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兵士とAIの異世界帰還録  作者: 古河新後
1章 仁義と破壊の魔王
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第62話 シャロンとクェン

 シャロンは光の眩しさから一度眼を閉じ、次に開けると人形で晴天の草原に立っていた。


「クェン」


 その場に座る彼女はシャロンに背を向けて草原を眺めている。


「あんた達、普通に考えて頭おかしいわよ」


 相変わらず毒を吐く彼女に駆け寄りそうになったが一歩下がって言葉を返す。


「そうかな?」

「そうよ。相手は『魔王』よ? 逃げるでしょ。普通」

「どんな状況でも皆、目の前の運命と戦ったハズだ。君のように」

「過剰評価し過ぎ。あたしはやりたいこと一杯あったのに、あーあ『未来視の魔王』に会わなきゃ良かった」

「君の日記を見たよ」

「……父上ね。末代まで呪ってやるわ」

「皆、君の死を悲しんでた」

「……そう。悪いことしたわ。でもあたしは自分の選択に後悔はしてない。未練はあるけどね」

「ボクは君に出会えて良かった。君の死を肯定するつもりは無いけれど、改めて人と人の繋がりが解ったんだ」

「馬鹿じゃないの? そんなこと言われるまでも無いことよ。あたし達の一生は短いんだから」

「そうだね。『竜族(ぼくたち)』は長生きだから色々と大雑把なんだ」

「だから一生わからないのよ」


 顔は見えないが嬉しそうなクェンの声にシャロンも笑う。

 すると、風が大きく流れた。


「いい景色だよね」

「何にもないわ。ただ、空が青くて、草が風に揺れてるだけ」

「でも、ボクは好きだよ」

「あっそ。あたしは見飽きたわ」

「でも嫌いじゃないでしょ?」

「……まぁね」


 すると、少しずつ日の光が強くなり景色を覆い始める。


「ボクはもう行くよ」

「そう」

「クェン――」


 シャロンは人形から竜の姿に代わり、彼女を追い抜く様に天を駆ける。


『最後に君の夢を叶えられてよかった』


 念話でそう伝えたシャロンは光の中へと消えていった。


「全く……こんな所にまで言いに来るなんてあんたも大概よ、シャロン」


 クェンが短い余生で草原を訪れていた理由は、国を護ったと伝わる『ドラゴン』を蒼天の草原で一目見るためだった。






『無茶をしたな、友よ』

「最期に話すのが貴方なんてね」

『時の流れは我々が思ってるよりも大きい』

「そうね。実感したわ」

『君の求めていたモノ。対峙してどうだった?』

「意地が悪いわね。あの娘を見逃していたのはその為?」

『彼女の命は多くの意思によって護られてきた。故に世界から嫌われているとは思えなかった』

「この“未来”は見えていたの?」

『ああ。君が少しでも安らかになればと』

「素敵な贈り物だったわ。ガリア」

『二度と会い見える事はないか?』

「ええ」

『君とはもう一度、今の世界について話してみたかった』

「私もよ。リーちゃんによろしくね」

『さらばだ、友よ』






 『ルルベルの釜』の破壊と共に広がった光は影の軍隊をさらい、草原に本来の静寂を与えていた。


「――終わった……のか?」


 いつの間にか『風破』が止まっていた騎馬連隊からは戦意が消え、草原の民へと戻っている。

 いつもの静寂。しかし、焦げた青草と死した者達の骸はあちらこちらに残っていた。

 先の戦いは夢ではなく、現実であると物語る。


『皆、勝ったよ』


 シャロンが空から舞い降り、自分たちの勝利を告げる。

 その言葉に今はその場の全員が歓喜の声を上げた。


「ディザロアも、ご苦労様」


 人形へ成ったシャロンは疲れたように座っているディザロアへ話しかける。


「……シャロン、『ルルベルの釜』を破壊した」

「やっぱり」


 亜空間と影の軍隊の消失は、そうじゃないと説明がつかない。


「君の“呪魂”は思ってる以上に底が見えない力だ」

「……最後に『歪の魔王』と話した」

「なんて?」


 あの時の彼女の眼。それは、他の『魔王』から向けられた慈愛のものと何ら変わらなかった。


「私は世界で最も『歪』なんだと」

「それ、多分褒め言葉だよ」

「……『魔王』の感性はよくわからん」

「ハハ。それで、この戦いのもう一人の立役者は?」


 シャロンの問いにディザロアは嘆息を吐きながら答える。


「……さぁ。よく解らない」


 亜空間から戻るとき、やることがある、と別の場所に向かったファウストにその事を聞いた。

 しかし、彼は『人型強化装甲』で顔を覆いただ一言――


 “任務を完遂する”


 と、今まで聞いたことの無い声色で告げ、背を向けていた。

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