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47 気づき始めた想い

 

 波乱の学園祭を終え、錬金術学科はいつになく活気づいていた。


 なにしろ、万年最下位争いをしていた我々が学園祭で最優秀賞を獲ることが出来たのだ。

 今も皆和気あいあいと調合に励んでいる。


 アメジストのストーンウォーターを精製しながらのんびり教室の様子を眺めていると、別の作業を担当していたアレスが声をかけてくる。


「リラ―、こっちの作業終わったよ」

「ありがとう、じゃあ次は青藍草の葉をすり潰してもらえる?」

「了解」


 私の隣の席に腰掛けたアレスが、乳鉢と乳棒を使いごりごりと乾燥した葉をすり潰していく。

 その小気味よい音を聞いていると、不意にアレスが声をかけてきた。


「そうえいばさぁ、あの夜咲花の課題、いつ行く?」

「そうね……今は雨雲が近づいてるみたいだから様子を見て、可能であれば今週末にでも――」


 次の授業の課題は、真夜中にしか咲かないという珍しい花――「夜咲花」を用いたポーションの精製だ。

 この辺りで夜咲花が咲いているのは、学園の近くにある山の頂上付近だと聞いている。

 うっかり悪天候の日に突撃すれば、うっかり遭難……なんて可能性もある。

 事前の準備だけでなく、天候の様子を見たり、日程調整も大事なのだ。


「錬金術師たるもの、常に万事を考えて素材収集に臨めということね」

「へぇ、めんどくさいね」

「……あなたはいかにも軽装で山に登って遭難しそうな性格ね」


 だからこそ、私がしっかり見張っていてやらなければ。

 そんな責任感を覚えながら、私はポコポコと沸騰し始めたフラスコに注意を戻した。


 ……いつの間にか、確認をしなくてもこうして二人で行動することが当たり前になっている。

 卒業までの期間限定だとはわかっているけど、私はどこかこそばゆいような感覚に浸っていた。



 ◇◇◇



 私の想定通り、その日は朝から雲一つない快晴だった。

 私の日ごろの行いがいいから……なんて思うのは慢心しすぎですね、はい。


 とりあえず今日の予定は、昼過ぎから山に登り、山頂付近でキャンプを張る。

 仮眠をとって、夜中から本格的な探索を開始。無事に夜咲花を見つけることでミッション達成!

 朝日が昇ってから、安全に下山……という感じだ。


 約束の時間の少し前に待ち合わせ場所まで行くと、意外なことにアレスは既にそこにいた。


「あっ、リラ! やっほー」


 何が「やっほー」よ……と呆れながらも、ついくすりと笑ってしまう。

 アレスはきちんと学園からの貸与品であるキャンプ道具一式を持っていた。

 さすがに全部を持たせるのは重労働だから……と私もいくつか持つことを申し出たが、何故か頑なに固辞されてしまった。


「別にいいって、いつもリラには迷惑かけてるし、このくらいは俺がやるって」

「別に、迷惑だなんて……」


 そんなこと、思えるわけがない。

 最初は厄介な問題児を押し付けられたとしか思えなかったけど……今は、私の方がアレスに頼ってる。

 はっきりと、そう気づいてしまったのだ。


「……まぁいいわ。ぼやぼやしてたら日が暮れちゃう。早く行きましょ」


 こみ上げてくる感傷を振り払うように、私は慌ててそっぽを向いて歩き出した。



「リラ、歩くの早いって~」


 背後から追いかけてくるアレスの声が耳に入るたびに、自然と口元が緩んでしまう。

 なんとか表情を引き締めながら、私は少し歩調を落として歩みを進めた。


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