19 お昼ご飯はサンドイッチ
「いい? 今度の授業だけは絶っっっ対に余計なことをしないでよ。本当に大事なチャンスなんだから」
「はいはい、わかってるって」
錬金術学科の校舎の近くの温室で、お昼を食べながら私はいつも以上に念入りにアレスに言い聞かせた。
ちなみにアレスが食べているのは購買のパンで、私が食べているのは手作りのサンドイッチである。
この学園では、朝食と夕食は基本的に寮での食事になるからお金はかからないけど、昼食だけは生徒が好きなように食べるシステムになっているのだ。
まぁ、購買や学食ってお金がかかるからね……。私は節約のために、早起きして寮のキッチンで毎日サンドイッチをこしらえている。
実は学食の厨房付近に、痛んで調理には使えない食材が置いてあるのを発見したのだ。
「錬金術の素材に使わせて欲しい」との建前で、食材を貰い受けることに成功した私は、かくして食費の大幅な削減に成功したのである
……もちろん周りは貴族のお嬢様ばかりなので、そんなことをするのは私くらい。
アレスは何も言わないけど、誰かに見つかればまた何か嫌味を言われるかもしれない。
ここが人の少ない場所で良かった……。
……なんてことを考えながらもそもそサンドイッチを食べていると、早々に購買のパンを食べ終えたアレスがちらちら私の方に視線を寄越した。
「それ、どこで買ったの?」
「……私の手作りよ。料理と錬金術にはいくつも相関する要素があるから、学びの一環としてね」
貧乏なのを悟られたくなくてそう誤魔化したのだが、その途端にアレスは目を輝かせてしまった。
「えっ、自分で作れんの? すげーじゃん!」
「べ、別に普通よ……!」
昔から、少しでも母の意にそわない行動を取った時は、容赦なく密室に閉じ込められたり食事を抜かれたりしていた。
だから、こっそり屋敷の厨房に忍び込んで、私を憐れんだ料理人に多少は料理のやり方を教えてもらっていたのだ。
まさか、こんな形で役に立つとは思わなかったけど……。
「リラって、成績もいいし何でもできるじゃん。そういうの、すごいと思う」
「……別に、そんなことないわ」
からかっているのかと思ったが、アレスは存外真剣な顔つきで私の方を見つめていた。
思わず気恥しくなって、私の方から視線を逸らしてしまう。
「ねぇ、俺にもちょーだい?」
「っ……購買のパンの方が、よっぽど美味しいと思うわ」
「食べてみないとわかんないじゃん。それに、俺はリラが作ったのが食べたい」
至近距離でそう囁かれ、私はなんて言っていいのかわからずに俯いた。
毅然と断りたいけど、一応アレスには髪飾りの借りがあるし……。
でも、こんな素人の手作りサンドイッチを食べさせるのも恥ずかしい。
迷っていると、アレスが私の手首を軽くつかんだ。
そのまま私の手元のサンドイッチを「あーん」と口に運ぼうとしているのを見て、私は慌ててしまった。
「ちょ、ちょっと……」
「いいじゃん。一口だけだからさ」
「そんな美味しい物じゃないのよ」
「そんなのどうでもいいって」
「でも――」
そんな風に押し問答を繰り広げている私たちの耳に、不意に第三者の声が割って入った。
「ふん、いいご身分だな!」
声の方を見れば、見覚えのある錬金術学科の同級生が、どこか苛立った様子で私たちを睨んでいた。