21 図書館ではお静かに
ある日の授業後、私はアレスを連れて学園の図書館を訪れていた。
彼と自由課題を共にこなすことになってしまった以上、作戦を練らねば。
「図書館には多くの参考書が揃ってるし、静かだし、いいアイディアを生み出すには最高の環境だわ」
「え~、俺あそこに行くと絶対眠くなるんだけど」
「そんな暇は与えないわ。あなたはもっと真面目に勉学に取り組むべきよ」
図書館にはいくつもの、学生のための自習スペースが備え付けてある。
その中の一つの机に陣取り、私はどんどんと錬金術の参考書を積み上げた。
「えっ、そんなに本積んでどうすんの」
「決まってるじゃない。自由課題で何を作るのかを考えるのよ。もちろん、本にはちゃんと目を通してね」
アレスはなおもぶつぶつ言っていたが、私は構わずに彼を席に着かせた。
「まずは私たちの実力でも調合できそうな物をピックアップするの。でも、ただ参考書にあるものをそのまま調合しただけだと評価は低くなるわね。私たちなりにアレンジを加えないと」
自由な発想力も錬金術師に求められる要素だと、以前に読んだ書物に書いてあった。
その点アレスは自由さだけなら誰にも負けてないけど……どうなんだろう。
「参考になりそうな記述を見つけたら、メモを取るのを忘れないでね。何かいいアイディアが浮かんだら教えて」
そう伝えて、私は山のように積みあがった参考書に手を伸ばした。
錬金術で調合できる物……ポーション、爆薬、最近では、魔法道具なんてものも開発されているとか。
外部の目にも触れることを考えたら、爆薬はやめた方がいいかもしれない。
ポーションも飲んでみなければ実際の効能はわからないし、コンテストという場を考えると魔法道具が安牌かもしれない。
でも、私たちの実力だとそこまで大掛かりな魔法道具は難しいだろうし……。
ぺらぺらとページをめくりながら、参考になりそうな記述をひたすらノートに書き留めていく。
驚いたことに、アレスも真剣にノートに向かってペンを動かしていた。
私は不覚にも感動してしまった。
この問題児も、やっと自由課題の重要さを理解して――。
「ねぇねぇ、リラ。これ見て」
「……?」
そう言って、アレスはノートを持ち上げ私に見せた。
何かいいアイディアでも考え付いたのかと思いきや……そこには、ぷりぷりと怒りを露にした男性の似顔絵が、コミカルなタッチで描かれていたのだ。
「……なによ、これ」
「ブラント先生の怒り顔。あの人キレるとこういう顔するって知ってた?」
……ここは、まったく関係ない落書きをしていたことを怒るべきだ。
そう、怒るべき。笑っちゃダメ、笑っちゃダメ……。
そうわかっているのに――。
「…………ぷっ」
私は耐え切れずに、小さな笑いを漏らしてしまった。
だってアレスの絵は、ブラント先生の特徴をうまく捕らえつつ、なんともユーモラスに描かれていたのだから!
「あっ、笑った! リラもこういうの好きなんだ!」
「べ、別に好きなわけじゃないわ! それより――」
「はぁ、いい加減にしてくれないか」
急に背後から降って来た冷たい声に、私は慌てて振り返る。
果たしてそこには、温室で私たちに苦言を呈してきた生徒――ハンス・ベッガーが不満げな表情を浮かべて立っていたのだ。