23 魔石の採掘
「ここをこうして……いや、重くしすぎると浮遊できなくなっちゃうし……」
自由課題が出されたからと言って、普段の授業やテストがなくなるわけじゃない。
私は今まで通りに予習復習をこなしながら、余った時間で魔鉱石ランタンの設計に取り掛かっていた。
しかしこれが中々に大変だ。
自由課題に気を取られすぎて、普段の勉強をおろそかにしてしまったら本末転倒だし……。
自作の精神集中薬を飲みつつ、私は深夜まで魔鉱石ランタンの設計に頭をひねっていた。
このランタンの特徴は光源が炎ではなく魔石であること、それにランタン自体が浮遊することだ。
こうやって深夜に一人で机に向かう時などに重宝する……予定なのである。
しかしこの設計がなかなか難しい。
重量が重すぎれば浮遊石の力は発揮できないし、かといって光源である魔石を減らせばランタンとしての機能性を欠いてしまう。
何度も何度も計算式を書き直して、全体の形を修正して……気が付けば、外から薄明かりが差し込み、鳥の鳴き声が聞こえてくる時刻になっていた。
……はぁ、うっかり徹夜してしまうなんて。
今日はアレスと一緒に魔石鉱窟へ出かける日だ。
今から仮眠を取ったらうっかり寝過ごしてしまいそうだし……仕方ない。
私は睡眠をとるのを諦め、再び魔鉱石ランタンの設計に没頭することにした。
◇◇◇
「リラ、顔色悪いけど大丈夫? 俺が採掘するから休んでなよ」
「……そうはいかないわ。これも錬金術師として大切なことだもの」
約束通り、私はアレスと共に学園の裏山に位置する岩場へとやって来た。
やってきているのは私たちだけではなく、他の生徒もちらほら見ることができる。
より「就職」を強く意識している上級生は何が何でもコンテストで上位の成績を修めようと、作業にも熱が入っているようだった。
あちこちからトンカントンカンと岩を削る音が聞こえてきて、寝不足の頭にずきずきと響く。
うぅ、頭がガンガンしてきた……。
でも、そんな泣き言は言ってられない。
ふらつく体でハンマーを持ち上げると、すぐにアレスにひったくられた。
「あ……」
「いいからそこで休んでろって。不調な時に怪我でもしたら、馬鹿みたいだろ」
反論したかったけど、彼の言うことは正論だ。
私は近くの木陰に腰を下ろし、珍しくアレスが真面目に採掘に挑む姿を眺めていた。
視線の先の彼は、いつになく真剣な表情でハンマーを振るっていた。
絵本の中の王子様のような彼にそんな作業は似合わないかと思っていたが……意外と様になっている。
イケメンは何をしても絵になるなんて……やっぱり世の中は不公平だ。
……そんなことを考えていると、また余計な乱入者が。
「ふん、貴族のお嬢様はフォークやナイフより重い物は持てないって? そりゃあそうだよな、無理はせずにこんな仕事は下々に任せておけばいいんだ」
うんざりして顔を上げると、近くの大木に手をつくようにして、思った通りにハンスが私を見下ろしていた。
その顔に浮かぶのは嘲笑。
反論しようとしたけれど、立ち上がろうとしたところで眩暈に襲われ、再び座り込んでしまう。
そんな私をどう思ったのか、ハンスはなおも吐き捨てた。
「なんのつもりか知らないが、さっさと転科したらどうだ? 君のような者がいるだけで目障――」
言葉の途中で、ヒュン、と空気を切る音が聞こえた。
かと思うと――。
「うぉっ!」
――ドシュ! と鈍い音が響くのと同時に、ハンスが驚いたように飛び退いた。
見れば、先ほどまでハンスが手をついていた木の幹に、先の尖ったハンマーが突き刺さっている。
「悪い悪い、手が滑ったわ」
「おいっ……一歩間違えれば傷害事件だぞ!?」
「お前がサボってんのが悪いんだろ。さっきからベラベラうっせぇんだよ」
あからさまに不機嫌そうな表情で、アレスがハンスに詰め寄る。
「くそっ……横暴貴族め!」
さすがに分が悪いと感じたのか、ハンスは捨て台詞を吐いて去っていった。
アレスは私と目線を合わせるようにしゃがみ込むと、さっきまでの苛立った雰囲気が嘘のように優しい声を出す。
「大丈夫? 気分悪い?」
「……平気よ。それより、ハンマーを人に向けて投げてはいけないわ。もし当たっていたら、それこそ事件に――」
「大丈夫だって、ちゃんと当たらないように投げたし」
やはり、わざとだったようだ。
私は膝に顔をうずめるようにして、大きく息を吐いた。
……駄目だ。体調が悪いのもあいまって、少し精神的に弱っているのかもしれない。
「先生に気分良くなるポーション貰ってくるから待ってて」
……アレスの気遣いを、こんなに嬉しく感じてしまうなんて。