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第20話 協力をお願いしたい

 及川が走り去った後、俺と椿は山小屋の中に入ると、三つ編みの若い女性が壁にもたれかかるように倒れていた。

 それが誰か、俺たちにはすぐにわかった。

 

「樹里!」

 

 椿はすぐさま駆け寄った。

 

「大丈夫? しっかりして!」

「……椿……?」


 弱々しい声ながら、彼女はゆっくりと目を開ける。


「椿よ。助けに来たから、もう大丈夫」

「……ありがと……」

 

 昨日から行方が分からなくなっていた、俺たちの旧友である生野樹里だった。

 彼女は体中を怪我しており、ところどころ出血した痕がみられた。既に血は止まり、黒いかさぶたができている。

 そして、顔や服に砂や木の葉が服についている。服装は失踪した時のまま。昨日からこの山小屋に放置されていたのだ。

 しかし意識ははっきりしており、問題なく話せるようで俺はひとまず胸をなでおろした。

 

 しかし、誰が彼女をこんな目に遭わせたんだ? 一人こんな暗い山小屋に置き去りにしやがって……。

 

「樹里、話せる? 出来たら、どうしてこうなったか話してくれない?」

「……」


 生野はうつろな目をしている。

 まだ話せる内容がまとまっていないようで、混乱しているのだろうか。


 時期に、及川が呼んだ救急車が来るだろう。


 その後、現場には警察官と消防隊が到着し、生野は病院に緊急搬送された。

 椿は親友の生野の身を案じていたが、生野の危機が去ったことが伝えられると胸をなでおろして安堵していた。


***


 俺と椿は常盤署を訪れ、警察から事情聴取を受けることになった。

 取調室の前に立っていたのは堂宮刑事だ。この事件も担当することになったようだ。

 やはり、警官を前にすると俺のメンタルでは緊張する。

 なんとか言葉が出た。


「……お願いします」

「あ、また君たちか。勝手なことはするな……とも言えない状況だね」

「……」


 出来る限り協力することを伝えたいが、椿や及川など、一部の人以外にはコミュ障で、そもそも性格が気弱な俺にそんなことをいう度胸はない。

 しかし、所長である椿は前に出て頭を下げた。


「どれだけ力になれるかわかりませんが、情報は提供いたします。よろしくお願いします」

「ああ。こちらからも協力をお願いしたい」


 改めて、なぜ俺たちがあの山小屋にいたのか。生野や松山とはどんな関係だったのかも説明を求められた。

 椿は冷静に状況を説明する。

 もともとは生野に姉を捜索していたのだが、彼女の遺体が発見されてからは妹の行方も分からなくなっていた。

 生野の行方を捜すため、俺たちは情報を集めて山に入った。生野は誰かと言い争いながら山を登っていったらしいことも話した。


「それで、君たちはあの山小屋にいたんだね」

「はい。私たちが来た時には……室伏くんは亡くなってました。生野さんも状態で……」

「現場には、その二人以外にはいなかったのかい?」

「はい……」

「部屋の中はどんな状況でしたか?」

「現場は……」


 思わず椿は目を閉じ、口に手を当ててむせた。

 椿が事情聴取に応じていたが、やはり彼女にはあの光景は重すぎたらしい。途中で言葉を詰まらせている。

 当然、俺もあんなむごたらしい姿を見せられたら気分が悪くなるし、思い出したくもない。普通の人はそうだろう。

 俺は椿の肩をさすった。


「大丈夫か? 変わろうか?」

「……あなた、説明できる?」


 逆に不安そうな顔をする椿。

 正直俺は緊張している。

 だが、俺の気持ちは正反対である。


「……こんなときはやるしかない」

「……」


 こんな時こそ俺も立たないといけない。そう感じた。

 俺たちの様子を見て察したのか、堂宮刑事は、


「神原さん、無理しなくてもいいよ。時間はたくさんあるし、後日でもいいから」


 意を決し、俺は立ち上がった。


「……いや、俺が……、俺が説明を続けます」

「わかった。頼む」


 山小屋や室伏の遺体が発見された現場は椿の指示を受け、警察が来るまでの時間を使ってチェックしていた。

 周りには争った形跡は見受けられないが、生野がもたれかかっていた柱の後ろには少ないながらも血痕が見つかった。

 たどたどしい口ぶりで一通り状況を説明すると、俺は席に座った。


「そうか……。じゃあ、今度は君たちと室伏君、そして生野さんとの関係について教えてくれないかな」

「二人とも……俺たちの高校時代の同級生でした。ただ、室伏は素行がよくありませんでした。この前、遺体で見つかった古川もこの二人と関係があました」

「それは本当かい?」


 堂宮刑事の顔色が変わる。

 彼は古川の事件も担当していたのだ。

 俺は一瞬刑事の声色にビビるが、話を続けた。


「はい……この前も俺と神原さんが生野さんのお姉さんを捜索していた時も絡まれて……。俺、あいつらから因縁付けられてましたから」

「……」


 堂宮刑事は一瞬考え込むように腕を組んだ。

 そして、何かを思いついたのか、


「古川くんの検死の結果、彼は何らかの毒物を飲まされて命を落としたみたいなんだ。死亡推定時刻は四日前の朝十時ごろ。君たちは何をしていたんだい?」

「その時は生野さんのお姉さんを捜索していました」

「証人は?」


――私です


 これまで気を休めていた椿が口を開いた。


「私たち、市内の駅前で聞き込みをしていました」

「神原さん、それは本当だね?」


 椿は一言頷いた。

 俺は一瞬むっと来た。何もしていないのに、なぜ俺たちが疑われないといけないのか。

 第一発見者である俺たちにも容疑がかかるのは仕方ないのかもしれない。同時に俺たちは、殺害された古川らの関係者でもある。


 しかし、堂宮刑事は俺たちを疑っているわけではないようだった。

 彼の口調が穏やかになる。


「ありがとう。君たちを犯人扱いしてるわけじゃないよ。念のため聞きたかっただけだ。申し訳ないけど、あとで指紋の採取もお願いしていいかな」

「わかりました」


 椿が応答すると、俺たちは堂宮刑事から指紋採取や今後の予定についてなどの説明を受けた。

 しばらくして、指紋採取の準備ができたので、取調室を出ようとすると、何者かがドタドタと走ってくる音が部屋に響いた。


――堂宮刑事! 鑑定結果が出ました


 取調室のドアが開き、その先には二十代くらいの若い警官が立っていた。


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