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第25話 想いを裏切った人

 俺の正面で対峙する、事件の犯人である松山信成。

 奴は「俺が犯人だというなら、証明して見せろよ」とでも言わんかの如く、俺に敵意剥き出しの視線を向けた。


――事件の全容は、こうだ。


 俺は淡々とこれまで捜査し、まとめ上げた推理の内容を話し始める。ここであいつが、自首することを願って。


***


 事の発端は生野樹里の姉である生野美幸さんが行方不明になったことから始まる。

 松山はかねてから美幸さんと親しい間柄だった。

 何らかの理由で美幸さんが失踪したことを知った松山は、彼女の行方を調べ、古川と室伏が事件にかかわっていることを突き止めたのだ。


「そして、松山。お前は妹の生野樹里にもこのことを話していた」


 当時から、樹里は必死で姉の行方を捜しており、樹里も松山から姉の死のこと、そして姉を亡き者にした人物の情報を教えてもらっていた。これは、樹里の部屋に残されてあった日記の記述から判明した。


――〈あの人〉が教えてくれたのはすでにお姉ちゃんがこの世にいない。


 〈あの人〉とは松山のこと。

 「後始末をする」と樹里に言った時点で、彼は古川と室伏の殺害を心に決めたのだろう。


「そしてお前は二人に接触するために機会をうかがった。ちょうど同窓会が開催されるときに、チャンスはやってきた。室伏が常盤に帰ってきたからだ」

「……」


 何も言わない松山。彼は床に顔を向け、こぶしを握っている。

 一瞬心が動揺しそうになるが、地雷なんか関係ない。今は、真実を暴くだけだ。

 俺はさらに話を続けた。


「同窓会の前のこと。お前は古川と室伏を呼び出した。美幸さんが殺害され、遺棄された大谷城神社に」


 「話したいことがある」とでも話して二人を呼び出し、“人生をやり直せる薬”を飲ませて殺害する計画だった。そのままだと抵抗するから、ペットボトルに入った飲み物に薬を混入させ、飲ませたのだ。


「だが、予定外のアクシデントがあった」


 古川が先に毒入りジュースを飲み、苦しみ出したのだ。

 それを見た室伏はとっさにそのペットボトルを捨てた。


 松山は怪訝な表情で俺を睨みつけた。


「なあ、やけにその『殺害された状況』に詳しいじゃねえか」


 松山は嫌味を込めた舌打ちをすると、盛大にため息をついた。

 そして、嘲笑するように俺を眺める。


「もし俺が古川を()ったんだとしたら、誰かそれを見たのか? 教えてくれよ」


 一歩一歩、奴が近づいてくる。


「なあ、教えろよ」


 なぜか冷や汗が出始める。

 あいつを追い詰める材料はそろっているのに……。


「金谷や。確か、オメエんとこのお袋って推理作家だよな。まさか、こんなところで小説のネタを披露しに来たのか? 聞いて呆れるぜ」


 あくまで俺は冷静を保った。あいつの挑発に乗せられてはいけない。

 目をつぶって一呼吸置くと、自分でも驚くような冷静な言葉を乗せた声が出た。


「目撃者がいたんだよ」

「目撃者?」

「お前を必死で止めようとしていた……生野樹里だよ」

「⁉︎」


 刹那、松山の足が止まった。

 俺はさらに反撃するように追及を続ける。


「同窓会の時に室伏が古川と生野が一緒にいたことを責めていたが、古川殺害時に生野も一緒にいた……いや、実際は、彼女はお前の犯行を止めようとしていたんだ」


 じっと俺はあいつの顔を見る。

 古川は顔を下に向け、そしてギッと睨みつけた。


「……なあ、誰から聞いたんだよ、それ。作り話とか言ったら、ただじゃ……」

「さっきも言ったろ。生野だよ。彼女、大谷城神社まで行ってお前を止めようとしてたんだ」

「……」


 しかし、彼女が神社に駆け付けたとき、古川の殺害はすでに終わっていたのだ。

 松山にとっては、室伏の殺害に失敗し、さらに生野に現場を見られたことになる。そのため、とっさにあることを思いついた。


「お前は、生野と室伏に噓をつかせることにした」

「嘘だと?」


 松山が二人に強要した嘘はこうだ。

 室伏には自分が「生野と古川が大谷城神社で会っていたことを教えた」と言わせ、生野には自分に容疑が掛からないように「古川と会って、挨拶してすぐに帰った」と発言させる。

 その時、椿は何かわかったのか、左手で右手の平を軽くたたいた。


「そうか、嘘をつかせることで自分から疑いの目をそらせられるわね」

「そう。あの現場にいたのは四人だけ。古川は死んだし、現場の主導権を握っているのは毒物を持っている松山だけ。だから、こいつは自分に有利なように事を進められるんだよ」


 この嘘をつけば、真っ先に疑われるのは生野だ。疑いが彼女に向けられ、自分は疑われずにスムーズに犯行を遂行できるわけだ。

 だが、室伏は自分も殺されることを知って警戒している。だから、反抗できないように逆に脅迫もした。


――お前も古川のようになる


 こうなれば室伏も大人しく自分に従う。


「そして室伏も山小屋に呼び出して殺害を図った。幸運なことに、ここにも生野が犯行を止めに現れた。たぶん、お前にとっては邪魔な存在だろうけど、罪を押し付けるにはうってつけだったろうな」

「樹里の想いを逆手に利用して、罪をなすり付けようとしたのね」


 椿の発言に俺は「ああ」と首を縦に振る。

 室伏殺害時、生野は必死で彼を止めるため先回りをしていた。

 彼女に見つかり、鬱陶しかったのか松山は生野と口論になってしまった。


 口論の末、松山は彼女を気絶させ、山小屋に閉じ込めた。

 翌日、室伏を同じ山小屋に呼び出して殺害。

 殺害の遂行を完了した松山は自ら命を絶つことで、すべての犯行を生野にかぶせた。

 生野が負っていた傷は、室伏殺害時についた傷ということにすれば、やはり疑われるのは生野だ。そして、自分はあの世に勝ち逃げする――こういう考えだったのだろう。

 そして俺は前に立つ犯人に告げる。


「お前は美幸さんの仇をとるために二人を殺害したんだろうけど、必死で犯行を止めようとした及川と生野を裏切っただけでなく、更に生野を犯人に仕立て上げようとしたんだよ! 松山!」



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