。

 さっきの女からキモいから外せと言われて外していた、編み込まれた小さなコガネムシのぬいぐるみが取り付けられているキーホルダー。


――コガネムシって金持ちなんですって


 寒空に紛れて、どこからかそんな声がした。

 このキーホルダーは、高校卒業時に後輩からもらったものだった。将来、金持ちになることを祈って編んでくれたものだという。

 あの時は、幸せだった――


 またあの時に、戻れたら……。


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