51 新たな出会い
ランタンで辺りを照らしながら、私たちは山道を進んだ。
しばらく夜咲花を探して山道を歩いたけど、なかなか見つからない。
このまま夜が明けたらせっかくの準備が台無しだ。
そう焦り始めた時――。
「確か青く光る花だって参考書には書いてあったけど……あっ、見て!」
木々の向こうに、ちらちらと青い光が見える。
足元に気を付けながら近付くと、そこには花びらが淡く光る、不思議な花が咲いていた。
「これが、夜咲花……?」
「綺麗な花じゃん。なんか薬に使うのがもったいない感じ」
「それは仕方ないわ。ほら、採取していきましょ」
スコップで根元から掘り起こして、持ってきた鉢に入れる。
鉢の中でも淡い光を放つその花は、なんとも幻想的だった。
「それじゃあ、テントに戻りましょ」
「今度は転ばないようにね」
「こ、転んでないわ!」
またもや自然に手を繋がれ、思わず声がひっくり返りそうになってしまった。
……つないだ手が普段より熱を持っていることに、アレスが気づいているのかどうかはわからないけど。
◇◇◇
無事に夜咲花の採取を終えた、ある日の放課後。
私は図書館で一人自習に取り組んでいた。
ふと錬金術の参考書を棚に戻す途中、ある本が目に入る。
それは、アレスの出身国であるリヒテンフェルス帝国の地理や特徴を扱った本だった。
「…………」
ちらりと周囲に視線を走らせ、誰もこちらを見ていないことを確認して素早く本を手に取る。
……別に、卒業後は帝国に行くと決めたわけじゃない。
ただ、あくまで選択肢の一つとして……諸外国のことを知っておくのも、悪くないと思っただけだ。
心の中でそう言い訳し、私はいくつかの参考書と共に、その本を借りて鞄に仕舞いこんだ。
そんなわけで図書館から寮へ帰る道すがら。
通りがかった中庭では様々な学科の生徒が、魔法の実践練習をしていた。
うっかり誰かが放った魔法に当たっては大変だと、意識して隅の方を歩いていたけど……不意に誰かの慌てたような声が耳に入る。
「いけないっ、気を付けて……あぁっ!」
なんだなんだと振り返る前に、足元に何かがぶつかって来て思わずふらついてしまう。
「えっ、なに……ペンギン?」
見れば、なぜか一匹のペンギンが、ちょこんと私を見上げている。
うっすら青い光を纏うペンギンは、誰かが魔法で呼び寄せたのだろうけど……。
なんて、のんきに首をかしげていたのが悪かった。
ペンギンが口を開いたかと思うと、ピューと水を吐いたのだ。
「わぶっ!?」
「きゃあ、ごめんなさい! 大丈夫!?」
慌てたように近づいてきた女生徒が杖を一振りすると、ペンギンは煙のように掻き消えた。
どうやら、召喚獣だったようだ。
「本当にごめんなさい、お怪我はないかしら」
「えぇ、大丈夫……です」
近付いてきた女生徒は、心配そうに平謝りしてくれた。
間近で彼女の姿を見た途端、私は驚いてしまう。
わぁ、すごい美人……!
緩くウェーブを描く黄金の髪や艶やかで、心配そうにこちらを見つめる顔立ちはまるで彫像のように整っている。
宝石を思わせるような新緑の瞳は驚くほど澄んでいて、見る者を魅了するような不思議な力を秘めているようだった。
「まぁ、お召し物を濡らしてしまったのね……。本当にごめんなさい……」
彼女が慌てて取り出したハンカチには細やかなレースの装飾があしらわれていて、一目で高級品だということが見て取れた。
度重なる野外実習で傷んだ私の制服を拭わせるのが、戸惑われるくらいだ。
「いえ、大丈夫です。寮に帰ったらすぐに着替えるので」
「でも、お風邪を召されたら大変よ。……そうだわ、すぐ近くに私の学科が使用する控室があるの。着替えも置いてあるから、そちらへおいでくださいな」
過剰に私の心配をするその女生徒は、潤んだ瞳でそう訴えてきた。
うぅ、そこまで言われると拒否するのも気が引ける……。
別に急ぎの用事もなかったので、私は彼女の厚意に甘えることにした。