67 夢見た未来の創り方
あのパーティーの夜に悪行はばらされたクラウスは、教師陣による取り調べで錬金術学科への妨害行為を認め、停学となった。
そして、その行動が実家に知られた彼は……なんと、侯爵家の意向で私より先に退学となったのだ。
事業によって成り上がった侯爵家にとって、今まで築き上げてきた信用や人脈を失うのは何よりの痛手。
クラウスに侯爵家を任せられないと判断した侯爵は、彼を退学させ更には廃嫡とした。
噂では、コリンナも同じく実家の意向により退学となったそうだ。
醜聞が広まる前にどこかへ嫁がせようと、今彼女の実家が必死に縁談を進めているのだとか。
……憐みはしなかった。すべて、彼らが選択した結果なのだから。
そして、クラウスが廃嫡になったのと同時に私と彼もめでたく婚約解消と相成った。
侯爵家はクラウスの弟と私の再婚約を進めようとしていたけれど、私が独断で侯爵家に手紙を書いて断った。
当然、その事実を知った私の実家は大激怒。
学園まで乗り込んできた母は、駆け付けた教師が止めるのも聞かずに私の頬を打ち、大声で詰ったものだ。
「この恥知らず! 今まで何のためにあなたを育ててきたと思ってるの!? さぁ、こんな学園は辞めてさっさと侯爵様に謝りに行くわよ!!」
「嫌よ。私は錬金術師になるの」
母の手を振り払うと、彼女は呆然とした表情で私を凝視し……猛烈に怒り狂った。
「よくもそんなことを……! 誰に逆らってると思ってるの!」
「何といわれようが、私は私の好きなように生きるって決めたの。気に入らないのなら、勘当してもらっても構わないわ」
売り言葉に買い言葉。
だが、頭に血が上った母は簡単に私の挑発に乗ってしまった。
「いいわ! あなたみたいな親不孝者、お望み通り勘当してやるわ!!」
この学園に入る前の私だったら、私は泣いて謝っただろう。
当然母も、私が泣いて縋って来ると思っていたはずだ。
でも残念、もう昔の私じゃない。
私に対する暴行、および勘当宣言。
証人多数で、見事に私は親の監督下から外れることができたのだ。
「はぁ、これでいよいよ退路が立たれたって感じね」
母の襲撃から少したって、王家によって正式に私と伯爵家の絶縁は認められた。
いよいよ帰る場所はなくなってしまったのだ。
そう選択したことに後悔はないけれど、やっぱり不安がないと言えば嘘になる。
「でもよかったじゃん。来季からは特待生として奨学金が出るんだって?」
私の用意したサンドイッチをかすめ取りながら、アレスがそう問いかけてくる。
「えぇ、王太子殿下が何とか間に合わせてくださったの。当然成績が落ちたら特待生の枠から外れるから、何としてでも好成績を維持しないといけないんだけど」
ありがたいことに、王太子殿下は錬金術師育成のための特待生制度を創設してくださった。
私は栄えある特待生第一号に選ばれ、奨学金のおかげで来年もこの学園に通い続けることができそうだ。
「問題は進級前の長期休暇ね。なんとか学園に相談して、雑用係として雇ってもらえれば――」
「え、俺のとこに来なよ」
「……無理に決まってるじゃない。今の私は平民なのよ? とても皇族の賓客としては――」
「いやいや、大丈夫だって。そんなに気になるならフローラの友達ってことで行けばいいし。えっと、この時間フローラはどこに……」
「ちょっと待ちなさい!」
相変わらず話を聞かずに立ち上がったアレスを、私は慌てて追いかけた。
彼が皇族だってわかってからも、私たちの関係はあまり変わらない。……良くも悪くも。
彼はたった一人で迷子のように立ちすくんでいた私の前に現れ、手を引いてくれた。
自由奔放な、変わった人。彼はいつも輝いていて、私にとっては眩しすぎるくらいだ。
……もう少し、自信がついたら。立派な錬金術師になれたら。
そうしたら……私も、堂々と彼の隣に立つことができるかもしれない。
この関係を、一歩進める勇気が出るかもしれない。
そんないつかの未来を思い描きながら、私は知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
これにて1章完結、しばらく準備期間をおいて2章へと続く予定です。
俺たちのラブコメはこれからだ!…ということで、クラウスという邪魔者がいなくなった二人がどうなっていくのか楽しみにお待ちください!
2月28日には本作のコミカライズ1巻も発売予定です!
パルシィ、pixivコミック、各通販サイト等では表紙も公開されてます。
「え、これで付き合ってないの…?」という感じのたまらん表紙なのでぜひぜひチェックしてみてください!
新作も始めました!
「偽聖女だと生贄にされたら、魔王様に求婚されました~契約花嫁は精霊たちとスローライフを謳歌する~」
( https://ncode.syosetu.com/n6803hl/ )
タイトル通りに、生贄として魔王の元に贈られたと思ったら、なぜか求婚されちゃった聖女のお話です。
いつも通りコメが強めのラブコメなので、お時間のある時にでも見に来ていただけると嬉しいです!