41 事件発生
たどり着いたショー会場は、やはり多くの人で溢れていた。
召喚術学科の生徒が優雅に杖を振ると、虚空から光り輝く鳥が現れ、集まった人たちは歓声をあげる。
うーん……確かに綺麗だし、見世物としての効果は抜群だろう。
私も才能があれば召喚術学科に進む道もあったのだけど……残念ながら、才には恵まれなかったのだ。
「いいわね……召喚術が使える人は」
「え、リラ召喚術に興味あるの? 今度教えたげよっか?」
「興味あるというか……え? あなた、召喚術が使えるの?」
驚いて振り返ると、アレスはにやりと笑う。
「まぁ見てなって。……ほら」
看板を持つ手とは逆の手で杖を引き抜き、アレスは軽く振って見せた。
その途端、杖先からキラキラと銀色に輝く蝶が現れ、私は驚いてしまう。
「ほ、ほんとに使えてる……」
「昔、ちょっと習ってたことがあってさぁ」
アレスは何でもないことのようにそう言ったけど、私は驚いて声も出ないほどだった。
召喚術ってすごく難しくて、アレスのように実際に召喚獣を呼び出せるのは一握りだって話なのに……本当にこの人、なんで錬金術学科に進んだの!?
世の中って不公平だ……と項垂れていると、すぐ近くから弾んだ声が耳に届いた。
「わぁ、すごーい! あなたも召喚術学科の方なんですか?」
「ううん、錬金術学科。校舎の中で展示やってるから後で来てよ。特別に案内するからさ」
「きゃー!」
若い女性客に声をかけられたアレスは、瞬く間にそう言って女性客を誘導していた。
……この手慣れた感じ、こうやって女性から声をかけられるのも慣れたものなのだろう。
はぁ……なーにが「俺好きな子には一途だし」よ!
どうせさっきのも、適当に口から出まかせを言ったに違いない。
「リラ~、さっきの子たち錬金術学科に来てくれるって! ……あれ、機嫌悪そうだけどなんかあった?」
「……別に、なんでもないわ」
アレスは錬金術学科の宣伝部隊として、役目を果たしただけだ。
私だってお客さんが来てくれることを喜ぶべきなのに、何故だか胸がむかむかするような気がした。
……私が苛立つのなんて、おかしいのに。
「リラ?」
黙り込んだ私に、アレスが不思議そうに顔を覗き込んでくる。
何か、言わなきゃ。
自分を急かすようにして顔を上げた私の目に映ったのは、まさに今始まらんとする召喚術学科のショーだった。
「見て、始まるわ」
「あ、ほんとだ」
うまくアレスの気を逸らすことができたようで、安堵のため息をつく。
とりあえず召喚術学科のショーでも見て心を落ち着けようとステージに目をやると、ちょうど一人の生徒が進み出てくるところだった。
「それでは今から、世にも珍しい召喚獣……『フェニックス』を召喚します!」
ステージの上の生徒が高らかにそう宣言し、集まっていた客が歓声を上げる。
「フェニックス? ……まじかよ」
「何か問題でもあるの?」
「いや……宮廷仕えの高位の召喚術師でも難しいって聞いたことあるから。こんな見世物みたいにやって大丈夫なのかよ」
アレスは珍しく、真面目な顔つきでステージを見据えている。
いつも調合時に適当にぽいぽい素材を入れてしまう彼がそんなことを言うなんて、私はまたもや驚いてしまった。
どうやら彼にも、危機意識のようなものは搭載されているようだ。
「さすがに……そのあたりは大丈夫だと思うけど……」
なんだか私まで不安になってしまって、はらはらしながらステージの上の動きを追った。
観客に一礼した生徒が、呪文を唱え杖を振るう。
すると虚空を裂くようにして、炎を纏う真紅の鳥が現れた。
その姿は息をのむほど美しく、私も思わず魅入ってしまうほどだった。
「すごいわ……」
「……いや、様子が変だ」
「え?」
フェニックスはぐるぐると召喚者の頭上を旋回している。
時折鳴き声を上げているけど……その声は、どこか怒っているようにも聞こえた。
「それでは、フェニックスによるショーの始まりです! ……おい、言うことを聞け!!」
ステージ上には止まり木や輪っかなどが用意されている。
おそらく召喚者はフェニックスに芸でもさせるつもりなのだろうけど、何やら様子がおかしい。
フェニックスは召喚者に向けて、威嚇するような鳴き声を上げている。
「まずいな……」
アレスがそう呟いたのと同時に、言うことを利かせようとしたのか、ステージ上の生徒がフェニックスに向かって杖を向け、魔法で作られた蜘蛛の糸のような物を放った。
それが、引き金になってしまった。
蜘蛛の糸に絡まれたフェニックスは誰が聞いても激怒しているとわかるような雄たけびを上げ、自らを召喚した生徒に襲い掛かったのだ。