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18 自由課題の班を決めます

 髪飾りの礼も兼ねて、私は懇切丁寧にアレスの勉強を見てあげることにした。

 授業後はあの古い工房で、ちょっとした勉強会だ。


「いい? まずは素材の特性を覚えること。素材同士によっても相性があるから、そこも忘れないでね」


 こまごまと注意を促す私の話を聞いているのかいないのか、アレスはどこかボケッとした様子で教科書を眺めている。


「ちょっと、もう少し真剣に取り組んだらどうなの?」

「いやいや、ちゃんとやってるって。今は暗記中」

「またそんなこと言って……あなた前回のテストで赤点だったじゃない。二回連続補習なんて、

 情けないとは思わないの?」

「別にぃ?」


 まったくやる気のない様子のアレスに、私は何とか苛立ちを抑えようと深呼吸した。

 はぁ……錬金術学科を選んだ理由もめちゃくちゃだし、やる気はないし、大丈夫なのかしら……。


「年度末の試験に落ちたら留年よ? 来年は私の方が先輩になっているかもしれないわね」

「うーん、それも微妙かも……」

「ならもっと頑張るべきね。ほら、問題を出すわ!」


 意気込む私とは対照的に、アレスが返したのは気の抜けたような返事だった。



 ◇◇◇



「これより、自由課題の班決めを行う。聞き及んでいるかとは思うが、自由課題はその名の通り、錬金術を用いて自由に調合を行う授業だ。成果物の中で優秀な物は、学内のコンテストに出し多くの者の目に触れることになる。各自、心して望むように」


 そう説明するブラント先生の声を聞きながら、私は気を引き締めた。

 今までは先生の指定した物を調合してばかりだったけど、この自由課題は何を作るのも自由。

 発想や準備や段取り、もちろん調合の腕が問われる、将来錬金術師として活躍していくためには重要な授業だ。

 それに、成果物として提出した物が先生に認められれば、学内のコンテストへ出品されることになる。

 コンテストにエントリーされれば、学内外を問わず多くの人の目に触れることになる。

 もちろん、国内で活躍する錬金術師の目にも……。

 エントリーするだけで名前が売れるし、うまくいけば著名な工房から引き抜きがあるかもしれない!

 まだ入学したばかりの一年生である私たちには遠い話かもしれないけど、もちろん私は全力で臨むつもりだ。

 将来錬金術師として活躍するためにも、今から気は抜けないからね。


 この自由課題は、何人かで班を組んで取り組むことになっている。

 つまり、今回の授業の成功のカギを握るのは、班員の人選だ。

 やっと私とアレスの反省期間も過ぎたので、今回からは普通の班分けに組み込まれるはず。

 どうか、真面目に調合に取り組む人と組めますように……!


「では、班分けについてだが……二人以上の有志で組むように」

「え?」


 今までは先生が班を分けていたのに、今回からは違うの?

 思わず先生を見つめると、彼は何故か気まずそうに目を逸らした。

 え、何で……と思った私は、すぐにその答えを知ることになる。


「リラ―! 俺と組もー!!」

「げ!」


 即座に寄って来たアレスに、私は嫌でも先生の意図を察せずにはいられなかった。

 先生、問題児を私に押し付けるつもりですね!?

 いやいや、困りますよそんなの!

 確かに……アレスは私が調合を行うのに「危険だから座ってろ」とか「貴族のお嬢様がすることじゃない」とか文句は言わない。自由にやらせてくれる。

 それは有難いけど、今回は話が別だ。

 今回挑むのは、私の将来に大きく響く自由課題。いつもみたいにアレスがふざけていれば、せっかくのチャンスが台無しになってしまう。

 それなのに先生、存在自体が爆弾な問題児を……私に押し付けるために班組みを自由にしたんですか!?

 だが、ここで折れるわけにはいかない。

 毅然と、断らなければ!


「あなたとは前も組んだばかりじゃない。知見を深めるために、別の方と組んだらどう?」

「でももう他の奴らは班組んだみたいだけど」

「えっ!?」


 慌てて周囲を見回すと、確かに私たち以外の所は既に班員が決まっているようだった。

 私が慌てて周囲を見回すと、皆気まずそうに視線を逸らす。

 この反応に迅速な行動……アレスと組みたくないから、私が掴まってる間に慌てて班を組んだに違いない!

 はぁ……出遅れた。まさかこんなことになるなんて……。


「……仕方ないわ。今回はあなたと組むけど、絶対にふざけた行動は慎んでちょうだい!」

「わかってるって」

「本当にわかってるの!? だいたいあなたはいつも――」


 がみがみとアレスへの説教に夢中になっていた私は、背中に剣呑な視線が向けられているのに気付かなかった。


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